学友と友人は紙一重
「えー! 灯命ちゃん課外活動出席するのぉ!」
職員室から帰ってきたら、話の流れ的に課外活動の話になり、参加意思を表明したと言うと、霧切栖に驚かれてしまった。
「するよ。霧切栖はしないの?」
「しないよ。だって召喚術支援会でしょ? とあり、あそこ嫌いだもん」
頬を膨らませて、かわい子ぶった感じで言う霧切栖。まだ冗談風に貶しているあたり、本気で嫌いなわけではないらしい。
「あんまりいい噂は聞かないよね」
召喚術支援会。文字通り召喚術を生業とする者を支援してくれる会だ。しかし団体ということは母体がある訳で、母体が保守的で有名な繭杜家なのが、変革を恐れない学生達からすれば煩わしい団体と言う認識であり、好かれない原因でもある。
陰陽師に派閥があるのならば、召喚術に流派もある。私が使っている召喚術は初心者から玄人まで扱える、主流でもある安倍流。剣術でも茶道でもあるように、流派は時代が進むにつれて枝分かれしていく。繭杜家は土御門流から枝分かれした、守屋流を型としている。守屋流の召喚術が好かれないのは、召喚する式神を使い捨てるからだろう。金継ぎという技術がある国に、少し壊れたから使い捨てるというのは時代にそぐわない。
「式神ちゃん使い捨てはありえんくない? 式神ちゃんって唯一無二無二だよ」
ポーチから梱包されたグミを取り出して、それを触りながら言う。
「そんなに柔らかそうかな」
「灯命ちゃんのたま様はムニムニじゃん」
「むにむにしようとしたら、爪をムキムキしてくるよ・・・」
たま様は頭やお腹を吸引するのを許してくれない。そもそも触れるのさえ髪の毛逆立てる。たま様が「やれ」と許しが出た時だけ触れる。唯我独尊猫だ。
「そこがいいんじゃん! とありの式神ちゃんはむにむにすると潰れちゃうしね」
「まぁ・・・確かにそうか」
霧切栖の式神は蝉と蟻。これらを一体ではなく、複数体召喚する多数召喚。霧切栖は物量で索敵をするのが得意とする陰陽師。策謀も試行回数で割合が高い方を選ぶ。それはどうなのだろうかと思うが、それも霧切栖の個性なので、その個性が好ましいと思うのなら、おつきの陰陽師としてどうぞ。とにかく、諜報要因としては優秀で、壁に耳あり障子に目あり扉の奥にとあり、と言われる程だ。
「でさぁ、課外活動の内容って、文化財式神保護活動でしょ? どこ行くの?」
「どこ行く・・・どこ行くんだろうね」
「えぇっ! 参加表明したのに内容知らないの!?」
霧切栖の驚きはご尤もで、文化財式神保護活動に参加するかしないかを表明するだけなのだ。
「どうやら当日知らされるらしいんだよね」
「集合場所は? 現地とかじゃないの?」
「学校だね」
「うわ、転移術使うやつじゃん。酔い止め忘れちゃだめだよ」
「一応持っていくつもり。霧切栖はこういった活動はしたことあるの?」
「あるよ。文化財式神保護活動したことあるよ。その時は卜部流だったかな。まぁそこは置いておこ。木幡山に住んでる天狗様の御家直しだったね。梅雨前のねっとりとした暑さだったのに、森林に入ったらめっちゃマイナスイオン感じて、これが天狗様の御力かーってなったね」
単純に木々の力ではないかと思うが、黙っておく。
「そういうのだったらいいんだけどね。なんかあの生臭坊主の言い方が気になるんだよね」
「含んでた?」
「冬眠前のリスくらいには」
守屋流絡みであるからのは間違いない含みなのだけど、それ以外にも気をつけろよと言っている気がしてならなかった。
「つーか他に参加するの誰だっけ。ほいあげる」
追いグミを決める霧切栖が私にもグミをくれた。オレンジ味だ。
「ありがとう。たしかB組からだと、土御門君、繭杜さん、天生君、大守さん、酒澤君、私と晴日かな」
「うへぇ土御門一派ばっかじゃん。よくそこに入ろうと思ったね」
周りには今あげた名前の人物はいない。だからこうして話せるのだけど、決して彼らの陰口が言いたいのではない。彼らの前では絹を着せるが、堂々と悪口は言うであろう。流石は都のお人やね。と、頭の中の二乗院教諭が煽ってくる。
「いやぁ、アルカードの顔を少しでも見なくていいなら、それでいいかなって」
そう言うと霧切栖は目を丸くした。
「えっと、アルカード君と友達になったんじゃなかったの?」
「ならさせていただきましたけど、毎日ずっと隣にいるのは、過剰とは思わない?」
「驚異の共依存だと思ってたんだけど」
どんな思われかたをしているんだ。これも二乗院教諭が言っていた、私の弱さと卑怯さのせいで、周りからもそう見えているという訳だ。やはり早急に手を打った方がいい。私とアルカードが共依存していると思われているなんて、それは不埒で、不健全である。
「だから私は今まで通り、できる限り違う誰かと関わろうと思う訳ですよ」
「ふーん。でもさ、今回はD組からも一人参加できるんでしょ? だったらアルカード君のことだから、参加するんじゃないの?」
「・・・え?」
「知らなかったの?」
「知らない・・・なんで? 普通D組は参加できないじゃん!」
あまりの事実に席を立ちそうになったが、声を荒げてしまうだけで済んだ。何事かと他のクラスメイトに見られたけど、すぐに日常に戻った。
「アルカード君が編入してきたのもあって、そういうところも変わったんだって。次女様が関わっているらしいよ」
あのスケバンちゃん、本当に私とアルカードをくっつけさせたいようだ。一体どんな弱みを握られたら、それ程に嫌がらせができるのだろうか。宗家の弱みを持っているアルカードっていったい何者なのかと疑問が浮上するが、怖いから考えないようにしておく。
「そうだ。虞に参加してもらおう、そうしたら参加権を争ってくれるに違いない」
「やめときなよ。物部ちゃんは争いごと嫌いでしょ、よくないよ」
「ふっ」
「うわ、なに今の、感じ悪いよ」
つい物部虞のことを理解していなさ過ぎて鼻で笑ってしまった。物部虞は中立だ。だが中立ということは、中立になるまでに、それ相応の対立があったはずだ。事業拡大をすれば、それ相応の対立が生まれる。現在は人畜無害の中立のような立場を取っているが、それは力を持っていて余裕があるからだ。物部虞は争いごとを好まないが、そうなった場合には互いに譲歩できるまで、力尽くで捻じ伏せてくる。
「ごめんごめん。でもそうだね、虞のことだし、争わさせても結局アルカードに渡しそうだ」
「灯命ちゃん時々、性根の悪さでるよね」
「酷いことをいう・・・私が言っているのか?」
「そうだよ。アルカード君以外も来るかもしれないから、そこに期待しておきな」
「うーん・・・」
考えていると予冷が鳴った。アルカードの事だからどんな手を使ってでも参加してきそうなのだから、淡い期待なので、そこまで期待しないでおこう。




