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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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おいでませ獏羅村①ー2

「じゃあ皆揃ったことだし、今回の保護活動の内容を事前に説明していくね。という訳で、神呪さん説明よろしくお願いします」


 集合時間が数十秒過ぎ去った後に、黒板の前に立って守屋教諭がそう言うと、隣にいた呼ばれた神呪さんが少しだけ前にでた。


「守屋先生からご紹介にあずかりました、神呪神音です。本日は皆様の活動に粉骨砕身補佐したいと思います。要望、要請、要求、補佐監督と学生という立場上憚られるかもしれませんが、どうぞお気軽にしてください」


 まばらな拍手と、挨拶を返す声がちらほら聞こえた。私は拍手をしながら挨拶を返す二刀流だ。


「では活動内容の説明に入ります。これから皆さんには獏羅村へと向かってもらいます。獏羅村は現実には存在せず、夢の中にだけに存在する村です。はい。そうなんです。皆さんにはこれから、睡眠をしてもらい、夢を見て、獏羅村へと入ってもらいます。獏羅村では土着の怪獣であり、式神である獏羅が管理人と共存しています。獏羅は非常に繊細な怪獣で、居住地が穢れると、暴れ出します。三か月に一度穢れを払う為に獏羅を一時的保護して、獏羅の居住地を修復し、穢れを祓う必要があります。私達は管理人の協力の元、それらをします。それが今回の活動内容です」


 獏羅とはなんだろうか。文化財式神のはずなのに、名前も知らない。式神使いならば、文化財式神の名前を聞いただけでピンとくるのに、この怪獣兼式神は、私の頭の検索履歴にすらない。それにどうやら他の皆も同様に小首をかしげたりしていた。


「質問いいですか~?」


 手を挙げたのは、長く派手なネイルをした蜂起星だ。


「どうぞ」

「きらびたん☆睡眠時間決まってて、決まった時間以外には寝られないんですけど、どうすればいいですか~?」


 私も全然と言って眠くもないので、蜂起星の質問に同調したい。


「あ~大丈夫大丈夫。皆には僕の法札で強制的に寝てもらうから。キツめの睡眠薬だと思ってくれたらいいよ」


 蜂起星の質問に答えたのは守屋教諭で、証拠に複数枚の法札手に持ってヒラヒラとさせている。この人が医者だったら薬機法違反を簡単にしそうだな。


「おけまる~」


 私は納得できないが、蜂起星は納得したようだ。


 咳払いをして神呪さんは続ける。


「続けますね。保護には手順があります。まずは保護。次に修復。そして祓除となります。獏羅は繊細な式神なので、寝床に入れるのは限られた数人です。ですので、保護、修復、祓除と人数を分けて活動をする予定です。まず保護は専用の捕獲網を使い獏羅を保護します。捕獲網と言うと聞こえが悪いですが、傷つけず、一時的に寝床と同じ環境下を作り出せる網です。この捕獲網は身体の内に宿る行力の安定性が大事で、繊細な作業が求められます。あくまで保護なので、獏羅を捕まえるといった感情で臨まぬよう留意してください。次に修復です。これはよくある律令を用いた修復です。律令は夢の中でだけで作られた特別な律令で、現場で支給されます。それ以外は一般的な保全修理と変わりませんが、管理人の指示だけは絶対に従ってください。そして最後に残った穢れを祓います。これは溜まった穢れを祓うだけの作業です。形を成している可能性がありますが、保護、修復中には形を成して襲ってきませんので安心してください。ですが、修復を終えたのなら急いで退出してください。大体は学生さんでも対処できる程の穢れですので、命の危険はそれ程ありません。以上が獏羅の保護活動の説明です」


 かなりの情報量にメモを取りながら話を聞いた。メモを取ったけど、寝たらこのメモも持っていけないと取り終えてから気がついた。間抜けすぎる。


「じゃあ寝落ちする前に班決めを勝手にしてあるから法札を渡しながら言うね。保護班が蜂起星とB組の土御門と四月一日と骨茱ね。修復班が天生と酒澤と雨月ね。祓除が残りね」


 法札を渡しながら、最後の最後で面倒になったのかまとめた。まとめられた人の心境が手に取るようにわかる。


 私はどうやら保護のようだ。蜂起星に土御門弟に四月一日。それぞれを見やると、私の視線に気づいてか、それぞれが特有の反応をした。どれもそんなに話さない三人で気まずいったらありゃしないや。


