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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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側近は控えるもの

 という、昼休みの出来事。



 本当に何をしてくれたんだろか。私が土下座を強要されている一原因は物部にありそうな気がしてきた。



「虞・・・物部が」

「今、その名前を出す?」



 イライラは顔よりも仕草にでるタイプの蝶番井稟慈が、言葉と目に力を込めて、そう言い放った。本んんん当に物部は一体何をしてくれたのだろうか。



「お嬢様。燻りますか?」



 突然の人を燻る発言をしたのは、今まで横でひっそりと控えていた、学校指定のぶかぶかなカーディガンを羽織り、余った袖を振りながら小動物のような可愛さを保持している同じクラスのローツインテール女子、山田吉兆やまだきっちょう



 蝶番井稟慈が身長170センチ程度ならば、山田は190センチ以上に達している。蝶番井の後ろに控えていたのにも関わらず、体躯の大きさや、筋肉質な体型に、背中に携えた竹刀袋のおかげで、威圧感が物凄いのだ。そんな人間に燻られるかもしれないと思うと、背筋が凍る。



「まだ燻る必要はないわ」



 どうやら一旦は待ってくれるらしい。いびるの間違いでありたいものであったが、燻るで正解らしい。



「××××」



 差別的発言なので、耳には入るが、文字には書き起こせない発言をするのは、山田の後ろに控えていた、四月一日八百万わたぬきやおよろず。蝶番井よりも少し背が小さく、市松人形のような髪型で、のほほんとした顔つき。そんな四月一日から放たれる言葉は、基本的にコンプライアンス違反である。なので、殆ど声を聞いたことは無い。



「やおちゃん。そういうことは言うものじゃないわ。この娘も好きでそうなった訳じゃないんだから」



 四月一日の発言を咎めて、私の事を庇ってくれているように聞こえるが、この学校生活で学んだ蝶番井の性格的に、庇ってくれている訳ではない。むしろ哀れんで、四月一日の発言に同調しているに近い。



 この二人は蝶番井とどのような関係は、まぁお察しの通り、従者である。従者と言うと、蝶番井は怒った過去がある――怒りを受けた人間は、その後学校で見たことは無いので、友達と訂正しよう。しかし本質的には従者だということは変わりない。



 山田家と、四月一日家は明治時代から蝶番井家に仕えている家だ。山田家はかの有名な江戸時代の処刑人、山田浅右衛門の血筋だ。あの背中に携えている竹刀袋に入っているのは刀か、竹刀なのかは、袋から出て来た時に理解できるだろう。松竹梅どこに刀を入れても物騒だけども。



 山田家が時流と共に消える前に、蝶番井家が家を丸ごと引き取ったのが始まりで、そのまま蝶番井家の用心棒一家として、現代まで脈々と蝶番井家の悪疫となる者を切り捨てているとか、いないとか。



 変わって四月一日は山田家よりも血生臭くなく、明治前からこの土地に住まう、被服屋である。かの我が国の大手アパレルメーカーわたぬきは、この発言禁止娘の父が経営している。噂では蝶番井家が融資していなければ、ここまで大きくならなかったらしく。まぁこの家も蝶番井家に恩があるのだ。



 で、だ。この元処刑人の子孫と、大企業の娘を従者として扱っている蝶番井家って、どれだけ凄いのかを理解してくれただろうか。私は、私に再三言い聞かせて理解した。今、私がどれだけ窮地にいるのかを、肌にじっとりと張り付く冷や汗と共にね。



 正直な話としては、ここから逃げ出すのが最悪で最高の手であろう。全てを投げ出して、この土地からも逃げて、何も柵が無い、別の土地で暮らす方がずっと楽だろう。だけど、私はそうしない。そうならざる負えないまで、私は抵抗する。



 逃げ隠れするのは嫌いだ。



 私が好きなのは、言葉を介し、会話を紡ぎ、のらりくらりと苦楽すること。



「蝶番井さん」

「何? 骨茱さん」

「何をそんなに怒っているの?」


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