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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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夜道には気を付けて

 どうしてもだと懇願されれば、差し出すのが、優しい人間なのだろう。優しい人間とは裏を返せば、馬鹿を見る人間だ。優しさは馬鹿になるのに、馬鹿は優しさにはならない。言葉と行動とは矛盾し続けるものなのだと、達観した気になる。



 この独自の結果を踏まえて、私は優しさを振りまくのか、馬鹿になるのかを選択しなければならない。



 あれから、日もとっぷりと落ちて、下校時間を少し過ぎた夜の下校道。蝶番井との問題を反芻しながら、彼女が本当にやりたかった事を、絞り当てようと、要点をメモした携帯とにらめっこしながら、とぼとぼと歩いていた。



 蝶番井は土下座を強要したかった訳じゃない。これは本人達が言っていたし、決闘の行動の表れから見て真実であろう。土下座は形式だけで、謝罪を求めている訳ではなかった。



 私が規律違反をした。これはいちゃもんだ。土下座をさせたいが為に蝶番井が口八丁で嘯いた、頷きたくなるような詭弁。



 蝶番井はすべて本当のことを言っているはずだ。私の質問にも、嘘偽りなく答えているはずだ。敵でもない、クラスメイトに卑怯な手を使うはずがない。蝶番井稟慈は敵に容赦がないが、敵と認識されていない間は、手段を選ばないえげつない事はしない。



 彼女が一つ淡々と答えられなかった質問がある。それは、何故私が土下座をしなければならないのかという質問に対してだ。彼女は考えてから、私の為だと答えた。それが本心ならば、初見の感想同様に、真に意味不明だが、落ち着いて考えてみよう。



 土下座という謝罪が私の為になる。のではなく、土下座という行為が私の為になる。のならば、どうだろう。



 変わらないか。



 違う観点から見てみよう。もう一つ気になるところがある。それは式神決闘の結果だ。結局、久薇羅に一発撃たせただけで、たま様が動く前に自ら白旗をあげた。まるで、あの一発が全てに終止符を打ったかのようだった。



 だとすればだ、あの久薇羅の一発が、土下座と同等の行為だったと言える。土下座と、あの攻撃がどういう接点として結びつくのだろうか。



「・・・あぁ! もう! 私はシャーロックホームズじゃないっての!」



 ぐっちゃぐちゃになり絡まった毛糸を紐解くのが鬱陶しくなったので、携帯電話から目を離して、顔を上げる。街灯の光の遥か頭上に、何でも知っている一等星がキラリとあざ笑うかのように光っていた。



「私はワトソン君にも及ばない凡人だよ」



 そう腐ったように呟いてから、ほの明るい携帯画面へと視線を戻す。



 人間関係のことばかりを毎日考えていたが、今日ほどに考えて、疲れた日はない。今日は厄日だわ。なんて海外映画の翻訳ばりに言ってみたりしたい。



 なので、日課である掲示板を閲覧して、返信するのはお休み。閲覧だけにしておこう。



 掲示板にアクセスして、朝と同じように、上から下へと流し読みをする。掲示板では、私と蝶番井のことで持ち切りであった。私が蝶番井に喧嘩を売った。とか、式神決闘でボコボコにして私が勝ったとか。微妙に嘘を混ぜた真実が書かれている。



 蝶番井は見世物として、式神決闘をする時としない時がある。今回は明言していた通りに、見世物ではない。だけども、こうして外に情報が洩れているのは、監視している人物がいるからだろう。大方C組の誰かだ。



 掲示板では私が蝶番井に勝利したとされている。問題なのは、その勝利の報酬内容だ。蝶番井家の庇護を受けるやら、学校生活中は下僕にしたやら、かなり過激なことが書かれている。一番過激なのは、蝶番家の当主に成り代わるだ。こんな書き込み、本家の人たちに見られたら、匿名の戯言でも命に関わるんじゃないかと、知らぬ誰かを危惧してしまう。山田の刀が脂を帯びるのは想像したくない。



 どこかの誰かに、心の中で手を合わせながら、最新の書き込みまで追いつく。



 何でもない書き込みだった。だけど、渦中にいたからか、今日という日を忘れられない日にしたかったのか、その文字は目に留まった。



『アルカードが怪異と闘っていた』



 アルカード。アルカード・ヴラド・ラキュラ。今回の騒動の原因でもあり、海外からの転入生。陰陽師の卵が集まる学校だ。彼が呪詛師だろうが、祓魔師だろうが、エクソシストだろうが、聖十字軍だろうが関係ない。この街へやってきたということは、怪異と対峙することができる、何かしらの普通ではない者だ。だから、この書き込みは普遍的な書き込みだ。



 考えている間にも掲示板の書き込みが更新されていく。



『どこで?』

『第三公園近く』

『第三公園? 近いけど物音も何もしない』

『ガセか』

『結界あるぞ。しかも上位の』

『認識できないんだけど?』

『程度がしれるなw』


 

 人間が帰路に着くとき、それは経験と習慣によるものだ。携帯を見ながら、人通りを避け、通学路としている閑散な住宅街や、野畑を街灯の道しるべの下に歩けば、気が付いたら我が家に辿り着いているのは、よくあることだ。



 しかして本日の私は、嫌なことがあり、家に帰ってもあの傲慢猫が待っているかと思うと、帰宅も億劫になる。自然と足は、憩いを求めていたのだろう。幸か不幸か、第三公園は私の通学路の間にあり、日が落ちれば住宅街から離れているために人もおらず、この世で一人だと知らしめ、戒める為の憩いの場所だった。



 第三公園と書かれた看板と、掲示板を交互に見る。



 人払いの結界が敷かれているらしいが、それらしい反応はない。掲示板で触れられているが、私も結界術はてんでわからない。そこらの一般人よりは知識はあるけども、実用となれば、それなりの道具が必要になる。だから肉眼で捉えることはできない。



 月明りと、第三公園の電灯の明かりを頼りに、目を凝らして見るも、動く人影や、誰かがいる気配はなかった。ただただ自然がそこにあるだけだ。ただ、不自然なのは、虫の音が一つもなく、異常にしんと静かだということだ。



 風もなく、何もない。静寂が目の前にあった。ゴクリと、生唾を飲む音が非常にうるさかった。



 掲示板ではアルカードの出身校の話になっていたが、傍目に見た後に、携帯をライト代わりにして、猫を殺したがりな私は、第三公園へと足を踏み入れた。


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