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超能力で魔王退治  作者: 竺原伶
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満月の夜、あなたは……

 ◆満月の夜、あなたは……

「後で説明役の女がくる。それを待ってろ、餓鬼」

 男はそう言い捨てると、僕を小さな部屋に押し込んだ。その勢いのせいで、僕は思わず床に倒れ込む。それから、鍵のかかる音が聞こえてきた。

 僕は、一人閉じ込められた部屋の中を見回した。部屋は埃っぽくて、何に使うかも分からないような物体が所狭しと並んでいる。ここはおそらく、城の中にある物置部屋なのだろう。

「なんなんだ、一体……。城に入れたし、あの銀髪のおじさんは本物の王様なんだろうけど、それなら僕に何の用が……」

 いや、そんなことより……

「ティリオンは大丈夫か? 見た感じ、血とかは出てなかったけれど……」

 僕とは早九年の付き合いになるティリオン。四人家族の一人であるティリオンが、もし死にでもしたら……

「いやいや、人の心配をしてる状況じゃないよなぁ、どう考えても」

 部屋の小窓から覗く月を見つめながら、一人呟く。

「ん、思ったより落ち着いているようなのです」

 突然人の声がして、僕は驚いて振り返った。

 そこに立っていたのは、十二、三歳らしい、エメラルドグリーンの髪の少女だった。

「あ、あなたは……?」

「ミアセラの名前は、ミアセラ・アンというのです。あなたの名前はなんですか?」

「さ、サムウェル・ト……、です」

「サムウェル。了解なのです。ミアセラは、騎士団長野郎からあなたに事情説明をするよう頼まれたので、その役割を果たしに来たのです」

「騎士団長……?」

「会ってないのですか? 金髪の大男で、厳しい顔をしていておっかない、ジョフリーって奴なのですよ」

 厳めしい顔の真似なのか変顔をするミアセラに、僕は「ああ」と気付いた。僕を掴んで引きずってきた男こそが、騎士団長のジョフリーという人なのだ。

「その様子だと、分かったようなのです。さて、あまり長居はしたくないので短く済ましたいのですが、事情はどこまで聞いてるのですか?」

「いえ……、特には」

 正直にそう言うと、ミアセラはその童顔をしかめる。

「あの唐変木、ミアセラの負担を減らそうっていう気遣いはないのですか」

 唐変木……。騎士団長のジョフリーを唐変木呼ばわりとは、このミアセラという幼女も只者ではないのでは……?

「その目はなんです。さては、ミアセラのことを小さな子供だと思ってるのではないですか?」

「ち、違うんですか?」

「ミアセラは二十八歳です! あなたより余程年上です!」

 嘘だ、と反射的に言いそうになったが、堪える。年齢はともかく、偉いのは間違いないのだ。

「まあ、それはいいのです。若く見えるのは女の誉れなのです。さてと、無駄口はこれくらいにして、役目を果たすのです」

「役目?」

「あなたに説明する役目なのですよ。ん、何も聞いてないとなると、どこから話せばいいのでしょう……。あなた、幽王は知っていますか?」

「名前は知ってます」

「名前だけ、ですか。頼りない答えなのですよ。仕方ない、ミアセラが一から教えるのです。

 幽王、別名『荊棘の君』が現れたのは、六年前のことなのです。奴は、たった一年で王国の対抗勢力をかき集め、支配下に置いたのです。それからも、勢力を拡大し続けると同時に王国への侵攻を繰り返し……、そして、なんと三年前にはついに王国領土の三分の一を獲得したのですよ」

「三分の一……」

「三分の一とは、一を三つに割ったものなのですよ。ん、それくらいは知ってる? 失礼したのです。それで……、たった三年で三分の一の領土を取られた王国は焦り、ミアセラたち錬金術師に無茶振りをしてきたのです」

「錬金術師、ですか?」

「そうです。科学と魔法の狭間と呼ばれる錬金術。ミアセラたち錬金術師は、そうした錬金術を修めた集団です。その中でもミアセラは一番上手で、錬金匠を務めているのですよ」

「な、なるほど?」

「ん、脱線したのです。王様の命を受けたミアセラたちは、ある特殊な錬金術の開発に励んだのです。それは、人に超能力を与える錬金術。錬金術で超能力者を作り出し、その超能力者たちで幽王に対抗するという作戦なのです。しかし、それには一つ問題があるのです」

「問題、ですか? えっと……超能力を一度に多くの人には与えられない、とかですか?」

「ん、それも確かに問題の一つなのです。中々に鋭いのです。確かに、複数人が錬金術を受けても、超能力が発現するのは一人だけ。これは、確かに解決しなければならないのです。しかし、ミアセラが言っている問題とは、もっと根本的なものなのです」

「根本的……?」

「そうなのです。実は、その錬金術はまだ不完全なのですよ。ほとんど出来上がっているのですが、まだ詰めが足りないのです。一度人体実験をやってみて、その結果を見て微調整を行わないと、錬金術は完成しないという訳なのです」

「人体実験、ですか」

「なのです。ただ、ここにも一つ問題があるのです。この錬金術の力は強大なので、微調整前の錬金術実験を受けると、ほぼ確実に被験者は死ぬのです」

「つまり……、幽王を倒すためには錬金術が必要で、その錬金術を作るには一人の尊い犠牲が必要だと……」

「ん、理解が早くて助かるのです。いやぁ、それにしても、自分のことを尊い犠牲と言うなんて、少しイタい奴なのですよ」

「え……?」

「ん、そこまで理解はしてなかったのですか? 錬金術完成のために必要な人体実験の被験者、それがあなたなのです。国王陛下が、生きていても役に立たなそうな人を見繕ったそうなのです」

「え……、え……?」

「実験は満月の夜にしか出来ないので、三日後の夜なのです。それまで、大人しく待ってるのですよ」

 そう言って、ミアセラは部屋から出ていこうとした。

「ちょっと待って下さい! 僕は……、僕は、死ぬんですか?」

「罪もない人を犠牲にするのは心が引けるのですが……。ん、死んでくださいなのです」

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