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9話 フェル勲章と消えた存在

 翌朝目覚めたリアは、すぐ横に大きな影がある事に気が付いた。

 

 朝日を遮る影の主は、青い瞳を眇め、綺麗に笑った。

「リア、目を覚ましてくれて良かった。寝顔も愛らしいけれど、俺を見つめる瞳はまた格別……」

 そう言いながら、その人……この国の第2王子ルーカス殿下は鼻を押えた。


『コイツ、鼻血垂らしてやがる』

 ライゾやめて!王子様のイメージが壊れるから!!確かに変人っぽいけども!

 それでもリアは、ちょっと心配になって、自分の上にかけられていたサラサラする布を差し出した。

 

「大丈夫?」

「ああ、心配には及ばない。顔を洗ってくるよ。それとリリア穣、そのストールは、君へのプレゼントだから、使ってくれると嬉しい。いいか?君への贈り物だよ」

『2度言ったな』

 ライゾが笑ってる。ルーカス殿下は、そのまま耳まで真っ赤にして退場。リアはその背中にお礼を言った。

「……ありがとう」

 布団、なかったからかな?でもリア、布団はサラサラより、もふもふの方がいいと思うの。ってか、何でこの国の王子様がお菓子工房にいるの?

 

『リア、おはよう!今日もスコーン焼く?』

 カナが元気に呼んでる!そういえば、森から帰ってきてからの記憶がない。という事は、ご飯、食べ損ねたわ!!

 リアは思い切りストールを跳ね除け、立ち上がった。

「今日はパンケーキを作ろうと思うの!」


 パンケーキはふわふわの方が好き。

 リアは早速、たまごの白身と黄身を分け、卵白の方は、近くにあるビンの中に、そこらにあった謎の鎖と、レモンっぽいのを1滴入れて振りまくった。これで真っ白いメレンゲの出来上がり。黄身には砂糖を入れて、すり混ぜて……オセルとイングもいつもの様に精霊をポイッ!と入れてくれる。


『僕のギフトは役に立ったかい?』

 あ、昨日の優男風のイケメンさんね!

「ありがとう!神様が受け取ってくれたよ!」

 そんな声がしたけど。

『それは良かった。……神が!?』

 やっぱ、気の所為だったのかな?

 

 後は美味しくなーれ!の呪文を唱えながら、2つをさっくり混ぜて、手のひらサイズに分けながら丸く盛れば。


「カノ、弱火に出来る?蒸し焼きにしたいの!」

『分かったわ。イース!氷をオープンに入れて!』

 暗い色の髪をした、超綺麗系の女子妖精さんが、氷の精霊と共に魔法をオーブンに放った!途端にシュゥゥ――という音と共に物凄い湯気が立ち込める。

『急いで!リア、鉄板を!!』

 もうもうと湯気の立ち上る中、リアは急いでパンケーキをオーブンに入れた!

 

「……何事か!?リア――!!」

 焼き上がりを待つ事数分。ルーカス殿下が戻って来た。慌てた様子で部屋を覆う湯気を掻き分け、リアを胸の中に庇う。


「大丈夫だよ!これはスチームオーブンだから!」

 大きな体に包まれてドキドキするも、こうしてはいられない。焼きすぎては、せっかくのパンケーキが萎れちゃう!

 

「オーブンから出すの、手伝ってくれる?」

「……あ、ああ。待っていろ」

 見上げればルーカス殿下は耳まで真っ赤。嬉々としてオーブンに火かき棒を突っ込んで鉄板を引き出してくれた。

「……見た事のない食べ物だな」

 プルンとパンケーキが揺れてる!大成功だ!


『何コレ!!美味しそう!!』

『うぉぉぉぉ――!』

 妖精さん達のテンションも爆上がりよ!

「手伝ってくれてありがとう。ルーカス殿下も一緒に食べる?」

「……いいのか?」

 キラキラと顔を瞬かせる王子様は子供のようだ。

 早速お皿に分けて、メープルシロップ的なのをかけて、果物を添えれば!

