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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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おいでませ獏羅村③

「それでは班が決まりましたので、獏羅村を案内します。ところどころに結界が張ってあるので、しっかりと着いてきてくださいね」


 神呪さんは率先して前を歩きだす。それに保護班が動き出したのを見てから、私達も歩き出す。その後ろに祓除班が、そして最後尾にもう気怠そうに守屋教諭が着いてくる。


「骨茱ちゃんおいすー☆」


 コンクリートで舗装された道をアヒルの行列のように歩いていると、前にいる蜂起星に声をかけられた。


 金髪盛り髪で、少しだけ日焼けした肌と、外跳ねした百足かと間違えてもおかしくない睫毛に陰陽師としては勝手が悪いゴテゴテのネイルが特徴的なギャル、蜂起星綺羅美(ほうきぼしきらび。C組一番の実力者で、C組の代表。

 C組は策謀が得意とするクラスで、占いや作戦といった、自頭が良く、先見の明があり、臨機応変に対応できる人たちが所属しているクラスだ。陰口では覗き屋とか、おしゃべりがま口とか言われたりしている。掲示板を運営しているのもC組って噂。


 そんな一度も話したことのないC組の番長にまで名前を知られているのは、あんまり気持ちはよろしくない。


 ようやく転移酔いも治まったので、いつもの調子で話せる。


「お、おいすー? 蜂起星君」

「おっ、名前知ってくれてるんだ☆。アゲじゃん☆」

「学年で蜂起星君の事を知らない人はいないよ。それで、どうしたの?」

「持ち上げ上手かよ☆。アゲアゲだわ☆。いやウチね直接骨茱ちゃんに聞きたいことあるんだわ☆」

「何かな?」


 C組と会話すると言うことは、情報をすっぱ抜かれる可能性がある事。新聞屋とは違うが、下手な事を言うとあることないことをインターネットの海に流されかれない。そうなれば二度と自分では訂正できない情報になってしまう。


「ラキュラ君と付き合ってんの?☆」


 吐きそう。

 結界を一個超えたから吐きそうなのもあるかもしれないけど、叫び声を吐き出しそうだ。


 惚れた腫れたの話は、みんな大好きなのは理解しているつもりだ。ゴシップ記事が一番興味を惹かれるのも世の性なのも理解しているつもりだ。その当事者になるのは貴重な体験であり、絶対にしたくなかった体験だ。

 幸いにもアルカードは晴日と共に、後方の土御門達と話に花を咲かせていた。


「付き合ってないよ」

「だよね~☆。ごめんね、いきなりこんな質問して☆。もっとオッハーを超える流行語の挨拶って何がいい? とかの質問の方がよかったよね~☆」


 それも他愛なく無駄な質問過ぎて嫌だが。


「そっちの方がいいかも。でも意外だった。蜂起星君なら、そんなの確かめなくても知ってると思ってたよ」


 付き合ってるかどうかなんて、C組からすれば火を見るよりも明らかだったはずだ。それが蜂起星ならば、占うまでもないはず。


「きらびたんにも矜持があるんだな☆。言葉は人間が考えた情報伝達手段であって~、感情表現の一端でもあるわけじゃん? 情報として知っていても、本人が言った生の言葉は又聞きとは違うんだよね~☆。ウチが骨茱ちゃんとラキュラ君が付き合ってないって、言うのと、骨茱ちゃんが言うのは、祝詞と呪いくらい違う☆」


 目尻を隠すような横ピースをして決め台詞かのように言う蜂起星。

 私が呪いなのかよってツッコミを入れそうになった。

 蜂起星が言っていることは分からなくもない。言葉にしたからこそ責任が生まれて、責任が生まれたからこそ行動になる。その行動が齎す結果は祝詞なのか呪いなのかは、発言した誰か、もしくは言葉に含まれた誰かが背負うのだろう。

 それじゃあ付き合っていないと言った私には、祝詞になるのか呪いになって返ってくるのか。どちらも嫌だな。


「私も発言には気を付けるよ」

「発言もだけど、憑かれて頬っぺた叩いちゃ駄目だぞ☆」

「あれは・・・あいつが悪い! これは譲らない!」

「えへ?」


 蜂起星は信じられないと言った感じで噴き出して笑った。今の発言でどうして笑われたのかを理解できない私は訝し気に訊くしかなかった。


「な、なに?」

「・・・苦労してるな~って思っただけ☆」


 細長い手で口元を隠しながら蜂起星は言葉通りに心配そうな表情で言った。

 そりゃあアルカードと関わると苦労もしますよ。


「それでこれは全員に訊いて回ろうと思ってるんだけどさ☆。神呪補佐のことどう思う☆?」

「どうって・・・綺麗な人だな?」

「えへ~っ、骨茱ちゃんって天然って言われない☆」

「言われないかな」

「ふ~ん☆。綺羅やかさはウチには敵わないけど、スマートではあるよね☆」


 最後の反応で蜂起星が何を訊ねたかったのを理解する。守屋流である召喚術支援会の補佐に送られてきたのが、卜部流の三本指に入る人なんだから、C組としてはその不自然さを解明したいのだ。なんかさっきまでの質問と違うと感じたので、見た目の話と勘違いさせておいて良かった。


