ドナドナ
◆ドナドナ
「そいつでいいだろう。ほら、そいつだ。あのヒョロっとしていて、何の役にも立っていなさそうな餓鬼」
そんな声が聞こえてきたのは、僕が鉱石運搬の仕事をしている最中のことだった。随分と酷く罵るものだ、と思って声の主に目を向けると、なぜかその男と目が合った。
つまり、その男が悪し様に形容していたのは僕だったわけだ。そのことに気づいたのも束の間、兵士らしき金髪の男が僕に向かって歩み寄ってくる。
「あ、あの……? 何の御用で?」
服装からして、僕を罵った男は貴族。そして、僕に近づいてくる兵士は、その貴族の部下だ。奴隷の僕が彼らに下手なことを言えば、文字通り首が飛んでしまう。
兵士らしき恰幅のよい大男が話しかけてきた。
「陛下が貴様を所望した。抵抗せずについてこい」
「陛下? 所望?」
「国王がお前を呼んだ。こう言えば分かるか?」
「こ、国王……? あの……、理由、は?」
「いずれ分かる。ついてこい」
男は僕の首根っこを掴むと、そのまま引っ張っていこうとする。その男の前に、オレンジ髪の少年が立ち塞がった。
「ちょ、ちょぉっと待って下さい!」
「誰だ、貴様は?」
「ティリオンです」
「で、誰だ?」
「あー、貴方が今触ってます、サムウェルの兄貴みたいなもんす」
「それで? 何用だ?」
「いやー、ほら、サム坊はオレと一緒に働いている途中でして……。今抜けられると困るんすよ」
「よく分かった。ほれ、これをやる」
そう言うと、男はティリオンに一枚の貨幣を放った。
「この餓鬼の働きなんぞ、銅貨一枚で足りるだろう。俺様は急ぐ、邪魔するな」
「だ、旦那! お金の話ではないんすよ!」
「じゃあ、なんの話だってんだよ、このクソ餓鬼?」
「サムウェルはオレの家族なんす。だから、なんというか、その……、理由も告げずに連れていかれるのを黙って見ているわけにはいかないんです」
「歯向かうわけか、この俺様に?」
「必要、ならば」
「奴隷の分際で、舐めやがって!」
「そ、そっちこそ、このクソ貴族!」
ティリオンは無礼極まりない言葉を叫びながら男に殴りかかった。しかし、その拳が男に届くより前に、男が振るった鉄拳でティリオンは吹っ飛んでいく。
「——ティリオン!」
地面を転がるティリオンに駆け寄ろうとするも、男が僕を掴んでいるので動けない。
「チッ、無駄に吠えやがって」
男はそう言うと、最初に僕を罵った貴族……いや、国王のもとに僕を連れていった。
「ご苦労、ジョフリー」
「陛下、有難きお言葉」
「王城に戻るぞ」
「御意に」
「ま、待って下さい! ティリオンが怪我をしてる! それに、まだ連れて行かれる理由を聞いて……」
「うるせぇ、陛下のお耳汚しをするな! お前は黙ってろ!」
男に一喝され、僕はそのまま引きずっていかれた……