「ふわふわパンケーキの出来上がり!」

 

「リリア!何この湯気!今日の朝ごはんは斬新だね!!」

 いつもの様にアンリが飛び込んで来た!でも今日は慌ててその場で膝を着く。

「ルーカス殿下!失礼致しました!」 

 え?王子様に挨拶ってこうやるの?……次から頑張ろう。

 でもね、今はそれどころじゃないのよ!パンケーキが潰れちゃうから!リアは急いでアンリの腕を引いた。

 

「アンリ、早く早く!潰れちゃう!」

「いや、リリア。今日は……殿下が……」

 リアは立とうともしないアンリを睨みつけた。

「せっかく作ったのにっ!!」

 

 ギ――ッ。

 その時、ルーカス殿下が椅子を引く音が不気味に響いた。

「アンリ・エヴラール。座れ」

 地を這う様な声だ。

「……はい。殿下」

 アンリが座って、何だか微妙な空気だけど、これでパンケーキタイムに突入よ!!

 

「美味しぃ――!とろけるぅ――!」

 ほっぺを押さえて感激するリア。

「可愛いいっ!!こんな幸せに再び出会える日が来るとは……!!」

 殿下?泣いてないで、早く食べて!!

「リリア。僕、毎日これがいいや……いや、殿下。誤解しないで……これは言葉のあやでして」

 3人と妖精さん達で、パンケーキはあっという間になくなっていく。最高の朝ごはんよ!


「おや?いい匂いがするね」

 ここでイーヴさんが部屋に入って来て、席に着いた。

「なるほど、これが噂の……。で?僕の分は、勿論あるよね?」

 しかしパンケーキは残りわずか。リアは自分の残りをイーヴさんの口に運んだ。

 

「あ――ん!」

 イーヴさんはノリノリで……パクリ。

「……最高だな。好きになりそう」

 腹にクるいい声だ。赤くなるリアに、ルーカス殿下が突然、腰の剣に手をやり立ち上がった!

 

「イーヴ・プロスペール!表に出ろ!今日こそは貴様と決着をつけてやる!」

 しかしイーヴさんはペロリと妖艶に唇を舐め、目を細めて殿下を見た。そんな仕草も驚くほど尊い。

 

「ルーカス殿下、ここは近衛騎士団の極秘施設のはずですよ?権力を振りかざして警備室を突破したという事実を、我が近衛騎士団が法的に咎めても、文句は言わないでくださいね」

 うっ……と殿下が呻く。

「……という事で。 アンリ!!その不法侵入者を叩き出せ!次はないぞと騎士団に警告文を送るんだ!」

 ルーカス殿下は慌ててリアの肩を抱いた。

 

「待ってくれ、イーヴ!2週間ぶりに取れた休みなんだ!今日こそはリリアと……頼む!!」

 涙目だ。

 流石、女好きと噂されるだけある。綺麗な金髪の王子様に抱き寄せられ、リア、ちょっとドキッとしました。でも、ルーカス殿下、こんな所で媚びを売ってていいの?昨日の事もあるし、早くオレーリアの所に行った方が……。

 

「はあ!?殿下は何を言っているのかな?身辺整理も出来ない貴方に、リリアを預けられる訳ないでしょう?」

「それは、お前が仕組んだんだろ!!お前のせいで俺はあの女に縛られて……」

「オレーリア穣は熱烈だね」

 大人な会話だ……。リアは思わず下を向いた。

 

「あ、そういえば殿下。今日は朝イチで全校集会だって言ってましたよ!」

 いたたまれなくなったのか、アンリが話を逸らしてくれた。しかし、片付けを始めたアンリに向けられたのは2人のイケメンの冷やかな目。

 イーヴさんは、チッと舌打ちしてた。どうしたの?

