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超能力で魔王退治  作者: 竺原伶
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牢獄ホテル

 ◆牢獄ホテル

「サム坊。こりゃあ、一体全体何がどうなってんだ?」

 満足に寝転べないほどに狭い牢屋の中。小窓から覗く薄い月明かりの下。ティリオンは、ひたすらに困惑していた。

「超能力がどうって言ってたがよぉ。まさかオレたち、超能力者になっちまったのかぁ?」

「そうかもしれない、ティリオン」

「……マジ?」

「——うん」

「ちょっと待て、サム坊。超能力は非現実的なものだ。なんで、そんなものをオレたちが手に入れる?」

「えと、ミアセラさんが言うには——」

「あー、分かった」

「え、分かった? 今ので?」

「おうよ。今のオレとお前じゃ、この状況への理解度が違いすぎることが、よーく分かった。ミアセラなんてオレは知らんよ。だから、一から説明してくれ。オレの目の前で、お前が攫われていったところから」

「あ、うん」

 意識を三日前まで戻し、実体験していないティリオンでも分かるように順を追って説明していく。幸か不幸か、僕は大半の時間を物置部屋の中で過ごしていただけだったため、説明には大した時間を要さなかった。

「りょーかい。オレたちは、お前を助けようとしたが間に合わず、死ぬはずの実験に巻き込まれた。けれど、なぜか失敗するはずの実験がうまくいって? 結局オレたち四人とも生き延びた、と」

「うん、そういうこと」

「しっかしなー。超能力? 現実味がねぇよ……」

「僕もまだ信じられないくらいだから……」

「それにしても、オレたち四人の中の誰かが超能力者かー。誰だろうな。オレか、お前か? あー、アリアは嫌だな。あいつが超能力なんか手に入れようもんなら、調子に乗ってオレたちを顎で使うようになるのが目に浮かぶわ」

「ま、まあそれは確かに……」

「でもって、サム坊は超能力者ってキャラじゃねぇしよ。ま、順当にいけばオレかローゼンだわな? けど、オレは超能力なんか使える気がしねぇなー」

 ティリオンはそう言いながら、手をぶんぶんと振り回した。おそらく、超能力を使おうとしているのだろう。

「超能力発動の呪文とかねぇの?」

「えと、それは聞かなかったかな……」

「おけおけ。こうか? いや、こうかもしれねぇな」

 ティリオンは、超能力を使おうとして、次から次へと不可思議なポーズを繰り広げていく……

「ま、まあ、本当に超能力なんか身についたのかも定かじゃないよ。もしかしたら、ミアセラさんの勘違いかも。ところでさ、さっきは僕の話をしたから、今度はティリオンたちの話を教えてよ」

「ん? というと?」

「僕が攫われてから、何があって、王城になんてやってきたのさ?」

「あー、それか。ま、大した話じゃねぇよ。お前が攫われたって言ったら、案の定アリアのお転婆糞野郎がブチ切れやがって……」

 容易に想像がつく。アリアは生物学上は女の子だが、気性は九割方の男性より荒々しいのだ。

「その後百悶着くらいあったんだが……、結局は王城に乗り込もうってことになったわけだ。オレとアリアとローゼンの三人でな。昔は地下労働場から抜け出そうして捕まったこともあったが、まあ今のオレたちなら余裕だった。

 だけどなぁ、地下労働場を出たはいいものの、城の警備が堅いのなんのって……。結局は、猫用の出入り口から侵入したんだがよ。あ、その時のローゼンがヤバかったぜ。胸がつっかえてな……。そりゃあ、眼福だった……」

 ローゼンの胸部を思い出しているのか、ティリオンは合掌しながら目を瞑る。

 胸の小さいことをコンプレックスにしているアリアがいたら、流血沙汰は避けられない絵面だ。

「えっと……、その後はどうだったの? 城に入って、バリスタンさんと会ったんだよね?」

「お、ああ。そうそう、おっぱ——じゃなくて、バリスタンさんな。あー、オレたち三人で城に忍び込んだはいいんだが、お前がどこにいるか分かんなくてさ。何日間か城の中を彷徨った挙句、今晩めっちゃ警備されてる部屋を見つけたわけだ」

