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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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腕は折れても心は折らず

 課外活動。高校の私が、その言葉から連想されるのはなんだろうか。部活動であろうか。我が高校には青春の汗を流す部活動ならびにクラブ活動というのはない。同好会に止めておかないと実務に支障が出るため、体力作り程度に、趣味程度にしか行ってはいけない暗黙の了解がある。そもそも部活動をしたところで、頂点を目指そうにも、一般人ではないので卑怯千万と言われるのがオチである。


 では習い事か。料理教室や家庭菜園といった身近な習い事に、これまた水泳やフィットネスといった体作りの運動の習い事や、珠算や囲碁将棋といった知識の研鑽もある。しかして、これもまた独自に、勝手にする事柄だ。


 ならばアルバイトか。私も短期のアルバイト戦士である時はある。なんて言ったって金欠であるからだ。賄いが出る飲食店のアルバイトが主にメインなので、時給の良さよりも、沢山食べさせてくれるバイトが好きだ。いやいや、これは私個人のアルバイト経験で、課外活動から連想される事柄ではない。食が関わってくると、我を忘れてしまうのが悪い癖かもしれない。


 それでは、答えといこう。ボランティア活動である。


 うむ。これにつきる。課外活動と言えば、ボランティア活動だ。地域と密着してのボランティア活動も、地域外に出てのボランティア活動も、the課外活動。これ以外にはないだろう。インターンシップもあるよ、と言う輩もいるかもしれないが、そんなもの成るものが決まっている私達には連想されないのだ。課外活動と言えばボランティア活動。これにつきる。


 どうして私が課外活動をボランティア活動だと捉えていることを強調しているかと言うと、課外活動がボランティア活動であることが好ましいと思っているからだ。だって上に羅列した事柄が課外活動だったら嫌だもの。個人的物差しで何が悪い。


 だから来週から始まる課外活動がボランティア活動であることを祈っているのだ。


 頼むぞ。地域清掃とかいって、祓除案件の延長みたいなのをやらされるのはこりごりだ。ゴミ清掃が悪疫なるものの清掃になるのは、この学校の伝統行事みたいなところはあるが、誇りをかけてやりたくない。埃は掃くものだ。


 頭の中でドラムロールが鳴って、ホームルーム時に二乗院教諭から告げられた課外活動の内容は・・・・・・私の思惑とは違っていた。


 入院生活も終えて、ようやく学校生活に戻ってこられた。入院生活中はアルカードが毎日見舞いに来てくれた。放課後私に関わり続けるのは、つくづく暇なのだろうな。他にも蝶番井や虞も来てくれたし、霧切栖も土御門も来てくれた。出会う人間全員にいい顔していて、印章悪いだろうと思っていた割には、友達と思っていた人たちは来てくれて、どこか安心している自分もいた。


 入院生活で得たエネルギーは全部お祓いに消えた。呪力を祓うのは身体的な体力、精神的な精神力共に健康でないといけない。復帰早々にそれらを消費させられて、入院中に増えていた体重は通常の平均体重に戻った。それはそれで嬉しいのだけど、また腹がひもじい生活を強いられている。


 体力も気力も三割程度の私が、課外活動に参加するのは二乗院教諭からすれば心配な訳である。


「ほんま大丈夫なんやろうな?」


 訝しんだ眼で二乗院教諭は私を見つめる。課外活動への参加の有無を表明してから、職員室に個人的に呼ばれた私は至って大丈夫を繕って。


「大丈夫」


 ギプスがとれていない片腕を敬礼の仕草のように動かして言う。


「・・・まぁ本人の意志は尊重するで? せやけどなぁ、課外活動言うても、そこまで内申点には響かへんで? 別に無理せんでもええんちゃうの?」

「人が大丈夫って言っているのに、今日はなんか心配してくれるじゃん」

「そりゃ、こっちやって教育者としての面子があるさかいにね」

「どうせまた怪我されて色々な仕事を増やされるのが嫌なんでしょ」

「・・・はっはっは」

「誤魔化し笑い下手過ぎない?」


 ワザとらしい誤魔化し笑いに呆れる。


「冗談はさておき、これでも心配はしとんねんで」

「指先くらいは伝わる」

「もうちょっと伝わってほしいところやけども・・・・・・まぁええわ。ほいで、なんでそんなに課外活動実績が欲しいんや?」

「いや、実績が欲しいって訳じゃないんだけど・・・」


 そう。別に課外活動に気持ちを躍らせている訳ではない。内申点が爆上げされる訳でもないし、ただただ面倒な事柄なのは学生諸君なら理解してくれるはずであろう。怪我をしている身でありながら、どうしても課外活動したい理由。


 二乗院教諭は何かを見透かしたように鼻で笑った。


「アルカードか」

「・・・・・・」


 答えは沈黙で、沈黙が答え。だって、だってと子供のように我儘を言わせてもらいたい。だってあいつ毎日私の前に現れるんだよ。まるで旧知の友のかのように当たり前のように、名前を呼んで隣で、あの薄ら寒い笑顔を向けてくる。嫌。嫌ではない。嫌気がさすのだ。例えば、毎日三食コロッケを食べさせられるのは嫌気がさしてくるはずだ。それと同じ理論で、くどいのだ。あいつは口説いてくるんだけども・・・それもあって、毎日気疲れで辟易としている。あいつ友達からと言ってから、距離が近すぎる。


「まぁ仲良うならはって」

「笑うな。結構辛いんだぞ」

「そりゃあ西洋怪異様やもんな。脛擦っておいて損はあらへんがな」

「そういう意味じゃない。単純にあいつから寄せられる好意が辛いの!」

「ええやん。減るもんやないし、厚意に甘えとったら?」

「絶対漢字が違う言い方してる。あいつのは思いやりとかじゃなくて、純粋に私に良く思ってもらおうと思ってるだけ。それに甘んじたら、私は将来あいつに負い目を感じることになるの。それが嫌なのは知ってるでしょ」


 今もふつふつと負い目は感じつつある。


「知っとるよ。ほな、嫌やって拒絶すればええやん? そうせんと受け入れているなら、それは甘えていると同義やで?」

「・・・・・・そうだけども」


 本気で拒絶すればアルカードは傷つくだろう。それはやり過ぎた自業自得なのだけども、同時に私が誰かを傷つけるのは案外心が憚れるものであり、結局甘んじて受け入れてしまう自分の弱さにも腹立たしさを感じている。


「中途半端なやっちゃなぁ。優しいのか卑怯なのか分からんで」


 返す言葉なし。


「そんな悪女ムーブしとったら、また痛い目にあうで? わしはそれが心配で心配で眠られへんわ」

「どこが悪女だ。そこのところは大丈夫でしょ。だって今回の課外活動は身体を使わないんだから、怪我のしようがないもん」

「・・・・・・心の怪我してもしらへんで」

「心配しているのか、脅すのかどっちかにして」

「聞き分けのない子には、これが一番効くんや・・・・・・ほな、再三確認するけど、ええんやな?」


 これが最後の確認なのだろう。私は強く頷いた。


「ほな、登録するからな」


 二乗院教諭は登録用紙に書かれている、名前の一覧の最後に私の名前を書いた。用紙の一番上には、召喚術支援会による文化財式神保護活動と書かれていた。


 

 


 

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