表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力で魔王退治  作者: 竺原伶
5/16

天国への途上で

 ◆天国への途上で

 死が僕を呼びに来た。

「おう、奴隷の餓鬼、時間や」

 巨人。昨日のグレガーとかいう巨人が、扉を開けてそう言った。

 今日は満月。そして、既に日が暮れ始めている。つまり……

「もう少しで僕は死ぬ……」

「せや。ほら、無駄口叩いてないで出て来ぃ」

「……分かりました」

「ワイの後をついて来ぃ。実験場までお前さんを連れて行ったる」

 そう言うと、グレガーは城を我が物顔に歩き出した。グレガーの一歩があまりにも大きく、僕はついていくだけで一苦労だ。しかし、そんな僕の状況にもお構いなしで、グレガーはどんどん進んでいく。ふと、ある考えが頭に浮かぶ。この様子なら、もしかしたら……

「お前さん、逃げ出そうなんて考えてないやろな?」

 図星をさされ、思わず立ち止まった。そんな僕にグレガーは鋭い視線を投げかける。

「ワイの図体は飾りやないし、ワイはこう見えて副騎士団長を務めとる騎士や。せやから、ワイが金棒を一振りすれば、その度にお前さんの四肢が一つもげると思っとき。殺したら怒られるけんど、逆に殺す以外なら何をしても問題ないって言われとるからなぁ」

「……はい、逃げません」

「随分と覇気のない返事やなぁ。ま、あと数時間で死ぬ餓鬼に覇気を求めてもしゃあないか」

「……」

「おい、そんな辛気臭い顔をすんなや。別にワイは、お前さんに怒っとるわけやないで。ワイだって、こんな状況に陥ったら逃げ出したくもなるわ。はっは!」

「そ、そうですか……?」

「せやせや。だからお前さん、そんなに畏まってワイと話さんでもええ。もうすぐお前さんは死ぬんやさかい、多少の無礼は目を瞑ったる」

 あまり悪い人ではないのか、グレガーは僕を気遣っているようだった。

「えと、それじゃあ、一つ質問してもいいですか?」

「なんや? 実験場までは暇や。答えられる質問ならなんでも答えたる」

 戦闘モードに入っていた昨日のグレガーは、まさに鬼のようだった。しかし、今のグレガーはそこまで話しにくい相手ではない印象を受ける。

「えと、バリスタンさんは、今どうしてますか?」

「おお、バリスタン老か。今は謹慎中や。お前さんが結局は逃げ出さなかったことを鑑みて、特に罰とかは与えられとらん」

「なら、良かったです」

「は、人の心配しとる場合か。もう少しで死ぬんやで、お前さん」

「そう、ですよね……」

「ま、ええわ。残り短い命をどう使おうと、お前さんの勝手やからな。他に質問とかはないんか? 答えたるで」

「それじゃあ……、あの、超能力ってどんなものなんですか?」

「超能力やと?」

「はい。僕で人体実験をして、その結果から超能力を生み出す錬金術を作るんですよね?」

「せや。そうやなぁ……、聞いた話やが、超能力は人によって異なるらしい。例えば、ワイの超能力は空を飛ぶやつで、お前さんの超能力は巨大化するやつ、みたいな感じやな」

「なるほど……」

「ま、お前さんには関係ないことや。お前さんは超能力を見ることなく死ぬんやからなぁ」

「そ、そうですね……」

「で、他に聞きたいことはあらへんのか?」

「じゃあ、あの、錬金術ってどんな感じなんですか?」

「せやなぁ。普通の錬金術は、よぅ分からん液体を使ったりして、石を金に変えたりするもんや。だが、今回の錬金術はなぁ……。どんなもんなんか、さっぱり知らん。ミアセラも、馬鹿には分からんって言って教えてくれんしなぁ」

「……あの。ミアセラさんって、本当に二十歳を超えているんですか?」

「はっ! 確かに、あんなに小さいと餓鬼にしか見えんからなぁ! だが、ああ見えて、ミアセラは大人やし、結婚もしとる。それに、この国で五本の指には入る重鎮や」

「そ、そうなんですか?」

「おぅ。伝説バリスタン、騎士団長ジョフリーと並んで、錬金匠ミアセラと呼ばれとる。小生意気やが、可愛いし優秀や」

「そうなんですね……」

「せや。……お、もう着くで。あそこや」

 グレガーは、廊下の突き当たりの扉を指差した。その扉の中の部屋が、実験場なのだろう。

 実験場は、一辺が十メートルほどの大きな部屋だった。中では、ローブを纏った数人の男たちが慌ただしく走り回っている。おそらく、実験の準備をしているのだろう。

「ん、やっと来たのです」

 部屋の中央で指示を飛ばしていたミアセラが、たたたっと駆け寄ってきた。

「グレガー、待ちくたびれたのですよ。ほら、サムウェル、あなたは早くこっちに来るのです」

「ほんなら、これでお別れや、餓鬼。次会う時は来世やな。ミアセラも、また後でな」

 そう言い残すと、グレガーは部屋から出ていった。対して、僕はミアセラに引っ張られて部屋の中央へと連れて行かれる。

「ここに立つのです」

 ミアセラが示したのは、部屋の中央に描かれた丸い円だった。

「これは……?」

「錬金環と呼ばれるものなのです。しかし、原理を説明してもあなたには分からないのですよ。ほら、早く円の中に入るのです」

 ミアセラに言われた通りに、僕はその円の中に立つ。

「それでは、実験の最終調整を始めるのです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