「アンリ……お前……」


「そろそろ出ないと間に合わない……って、イーヴさん、僕、何かしました!?……どうして殿下まで目を逸らすんですか?」

 リアは逃げる事にしました!

「あ!リア、すぐに用意するね!!全校集会、楽しみだなぁ――」

 白ローブ、目立たないといいな。

 

 こうしてリアとアンリは、何故か不機嫌な2人を後ろに引き連れて、全校集会の会場である、野外円形劇場へと向かったのだった。



 数百人は入るあろう野外劇場の観客席は満員。黒ローブと白ローブの入り乱れた状態だった。これなら目立たないね!

 リア達はギリギリセーフだったみたいで、最上段にある出入口付近の席にこっそり着いた……つもりだけど。

 ざわめきが広がる広がる。

 

「ルーカス殿下とプロスペール様が御一緒におられるなんて!」

「アンリ様まで……絶景ですわ!」

 めっちゃ視線を感じるんですけど!?集会、始まってるよ?みんな前を見て!!

 リアは頑張って小さくなると、出来るだけ3人から距離をとって座った。見下ろせば、壇上では学園長さんがこっちを向けと言わんはばかりに声を張り上げていた。

 

「聞けぇ――!昨日、北部森林にて闇の暴走が確認された事は、既に皆の耳に入っている事だろう。現在、その原因は調査中だが……ただひと――つ!分かっている事がある。それは此度の危機を救える存在が、我々の元に現れたという事実だ!」

 さすが劇場。声が通る。学園長様はノリノリだ。

 しかしリアが楽しめたのはここまでだった。

 

「……オレーリア・オデール。カレン・デルオニール!前へ!!」

 お?もしかしてこれって、昨日の?

 リアも呼ばれちゃうのかな?って身構えると、後ろから、オレーリアとカレンが降りて来た。


 2人共いつもより気合いの入った服装……礼服っていうの?刺繍の入ったローブを着てて、とても凛々しく見えた。オレーリアが元気そうでホッとするも、一瞬、リアに向けられた険悪な表情が、夢に出てきそうなレベルで怖かった。これはルーカス殿下のせい。

 

 2人はリアの横の、絶景に向かって一礼すると、にこやかに学園長のいる壇上へと下りて行った。学園長様の前に進むと、会場は静まる。

 

「オレーリア・オデール。此度の魔の暴走止めるため、自らの身を投げうち、魔を浄化したその功績を称え、フェル勲章を与える!……ご苦労だったな。そして、カレン・デルオニール。自らの危険も顧みず、友の命を救った功績を称え、フェル勲章を与える!……素晴らしき友情に感謝を!」

 学園長様の手には、キラキラ光る鎖の着いた星の紀章があった。それが、恭しくオレーリアとカレンのローブに付けられると、会場に拍手が沸き起る。

 胸に付けられた小さな流れ星が揺れ、2人は誇らしげに皆の前に立ち、手を振った。


 あれ?昨日、あの場所には、リアもいたよね?

 確かリアはあの時、オレーリアを助けようと……。

 もしかしてリアの事、忘れてる?いや、リアが居たってこと自体、なかった事になってるみたい。

 

 勘違いだったのかな?夢オチとか?

 自信がなくなってアンリを見上げると、ツ――っと目を逸らされた。


 ――いくら頑張ったって無駄よ。リリアは忘れられた存在。何をしても、全てかき消されてしまうの。諦めなさい……。

 リリアの意思が頭に響き、胸がツキンと痛んだ。これは私自身の痛み?


