旅の仲間
◆旅の仲間
目を開く。
真っ白な天井が広がっていた。
「こ、こは……?」
一体なにが起こって、僕はどこに連れてこられたのか……
「目を覚ましたか、サム殿」
渋い声が投げかけられ、そちらを見てみると……
「ば、バリスタンさん……?」
「おお、そうじゃよ。バリスタンじゃ」
「バリスタンさん、僕はどこに……? いや、それより、バリスタンさんは無事だったんですか?」
「儂の心配をしてくれるのか。はは、有難いのぅ。しかし、儂は無事じゃよ。ローゼン殿のおかげじゃな」
「ん……? ローゼン?」
なぜ、今ここでローゼンの名前が出てくるのか理解ができない。
「む。サム殿は、どこまで記憶があるんじゃ?」
「えっと……、グレガーさんにティリオンが襲われかけたと思ったら、ティリオンが燃え出して……。そうだ、ティリオン! ティリオンは無事ですか?」
「おお、おお。無事じゃよ。しかし……、そうか。そこで記憶が途絶えておるのか」
「あの……僕が気絶してから、何があったんですか?」
「ローゼン殿。彼女が、能力に目覚めたのじゃ」
「の、うりょく? どういうことですか? 超能力者は、アリアなんじゃ……?」
「そうか、そこから説明するべきじゃったか。すまなんだ。ミアセラは、一つ勘違いをしておったらしいのじゃよ」
「ミアセラさんが、勘違い……ですか?」
バリスタンさんはこくりと頷いた。
「ミアセラは、超能力は一人にしか宿らないと考えた。しかし、それは間違いじゃった。超能力は、お主ら四人、全員に宿ったのじゃ」
「——四人、全員」
ということは、ティリオンも、ローゼンも、そして僕も……?
「アリア殿が念力。ティリオン殿が操炎。ローゼン殿が治癒。お主の能力はまだ定かではないが、時間停止か瞬間移動じゃと考えられとる」
突然の情報に混乱するが、しかし同時に納得もする。
僕は、グレガーに殺されかけたティリオンを間一髪で助けた。それが、時間停止か瞬間移動の力。そして、僕に助けられたティリオンは燃え出した。これは、グレガーに殺されかけたティリオンの発火能力が目覚めたから……
「そして、ローゼンが治癒……」
「そうじゃ。ローゼン殿は、火傷したサム殿を治療したのじゃよ。それと……、恥ずかしい話なのじゃが、実は儂もジョフリーに激しく拷問を受け、死にかけておった。それを陛下の許可のもと治してくれたのもローゼン殿じゃ」
「な、なるほど……。僕ら全員が超能力者。そして、ローゼンの力で僕とティリオンとバリスタンさんは無事。なるほど。で、でも、なんで国王はバリスタンさんの治療を許されたんですか? それと、なんで僕らは生きてるんですか? 明らかに、もう夜だ」
外を見る。外は既に暗い。それはつまり、僕ら四人が超能力を手に入れた実験から一日経った証。国王の命令によれば、僕らは既に死んでいなければならないはず……。
「状況が変わったのじゃよ、大きくな。ここからは、他の者たちと共に話した方がいいじゃろう。少し移動するが、歩けるか?」
「は、はい。多分」
歩くこと約五分、僕はとある部屋にたどりついた。バリスタンに促され、その中に入る。
中にいたのは、八人の男女。ティリオン、アリア、ローゼン、ミアセラ、ジョフリー、グレガー、国王ロバート。それから、巾着袋を首から下げた赤髪の知らない男の子だ。
「サム坊、来たか!」
僕が部屋に入ると、ティリオンが真っ直ぐ駆け寄ってきた。
「良かった。ティリオン、本当に無事だったんだね」
「おうよ、オレはぴんぴんしてるぜ。オレは能力の特性上、火傷しねぇみたいだしな。それより、お前はオレに燃やされて死にかけてたが、治ったようで安心したぜ」
「う、うん。ローゼンの、おかげみたい」
僕がそう言うと、ティリオンは嬉しそうに僕の肩を叩いた。
「ああ、らしいな。サム坊、お前はどこまで話を聞いたんだ?」
「えと、僕ら四人が全員超能力者だって……」
「ええ、そうね。確かに、あんたたちも超能力を手に入れたらしいわ。けど、あたしのが一番強いと思う」
そう話に割り込んできたのはアリアだ。
「あたしの念力を使えば、火だって起こせるし。ティリオンなんか用無し」
「言ってくれるじゃねぇか、アリア。だが、オレの炎は随分と熱いぞ。試してみるか?」
「へぇ、いい度胸じゃないの。あたしとやり合ってみる?」
「やめんか、二人とも!」
やいのやいのと騒ぎ出した二人を、バリスタンが一喝する。
「若者は喧嘩っ早いからいかんのぅ。お主ら、大人しくすることを学ぶべきじゃ。それと、今の段階で一番役に立っとるのは、間違いなくローゼン殿じゃろうて」
バリスタンに怒られて、ティリオンは肩をすくめ、アリアは鼻を鳴らした。
そんな僕らの様子を見つつ、声を発したのはジョフリーだった。
「貴様ら、緊張感が足りんぞ。これが何の集まりなのか分かっているんだろうな? 今から、作戦の詳細を決めていくのだ」