「そこがバリスタンさんの部屋だったってこと?」

「そーゆーこと。オレたちの漢気を見たら、やっぱりお前を助けたくなったらしい。で、バリスタンさんに案内されてオレたちもお前のところまで来たってわけだ」

「なるほど……」

「いやー、色々と大変だったぜ。物置部屋にずっといたお前より、余程死線をくぐったな、こりゃ」

「は、ははは。まあ、本当にありがとう」

「んだよ、水臭ぇな、サム坊。オレたちは家族だろ? にしても、肝心のバリスタンさんの方は今どうしてるんだろな?」

 バリスタンは、僕らとは違って牢屋には連れて行かれなかった。ジョフリー騎士団長に拘束され、また別のところへと向かったのだ。

「分からない。無事だと、いいんだけど……」

「……まあな。——しっかし、今オレたちが心配してもどうにもならん! だから、そんなことよりお前も超能力が出るか試してみろよ。ほら、こんな感じで手を振って……」

「こんな感じって……。ティリオンも超能力が使えたわけじゃないでしょ。大体、まだ誰が超能力者なのかも分からないし……」

「お前はさっきからそう言ってるがよぉ……、じゃあ、オレたちの中の誰かが超能力者だとしたら、誰だと思うんだ?」

「僕たちの中の一人? んー、それなら……、ローゼンかなぁ」

「おいおい、あの巨乳はもはや超能力ってか! かーっ! とんだムッツリ野郎だな、サム坊は!」

「そ、そんなこと誰も——」

 その時だった。

 ドン! と何かが破壊されたかのような騒音が響いた。

「サム坊! なんだ、今の音は?」

「分かんない。……でも、隣から聞こえた気がする……」

「だよな。アリアとローゼンの房からか? 大丈夫なのか、あいつら?」

「わ、分かんない」

「おい! アリア、ローゼン! なにがあった!」

 ティリオンは、壁を強く叩きながら叫んだ。

 答えがない。なにか一大事が起こったのではと気を揉んでいると……、やや間が空いてから返事があった。アリアの声だ。

「よく分かんないけど、あたしは特に平気。大きな音がしただけ」

「そ、そうか。ローゼンは?」

「……」

「ローゼン?」

「わ、私も大丈夫、です。気にしないでください」

「そうか。なら、良かった」

 ティリオンと僕は、ほっと一息ついた。先程の音は、牢屋ではなく、また別のところから聞こえた音なのかもしれない。

「にしても、思ったよりこの壁薄いじゃんか! 声届く!」

 アリアの声だ。元々声量の大きいアリアが声を張り上げているため、馬鹿みたいに耳が痛んだ。

「みてぇだなぁ!」

 負けじと大声を出すティリオン。

「なら、いっそのこと、この壁を壊せるかどうか試してみない?」

「ああ、やってみるか?」

「それは無理じゃないかな、アリア、ティリオン」

「さ、サムくんの言う通りです! それに、逃げようとしてるのがバレたら殺されてしまいます!」

 その時、ゆっくりとした足音と共に、巨躯が僕らの前に現れた。

「おお、こんな状況だっていうのに、騒がしいやっちゃなぁ、お前さんたち」

「ぐ、グレガーさん……!」

 相変わらず、僕の背丈ほどもある金棒を持つグレガーは、僕の顔をじっくり見つめる。

「おう、餓鬼。まさか今世でまた会うとはな。悪運の強いやっちゃ! はっは!」

「グレガーさん、もしかして……」

「お前さんを助けに来たかて? ちゃうちゃう。真逆や。お前さんがた、解剖の時間やで。錬金匠ミアセラのお呼びや」

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