 壇上から降りてきた2人には、賞賛の声が次々にかけられている。

 オレーリアが生きてて良かったと思う。でも、リアは今、何となく誰にも会いたくなかった。だって、自分が助けたつもりでいただなんて……リア、思い上がってたんだね。恥ずかしいわ。

「結局リアは何も出来なかったのかなぁ……」

 リアの呟きに、アンリでさえも気まずそうにしている。


 会場では、学園長様のスピーチが続き、盛り上がりは最高潮。

「では、2人の活躍もさることながら、日々、ダンジョンから溢れる魔物を討伐して下さる王国騎士団と、王都を護って下さる近衛騎士団の存在を忘れてはいけない。よって、今日ここにおられる御二方に代表して頂き、感謝の意を称したいと思う。全員、起立――!」

 いたたまれなくなったリアは立ち上がった。

 

「リア、今日は1人で学園を見て回るね!」

 リアは3人に手を振った。

「え!?」

「リリア穣!待ってくれ!」

 慌ててルーカス殿下が立ち上がってた。その横では何故かイーヴさんまで慌ててる。

「待って、リリア。少し話を……!」


「王都の騎士団代表、騎士団副団長ルーカス・フェル殿下、近衛騎士団長イーヴ・プロスペール閣下に敬意を!敬礼――!」

 再び注目を浴びる3人を置いて、リアは出入口まで走った。集会が終わりを告げ、我先にと退場する生徒たちの波に乗れば、小柄なリアなどすぐに大衆に紛れてしまうんだよね。

 

『お前の価値も分からぬ連中など、放っておけ』

 人混みの中、ライゾが慰めてくれるけど、リアの価値など最初から無に等しい。いつかルーカス殿下が言ったように、リアはただの愚民だ。ちょっとチヤホヤされたから勘違いしてただけなの。

 

「せめて魔法が使えたなら良かったのに」

 オレーリアやカレンの様な魔法を……って、そこまで考えて、リアは立ち止まった。


 それ、何か違うくない?

 だってリアは、誰かに褒めて貰う為にオレーリアを助けようって思った訳じゃないもの。


 今までだって、リアは自分の信念に従って行動してたし、これからだってそうしたい。

 なぜなら、リリアが戻ってきた時に恥ずかしい思いをさせる訳にはいかないから!


 ……だとすれば、逆にこの状況、悪くないんじゃない?

 

「ねえライゾ。力を借してくれない?」

 人混みの波から逃れてそっと呟けば、髪の中から可愛い声がする。

『突然どうした。お前の力を軽視した愚かな人間共を、あっと言わせたいのか?』

 ライゾはいつだってリアのそばにいてくれる。だから、周りの評価なんて気にしない。リアには十分過ぎる価値がついていると思うから。

 

「違うよ。あのね、リア。ベルカナさんの事を調べようと思うの」

 昨日からずっと、ベルカナさんが言った事が気になっていた。沢山の妖精が捕まってるですって?その原因がカレンなら、リアは尚更放ってはおけないと思った。

「リアなら学園を自由に見て回れるし、情報集めるにはちょうど良くない?もし何かあっても、証拠は残らないみたいだし?」

 そうよ。存在が消されてしまうのなら、それを利用すればいい。

 リアの皮肉が分かったのか、ライゾは鼻で笑った。

 

『ふっ。確かに今のお前なら何をやっても咎められる事はなさそうだな。しかし……お前はあの女を避けると思っていたんだが……』

 ベルカナさんを調べるとなれば、カレンに近づくしかないからね。でもここで気を使わせる訳にはいかない。リアは余計に自分を奮い立たせた。

 

「カレンがリアと同じ世界から来たのなら、カレンにも妖精が見えているのかもしれないでしょ?ってか、絶対、見えてると思うの。だから、妖精さん達が動いちゃ危ないわ。捕まってしまうかもしれないし。その点、リアなら安心よ!カレンの知るリアじゃないもの、上手くやるわ。顔、変わってるしね!」

 顔どころか、心以外は何一つ同じ所はない。だからバレない。絶対に。

 

『分かった。それなら俺も覚悟を決めるか!』

 何の覚悟だろう?でも、賛同してくれて嬉しい!

 リアとライゾは思いも新たに、高等部へと流れる黒ローブの集団に混じって行った。


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