「おお、そのことなんじゃがな、ジョフリー。サム殿には、儂らがなぜ集められたかの話をまだ説明しておらんのじゃ。じゃから、そこからもう一度話してくれぬか?」
「なぜ、俺様がその餓鬼一人のために声を発さなければならない?」
「我々はこれから、命を預ける仲間となるのじゃ。その態度は改めよ、ジョフリー」
「んだと、ジジイ!」
「ちょい待ちぃや、お二人さん。国王の御前やで。バリスタン老、ワイが団長さんの代わりに話すから堪忍してくれや」
「む。……了解した、グレガー。頼もう」
「ほな、何から話そか。餓鬼、お前さんがた四人ともが超能力を手に入れたところまでは知っとるんやな?」
「は、はい」
答えると、グレガーはなぜか首を傾げた。
「なんや、えらい他人行儀やなぁ、お前さん。……ああ、そか。ワイに殺されかけたことを根に持っとんのか」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「ま、殺されかけたことを根に持つなって方が難しいわな。けんどな、ワイはお前さんが嫌いなわけやないで。仕事だったから、仕方なくやっただけや。だから、堪忍な」
「なぜいきなり脱線するのです、グレガー! あなたみたいな奴に任せていたら、説明なんて一年経っても終わらないのですよ」
「ほんなら、お前がやりぃや、ミアセラ」
「ん、言われなくてもするのですよ。サム、よく聞くのです」
「……はい」
先程から色々と情報量が多い上に、語り手も次々と変わって混乱しているが、取り敢えずはミアセラの話を聞こうと耳を傾ける。
「今日の昼頃。あなたが眠っていた時間帯なのです。超能力錬成に用いる装置が、何者かに破壊されたのですよ」
「え、誰にですか?」
「分からないのです。取り敢えず、破壊された装置は錬金術に欠かせないものなのです。そして、その装置を作るのに必要な材料、ミアの花は六年に一度しか咲かない花なのです」
「六年に一度……」
「今からミアの花を育て始めても、次に花が咲くのは六年後。つまり、装置を再び作って超能力を開発するのに、最低でも六年かかるのですよ」
「でも、そんなに時間がかかると……」
「ですです。超能力なしでは、その六年で幽王がさらに勢力を拡大することは必定。絶望的な状況と言えるのですよ。しかし、幸か不幸か、装置が破壊される前に、あなたたち四人の超能力者が誕生したのです」
「な、るほど?」
「チッ。ミアセラ、貴様の説明はまだるっこしい」
ジョフリーが結局口を挟んだ。
「餓鬼、つまりこういうことだ。装置が破壊されたため、これから六年間超能力者は生まれない。だから貴様らの希少価値が上昇して、貴様らは死刑を免れた。しかし、貴様らがいくら希少だからといって、タダ飯を食わすわけにもいかない。だから、貴様らを利用することにした」
「えっと、利用、ですか?」
「利用っていうと人聞きが悪いが、要は超能力者に元々期待されていた役割を果たせってことだ、サム坊」
「ティリオン? どういうこと?」
「要するに、オレたち四人に幽王を討伐させるってことさ」
つまり。
錬金術の装置が破壊されるという偶然によって、僕らは殺されずにすんだ。しかし、その代わりに、僕らの後に生まれる超能力者たちが果たすはずだった、幽王退治という役目を負うことになった、と。
「しかし、お主ら四人だけに大役を任せるわけにもいかぬ。そこで、お主ら以外にも五人が幽王討伐に赴くことになったのじゃ」
「バリスタンさん? 五人って……」
「儂と、ジョフリー、グレガー、ミアセラ。それから、道案内のイグリットじゃ」
バリスタンは、順々に指をさしていった。僕が見たことなかった少年が、道案内のイグリットらしい。
イグリットと呼ばれた彼は、バリスタンに指差されると勢いよく手を挙げた。
「おっ! ようやくアッシの話題になりましたね! ちっす、アッシはイグリット! 迷宮歴は十六年! 迷宮のことならアッシにお任せ!」
と、やかましいその声に、僕はようやくイグリットが彼ではなく彼女だと気付いた。イグリットは、赤い髪の女の子だったのだ。
「説明は終わったようだな」
今まで沈黙を保ち続けていた国王が立ち上がり、口を開いた。
「全くもって不本意な形とはいえ、超能力者がそこの四人しかいない以上、このメンバーで幽王討伐を成し遂げねばならない。超能力が再び創造可能になるのは、早くとも二年後。しかし、二年あればこの国は滅びかねない。つまり、もう失敗は許されない。絶対に、今回の作戦で幽王を殺さねばならないのだ」
すーっ、と国王は息を吸う。
「九人の兵たちよ、この国の命運を、汝らに託す‼︎」
??の能力者、サムウェル。
操炎の能力者、ティリオン。
念力の能力者、アリア。
治癒の能力者、ローゼン。
伝説の剣士、バリスタン。
錬金術を修めし者、ミアセラ。
短槍使いの猛者、ジョフリー。
金棒振るう鬼の巨躯、グレガー。
迷宮案内人、イグリット。
かくして、旅の仲間は集った。