席替え
ーうぅ…気まずい…。
席替えってどうしていつもうまいこといかないんだろう…。
「黒板見えない人もいないわね。じゃあ1ヶ月はみんなその席ね!」
担任からの声に反論する生徒もおらず、1ヶ月間教室の最前列で過ごすことが決まってしまった。
それだけならまだいい。前列といっても1番教室の窓際端の席だから。
問題はそこではない。
隣の席の林田君。
そこも問題ではない。
彼は転校生でおとなしいが、笑顔が可愛いおっとりしたいい子だ。
問題なのは…
「誠也が2番目とか邪魔でしかないじゃん!後ろ来なよ!」
「いいんだよ俺が黒板が見やすいんだから。端なんだから別に見えるだろ?」
絶賛クラスの女子に絡まれ中の、クラスの人気者
倉持誠也
彼が私の真後ろになってしまったことである。
私、畑中莉音の人生において、男性との関わりといえば父と兄、そして近所に住む同い年の男の子を合わせて3人だけだ。
もともと極度な人見知りであることから、同い年の男子から男の先生に至るまで、とにかく男性というものに対する免疫がない。
女性に対しても人見知りはあるが、ある程度気を使って優しく接してくれる女の子や女性教諭の方が、まだましだったりする。
かといって男性が嫌いなわけでもなく、小学校・中学校とそれなりに隣の席になった男の子とは仲良くなれることが多く、「意外と話しやすいよね、畑中って。」と言われるくらいにはいつも仲良くなれているのだ。
そう、いつもは。
しかし、今回後ろの席になったこの男の子は…
「畑中さん、よろしく!」
「…ぁ……はい……」
ハキハキ!キラキラ!
と、効果音がつきそうな彼に圧倒されて
冴えない返事をしてしまった…。
倉持君は、バスケ部だ。
身長がクラスの男子の中でも高く、モデル体型という感じだ。
よく漫画で見る王子様的なタイプではなく、爽やかなスポーツ少年という言葉が似合う。
実のところ小学校からの顔見知りで、家同士も3分圏内のご近所さんなのだが、今まで一度も会話をしたことはない。
何せ小学校の頃から常に男子の輪の中心にいるような人気者だ。おとなしい私が彼と交わる世界線があるわけない…とこの席替えまでは思っていたのだけど。
この席替えが
彼との関係を大きく変えることになるとは
この時の私はまったく想像していなかった。