「それじゃ、四月一日ちゃんも、質問に答えてくれる☆?」


 私達のちょっと後ろに歩いていた四月一日に対して、ウインクして蜂起星が質問する。


「黙れ××××」


 コンプライアンス違反ですよ四月一日八百万さん。


「えへー、でも四月一日ちゃんのご主人様は」

「それがお前の辞世の句になるが、いいのか?」


 蝶番井譲りの目つきの悪さで睨む四月一日。蜂起星は怯みもせずに四月一日と目を合わせた後に、ニコリと笑って。


「きらびたんの辞世の句は決めてるから、さらば~い☆」


 そう言ってアルカード達の方へと入って行った。


 前を歩く繭杜と大守の背中を見つつ、何故か隣で歩幅を合わして歩き始めて四月一日を何度か横目で見る。その視線に気がついて四月一日が口を開いた。


「お前」

「お前って言うのやめて」

「・・・骨茱、ちらちらと何の用だ」

「四月一日さんは、どうしてこの課外活動に参加したのかなって」


 四月一日は私が申し込んだ時には名前が書かれていなかったので、かなり申し込むのが遅かった私よりも後に申し込んだのがちょっと気になったりしていたのだ。


「・・・気になるか?」

「まぁちょっとは」

「じゃあ教えるから、骨茱も教えろ」

「答えにくいことじゃなきゃ、答えるよ」

「私が参加したのは、りっちゃんの頼み」

「蝶番井さんの・・・教えてくれてありがとう。それで私に訊きたいことは?」


 そう言うと、初めて四月一日が目を泳がせて、淡々と紡いでいた言葉を発しなくなった。


「そ、そんなに聞きにくい事?」

「いや違う。心の問題」


 四月一日は大きく息をつく。一体何を質問されるのだろうか。


「もっ、物部虞って何を送ったら喜ぶ?」


 バツが悪そうに四月一日は言った。言った内容が理解できなくて、目をぱちくりとさせていると、更に顔を俯かせて前髪を弄って恥ずかしそうにした。


 物部虞。誕生月が七月で誕生日はもう少し。私と虞は深い仲というのは誰もが知ること。そして物部虞にはファンクラブなるものが存在している。四月一日の反応も踏まえて、これらを整理すると、四月一日八百万は物部ファンクラブの一員ではないのかと判断できる。


 コンプライアンス違反発言女子でも、案外可愛いところがあるみたいだ。


「四月一日さんってそうなんだ」

「悪いか」

「ううん。意外だった。だって蝶番井さんと虞ってあんまり仲良くないから、友達の四月一日さんもそうなのかなって思ってた」

「りっちゃんと物部虞は確かに確執がある。けどそれは私個人としては関係ないこと・・・そんなことより答えろ」


 ちょっとだけニヤけた面をしていたのが気に食わなかったのか、四月一日はまた目力を強めて言った。まずい、強く睨まれてもチワワみたいでカワイイとしか思えなくなった。


「虞が貰って嬉しいものねぇ・・・お金?」

「馬鹿に訊いたのが間違いだった」

「わー待って。冗談じゃなくてね、虞は物欲がないから、プレゼントは何でも喜んじゃうんだよ。贈り物よりも、事業の相談をしたりする方が喜んだりもする、変わった奴なんだよ」


 個人的に一番喜ぶだろうと思うのは、恩を売ること。先を行くのが当たり前の人物なので、恩を売るとこれまた楽しそうに笑うのだ。一番の贈り物ではあるかもしれないが、四月一日が求めているものとは違いすぎるので言わない。


「形が残る物は良くないと言うことだな」

「う、うん。私の手作りパンとかは食べてくれるから、お菓子とかがいいんじゃないかな」


 そう言うと四月一日は神妙な顔つきになる。何を想像しているのかは分からないが、シミュレーションしているのだろう。


「ん、分かった。参考にする。感謝する」


 また結界を超えた感じがした気がするが、その感覚が抜ける前に前方にいる人達が足を止めた。


「こちらが獏羅の寝床である場所です」


 全員がいるのを確認してから神呪さんは前の建物を紹介した。

 私達の前にあるのは高い石垣に囲まれていて外から中が見えず、入口と反対側は山に面していて、山と民家の境目が分からない程に木が生い茂っている、古臭い平屋の古民家だった。

 古民家には表札がかかっており、糸浜と書かれていた。


 神呪さんは表札の横にある呼び鈴を鳴らした。


 暫くして人の気配がしてきて、壮年の男性が玄関から姿を現した。


「糸浜さん、お待たせしました。ボランティアの学生を連れてきました」

「おぉよう来られました。ささっ、奥へどうぞどうぞ」

「お邪魔します」


 神呪さんは綺麗な一礼をしてから敷居を跨いで家に上がった。私達もそれに倣って糸浜家へとお邪魔した。





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