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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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頭を抱えたいのは全員

 これが、私が散々悩んで導き出した答えだ。蝶番井稟慈が私に怒りを覚えている理由が分からない。分からないのなら、自分で導き出すのを試してみたけど、それでも分からない。



 だから、訊ねた。

 何に怒り、何をすれば留飲を下げてくれるのか。はたまた許す許さないの域を超えているのか。それさえ理解しない前に、土下座や謝罪は、考えを放棄し、相手をただただ侮辱した愚かな行為である。



 ピシッと蝶番井の額に青筋が一本浮かび上がる。山田が見下ろす視線が、人を斬れるくらい鋭い。小さく呪詛のように四月一日が暴言を吐いている。それぞれ腹八分目以上のご立腹でいらっしゃる。



「別に煽っている訳じゃなくて、純粋に、どうして怒っているのかが、私には理解できないの。どうしても蝶番井さんが私に土下座を要求する程の事を、私がしでかした事柄の中にはない」



 これもまた煽り文句に聞こえるかもしれない。怒りで支配されているならば、そのまま私のように手がでるかもしれない。だけど蝶番井稟慈は、そういう人間性ではない。



 額を抑えて蝶番井は大きくため息をついた。



「理解できていないのなら仕方ないわ。誰も教えてくれなかったのものね。貴女の友人でさえも。いいわ。この状況を理解できるように教えてあげる」



 彼女は話せば分かるのだ。ただコミュニケーションを自分本位に簡略化する厄介者なのだ。



「貴女はルールを破ったの。今朝、アルカード・ヴラド・ラキュラ君を貴女が叩いた時、私は学校命令で彼の案内をしていたの。アルカード君が貴女にした行き過ぎた医療行為の事も、物部が吹っ掛けてきたのも、程々にどうでもいいの。問題は、私が案内していたのに、貴女がアルカード君を、講堂へと導いた事なのよ」



 校則で、外からの編入生徒の案内は、教師からの使命により、学級代表等がすることになっている。

 な、なるほどなぁ。と、納得したいが、納得はできなかった。



「待って。私はアルカードなる者を講堂に案内した覚えはないのだけど」

「いいえ。アルカード君は、貴女が職員室を出てから、私を無視して、貴女を追って行ったわ」

「それだったら蝶番井さんが呼び止めれば良かったんじゃ?」

「そこは私にも非があるから謝るわ。ごめんなさい。まさか無視されるとは思わなかったし、その場にいた教員も全員唖然としていたのを覚えているわ。直ぐに私も職員室を出て後を追ったわ。けど、アルカード君の背中は見つけられなかった」

「見つけられなかったって、一分も呆気に取られていた訳じゃないんでしょ?」

「えぇ。五秒程よ。それでも見失ったのよ。まるで誰かさんみたいに、消えてしまったのよ」



 じりじりと燻る様な視線だ。差し詰め、類は友を呼ぶとも言いたいのだろうか。だがしかし、例え彼、アルカードが私と同じだったとしても、私に非はないことは明らかだろう。



「わかった」

「わかってくれたのね。では土下座なさい」



 安堵の鼻息を小さく鳴らしてから、蝶番井は当たり前のように言う。



「しないよ」



 一瞬緩んだ空気が、また張り詰めた。



「わかったのは、一縷も私が悪くないと言うことだよ。私は自らアルカード何某を案内した訳じゃないし、校則違反だったとしても蝶番井さんの不注意だし、そこから生じた何か不利益は私のせいではない。私は講堂へ行っただけで、行動を起こしていない。土下座を求めるなら編入生の方じゃない?」



 私の反論を聞いて、酷く落ち込んだように、蝶番井はため息をついて、自分の一番長い髪の毛の間から、先っぽまでを力強く挟んでなぞった。



「わかっていないわね。校則違反を犯したのは貴女なの。既に起こった事実なの。私の不注意は私が償うわ。だけど、直接的ではなくても、間接的に貴女は犯してしまったの。だから、土下座なさい」



 うんうんと四月一日が頷いている。山田も可愛い子ぶって首を縦に振っている。どうしてこの二人は、蝶番井が反論の余地を残しているのに気が付かないのか。それとも気づいていて、この行動をとっているのだろうか。



「先に言っておくね。認めたわけじゃないからね。もし、私が校則違反者だとして、どうして蝶番井さんに土下座しなければならないの?」



 蝶番井は口を噤んで、腕を組んで目を瞑ってしまった。四月一日と山田が蝶番井の顔を見て返答を待つ。



 今の反論が蝶番井にとって相当不都合だったと思えばいいのか、それともこれ以上の爆弾発言がまだあるのか。どちらにせよ、私も待つしかなかった。



「・・・貴女の為」



 ボソリと陰鬱な声で、とても小さく、不満そうに呟いた。

いい加減にしろと叫びたくなったが、我慢する。しかし温厚な私も、燻られて沸々と煮立ってきている。



「どうやったら私が蝶番井さんに土下座をすることが、私の為になるのかな?」



 物部のような慈母の笑顔には出来ないが、目が笑っていない笑顔になっているには違いない笑顔で言ってやる。



「土下座をすることで貴女のこれからを守れるわ。勿論。この土下座を録画してばら撒こうなんて意思はこちらにはないわよ。ただ、土下座をしてくれればいいの。分かってくれるわよね?」



 蝶番井も私と同じような笑顔で言ってくる。笑顔と笑顔の間に火花が散ってもおかしくはない。蝶番井は何かをひた隠しにして、私に土下座を強要してくる。私は私で、正当な理由が無いのに土下座をしたくない――無論、非があれば惜しみなくしている。もはやお互いに譲れない状況だ。



「埒が明かない。お嬢様。決闘しますか?」



 山田が物騒な事を言っている。土下座の強要の次は決闘罪だ。とは言わない。ここでの決闘とは、互いの命と尊厳を賭けた決闘ではなく。尊厳だけを賭けた決闘である。謂わば対戦型のゲームだ。



「えぇ、そうね。骨茱さんも、それでいいかしら?」



 対戦型のゲームと言えど、自身の身体を使った球技でもなく、電子機器を使ったゲームや、駒と盤を使って戦うゲームでもない。それらは普遍的なプライドバトルに値する。この学校内は特殊で、特務で、特別である。



「受けてたつよ」



 ここでの決闘とは。



 式神を使った、式神同士の殺し合いを指す。


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