「じゃあ質問もないようだから、横になった後に法札を額に付けてね。付けたら直ぐに寝ちゃうから、トイレや水分補給をするなら今の内だよ」


 事前にそれらを済ましているので、誰も言葉を発さない。


「誰もいないね。じゃあ行ってみよう! やってみよう!」


 守屋教諭の怠い合図で、それぞれが額に法札を張って、目を瞑った。

 守屋教諭の言う通り、目を瞑ると同時くらいに、頭の中がぐらぐらと水平感覚を失うような感覚に襲われて、気がついたら、蝉の鳴き声が騒がしい場所に移動していた。


 目を開けると、そこは山間にある廃校舎の廃びれた教室だった。私達はベッドで寝ていた通りの間隔で立っていた。


 横になっていた私達が一瞬にして場所を移動して立っているのだから、これは瞬間移動とかではなく、夢の中に入ったのだろう。


 教室から見えるくぐもった窓の外からは、緑に包まれた山しか見えないせいで、夏のような青空が遠く感じる。


「では皆さん、外へ出ましょう」


 いつの間にか神呪さんもやってきていて、先導するように教室の扉を開けて出て行った。私達はぞろぞろと神呪さんの後に付いていく。


「骨茱ちゃんよろしこー」


 教室を出ると、特徴的なポージングをしながら話しかけてきたのは蜂起星綺羅美だ。


「よろしく蜂起星君」

「あは、名前覚えてくれてるんだ☆」

「そりゃあ蜂起星君は有名人だからね」

「またまた☆骨茱ちゃんの方が有名人でしょ」


 路傍の石のような私のどこが有名人なのかは甚だ理解しがたいが、アルカード関連だったら胃も頭も痛くなることであろう。


「それよりもさ、班分けに陰☆謀を感じない?」

「陰・・・謀?」

「だって。もっくんに、きらびたんでしょ。四月一日ちゃんに骨茱ちゃん。ね、"陰謀”だ」


 陰謀の部分だけ両手の人差し指と中指を曲げながら蜂起星は言う。

 蜂起星が言いたいのは、土御門弟と蜂起星が同じ派閥であり、蝶番井派閥の四月一日と暫定蝶番井と仲良しになったとされている私が同じ班であり、かつ、東風谷派閥が一人もいないのが陰謀なのではないかと言っているのだ。


「陰謀だとしたら、保護がそれ程までに難しいってこと? それとも祓除の方が功績が大きいってこと?」

「それはわからないにゃあ☆骨茱ちゃんが思っていることにせよ、何らかの圧力があるのは卜部流の人がいる時点で明白だよね」


 この学校にいる限り、いや陰陽師である限り、派閥争いからは逃げられないのだろう。まぁどの界隈にも派閥争いはあるけども、その渦中にはいたくないとのことは口酸っぱくなるまで自分に言い聞かせたい。


「なるべく三人に迷惑かけないようにするね」

「大丈夫だよ。迷惑がかかることにはならないようにするから」


 なんとも頼もしい発言だけど、蜂起星に借りを作るのは膝と肩に爆弾を爆弾を抱えるようなものなので、できる限り自分でなんとかしよう。


 土御門弟は四月一日が近くにいるせいか話しかけては来なかった。蜂起星はさしずめ先兵といったところだろうか。アルカードとの進退を訊ねられることがないのが個人的には幸いであった。皆も知っての通りのことしか言えないし、繕えない。


 廃びれた校舎を出て、タイヤ痕もなく、自然にひび割れたような舗装があまりされていない山間の田舎道を歩いていく。夏前の茹だるような暑さを感じないのは夢の中だからか。それとも被服室が快適温度に調整されていたからだろうか。

 それでも鬱陶しい程に蝉は鳴いていて、なんとなく暑いのではないかと思わせて狂わせられている気がする。


「おい」


 蝉の声に紛れて私を呼んだのは四月一日だ。


「どうしたの?」

「骨茱さんは行力が安定しているのか?」

「えっ・・・まぁ胸張っては言えないかな」

「・・・確かにな」


 四月一日の視線が私の胸にあるのは、身体的な特徴と結びつけられた気がするのは気のせいか。ふん、これでも着やせするタイプだ。四月一日のようなお子ちゃま体型よりかは大人なのだ。・・・いや見栄を張った。消化器官が健康的だからただ太りやすい体質なだけだし、四月一日のような体型も憧れる。


「そういう四月一日さんは?」

「おそらくだが、クラス内では上位」


 格が違った。行力の繊細に扱える人間ランキングは蝶番井、土御門、四月一日、繭杜、十森と私が勝手に予想している。ほぼほぼ行力に関する成績順だけども、大体あっているだろう。


「じゃあ土御門君も、蜂起星君もいるし、そこに四月一日さんもいるから保護は安心だね」

「・・・お前も頑張るんだよ」

「う、うん。もちろんそのつもりだよ」


 心強いねって話だったのに、サボれて楽だわと捉えられてしまった。私ってそんなに堕落したように見えていただろうか。


「ここで失敗されるとりっちゃんに迷惑がかかる」

「なんで蝶番井さんに迷惑が?」

「・・・骨茱さんがラキュラさんと懇意にしているから」

「んん? どういうこと?」


 どうしてアルカードと懇意にしていたら、蝶番井さんに迷惑がかかるのだ。そもそも私が失敗することで蝶番井さんに迷惑がかかるのも意味が分からないのだ。バタフライエフェクト的な例えなのだろうか。だとすれば理解不能なのも頷ける。


「着きました。こちらが獏羅の寝床である場所です」


 全員がいるのを確認してから神呪さんは前の建物を紹介した。


 私達の前にあるのは高い石垣に囲まれていて外から中が見えず、入口と反対側は山に面していて、山と民家の境目が分からない程に木が生い茂っている、古臭い平屋の古民家だった。


 古民家には表札がかかっており、糸浜と書かれていた。


 人の気配を感じたのか、呼び鈴を鳴らす前に一人の初老近そうな壮年の男性が玄関を開けて現れた。


「こちら管理人代表の糸浜さんです」

「糸浜です、よろしゅうよろしゅう」


 全員が挨拶をする。


「説明は終わっています」

「ほうか。じゃあ奥へ上がってくださいな」

「はい。お邪魔しますね」

 

 神呪さんは綺麗な一礼をしてから敷居を跨いで家に上がった。私達もそれに倣って糸浜家へとお邪魔した。


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