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超能力で魔王退治  作者: 竺原伶
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赤髪少女のお願い事

 ◆赤髪少女のお願い事

 起こされたティリオンと合流し、地下労働場の家に向かう途中、突然呼び止められた。

「おーい、ちょっと待って欲しいっす! アンタたちは、今からどこ行くっすか?」

 振り向くと、短い赤髪と首から下げた巾着袋を揺らしつつ走る、赤髪の女の子。イグリットだ。

「イグリット、さん? えと、僕らは家に向かってます」

「お、家っていうと、地下労働場っすよね! アッシも一度行ってみたかったんす! ついていっていいっすか?」

 地下労働場にわざわざ行ってみたいなどという謎の思想に触れ、僕らは困惑して顔を見合わせた。しかし、特に断る理由もないため、頷く。

「ありがとっす! いやー、迷宮案内人としては、同じく地下にある地下労働場が前から気になってたんっすよ」

「な、なるほど。そうなんですね」

「お、アッシに敬語を使う必要はないっすよ? アッシは知識を買われただけで貴族じゃないし、年齢も同じくらいっす。それに、これから一緒に旅に出るんっすから!」

「それじゃ、分かった。イグリット?」

「そう呼んでくれて構わないっすよ。アンタたちは、サムとティリオンで合ってるっすね?」

「ああ。こっちの頼りなさそうなのがサム坊で、イケメンなオレがティリオンだ」

「イケメン? ふはっ。あー、そっすね」

「流石に傷つくぞ、その反応は……」

「あれ? そう言えば、もう二人、女子がいなかったっすか?」

「アリアとローゼンのことだよね? バリスタンさんが、城のお風呂に案内してくれてて。僕らは特に興味がないから、先に家に帰ろうかと」

「ほほー、なるほど。ま、いいっす。これから長い旅っすから、話す機会もあるっすよね?」

「う、うん、そう思う」

「じゃ、行きましょう! 地下労働場へ向かうっすよ!」

 そう言うと、イグリットは首に下げた巾着袋を開け、何か丸い物を取り出すと口に放り込んだ。それから、地下労働場に向けて歩き出す。

「イグリット、今のはなんだ?」

「今の?」何かを舐めている様子のまま、イグリットは首を傾げる。「ああ、飴のことっすか。実家の妹が、アッシが出かけるたびに大量に作ってくれるんっすよ。で、アッシも飴が好きなんでよく舐めてるわけっす!」

「へえ、飴ねぇ。僕らじゃ、お祭りの時くらいにしか、食べれないよね」

「じゃ、二人に一個ずつあげるっすよ!」

 イグリットは再び巾着袋を開くと、赤と青の二つの飴玉を取り出して僕らに渡した。僕らはありがたくそれを受け取って口に入れる。

「あ、そうっす! 飴のお礼といっちゃなんですが……アッシ、超能力を見たいっす!」

 言われて、僕らはまたしても顔を見合わせた。考えてみれば、僕らは死にかけた時に力を発動させた時以来、意識的に力を使っていない。それどころか、僕に至っては、何の力があるのかも定かじゃないのだ。

「ティリオン、やれる?」

「うーん、やってみっか。飴のお礼らしいしな」

 ティリオンは大きく深呼吸をすると、手を前に突き出した。イグリットは、目をかっぴらいてそれを見つめる。

「出でよ、炎!」

 しかし、前に見たような炎は起こらない。

「おお、ん? 今、なんとなく、炎が見えた気がする……っす?」

「そ、そうかな? 僕は分からなかったけど……」

「いや、サム坊の言う通りだ。多分今のはうまくいかなかった。まだ一回しか出来てねぇし、練習が必要なんだと思う」

「そっすか? サムの方はどうっすか?」

「やってみる。えと、確か時間停止か瞬間移動、だよね」

 最初に超能力が発動した時——ティリオンを助けようと走り出した時を思い出しながら、目を瞑って手を握りしめる。

「移動しろ!」

 ……しかし、何も起こった感覚がない。そんな中、イグリットは首を捻る。

「おお、ん? なんとなく、二ミリくらい動いた気がする……っす?」

「多分気のせいだ、イグリット。サム坊、時間停止も試してみろよ」

「そ、そうだね。えーと、時よ、止まれ!」

 その時、世界がカチリと鳴る。

 困惑しつつ周りを見回すと……、時が、止まっていた。

 ティリオンとイグリットは僕の方を見て微動だにしていない。空を飛んでいた鳥は、今や羽ばたかずに宙に浮いている。

 時が止まってから、体感四秒ほどだろうか、僕が意図せずとも、再び時が流れだす。ティリオンとイグリットは瞬きをし、鳥は再び羽ばたいた。

「どした、サム坊?」

「今、うまくいった! 僕、時を止めたんだ!」

「本当か! 時を止めるって……すげぇじゃんか!」

「凄いっすけど、絵的には地味っすねー。アッシは見ても分かんなかったっす」

「なに? サムが超能力使えたって?」

 大声に驚いて振り返ると、アリアとローゼンが立っていた。

「あれ、二人とも、どうしてここに?」

「お風呂に行く前に、あんたたちにこれを渡さなきゃいけなくて」

 そう言って、アリアは何かが書かれた金属板を取り出した。

「地下労働場と王城の自由往復券。これがあれば、腕を斬られたり鞭打たれたりせずに自由に動き回れるってわけ。それより、サム、本当に時間を止めたの?」

「そうみてぇなんだ、凄くないか! オレの炎の方が凄いけど、サム坊もすげぇや!」

「ま、あたしの念力の方が凄いけどね!」

 ティリオンとアリアの二人が無駄な言い争いをする中、ローゼンが僕に近寄ってきて微笑んだ。

「やりましたね、サムくん!」

「うん、凄かったでしょ?」

「はい、凄かったです!」

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