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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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秘密の共有は墓場まで②

 宴もたけなわですが。なんて語句を高校生活で聞くのはあと何回あるかは知らないけど、指で折れる回数だと思う。


 デザートを食べて、腹八分目を超えたところで、蝶番井が締めの挨拶をして、アルカードの親睦会は終わりを迎えた。本当に参加者全員分の支払いは蝶番井がしていた。あの黒いカードを観ることも、今後の学校生活では指折りなのだろう。


 血糖値もあがり、幸福値も上がりきった状態で、あと面倒なのは帰宅して家猫の世話をするだけだったはずなのに、私はアルカードに引き留められていた。


「アイスあげたじゃん。まだ何かあるの?」


 全員が帰宅路に着いたにも関わらず、私とアルカードはファミレスの駐車場に残っていた。


「ん? あれ? あのまま呪符をあげて良かったの?」

「はぁ? だってあんたが茶々を入れるから上げる羽目になったんじゃない」


 アルカードの援護射撃のおかげで私が折れる事になったのに、この言い草で喧嘩腰になってしまう。


「だってあのままだと、雨月は強引にでも奪っていたよ」

「いや、そこまでは流石にしないでしょ」

「そうかな」

「そうだよ。彼女だって、一人の陰陽師だよ。事を荒立ててまで、目的を成し遂げる人間じゃないでしょ」


 事を荒立てる気なら、最初からそうしている。式神決闘でもなんでも仕掛けてくる。取引なんてしなくても、強引に奪う手段はいくらでもある。


「灯命がそう思うなら、そうなんだろうね」


 なんか癪に障る言い方だな。まるで思い込みが激しい人間だと言われているようだ。


「反対に訊くけど、あんたは何で雨月さんが強引に奪ってくるって思うの?」

「邪気があったから」

「あの-の気だよね? 感じるの?」

「俺は精気と邪気には鼻が利くからね。彼女からは昨日、灯命に叩かれた時と同じ邪気を感じたね」


 叩いた時と言うと、講堂の札を張り替えた時か。


「それってつまり、あの呪符に問題があるってことじゃない」

「そうだね」

「そうだね。じゃないよ! なんで危ないものだって分かってるのに、手助けして渡しちゃうの!」

「渡りに船かなって」

「なんの!?・・・いや、言ってる場合じゃないって、早く雨月さん見つけて返してもらわないと。明日は半ドンじゃなくて休日だし、取返しがつかなくなる前に見つけなきゃ」


 携帯を取り出してメールをする。メール相手は霧切栖とあり。彼女は沢山のクラスメイトのメールアドレスを知っている。だから彼女に取り次いでもらって、雨月と連絡を取ってもらう。


 急いでメールを送ると、一分も経たずに返信メールが返ってくる。


『ヤッホー。雨月さんのメールアドレスは知らないよ。だって雨月さんは携帯電話持ってないもん。未だにポケベル持っているんじゃない?藁』


 役に立たないメールが返ってきた。一応お礼のメールをしておく。


 今度は掲示板を開いて、雨月の居所を探ろうとする。だけど今日に限って、掲示板は賑わっており、スレッドの読み込み速度が加速しており、一つ一つチェックしていられない程速かった。


「ねぇねぇ灯命」

「なに? 雑談なら後にしてね」

「雑談じゃないけどさ、俺、雨月の居場所ならわかるよ」


 下へ下へと携帯電話の十字ボタンを押す指を止めて、アルカードの顔へと視線を移す。


「なに? もう一回言って」

「だから、雨月の居場所ならわかるよって」

「どうやって?」

「さっきも言ったけど、鼻が利くからね。雨月はここから南西一キロ程にいるよ」

「それを早く言って!」

「言う前に灯命が自分の世界に行っちゃうから」

「あぁもう私が悪うございました」


 馬鹿をやっている場合じゃない。あの呪符が良からぬ効果を雨月に及ぼす前に見つけなければ。


「南西一キロって、走れば間に合うきゃっ」


 突然身に覚えがあるような浮遊感を感じ、急だったので、普段出したことのない声を出してしまって恥ずかしくなる。


 私はまたアルカードにお姫様抱っこをされていた。


「何してるの」

「だって、一緒に走るより、俺が灯命を抱っこして移動した方が早くない?」

「だからって、いきなりお姫様だっこは止めて」

「可愛い声だしちゃうもんね」

「茶化すな。・・・はぁ、まぁいいや。早く行って」


 アルカードと問答をしていても、時間の無駄だし、アルカードの言う通り私は運動が苦手な部類なので、癪だけど従っておく。


「しっかり捕まっててね」

「へ?」


 アルカードにお姫様抱っこされながら、移動するのは昨日体験した。だけど、これは知らない。存じ上げておりません。


 私達は空中を浮遊していた。アルカードが屈伸して、脹脛が膨れ上がったと思ったら、電柱をゆうに超える高さへと跳躍していた。空中の最高到達点は、ファミレスの駐車場に止めてあった車がミニカーかと勘違いするほどに小さかった。そのまま重力に逆らわず降下を始める。ジェットコースターに乗った時のあの身体に芯が通ってないような、気持ちの悪い浮遊感が私を襲う。


 しっかり捕まってろって言われて、誰が捕まるものかと思っていたけど、恐怖のあまりアルカードの首に腕を回して、ガッチリと捕まってしまう。私は絶叫マシンよりもお化け屋敷派なのだ。


 アルカードはマンションの屋上に着地して、助走をつけて、更に飛んで進んでいく。確かにこれならば一キロあろうが最短距離で辿り着けるだろう。辿り着いた時には私の精神は摩耗しきっているだろうが、事態の急さを考えれば背に腹は代えられない。


 早くついてくれと祈りながら、空中浮遊を味わっていると、民家の屋根を蹴って、十字路に着地したところで、アルカードは動きを止めた。あたりには雨月の姿形もなく、週末の帰宅路だと言うのに、人一人さえいなかった。


「匂いが消えた」


 ポツリとアルカードが呟いた。周りの異様さに私も気付いているので、お姫様抱っこを強制的に終わらせて、地上に足をつけた。うわ、なんだか、しっかりと地に足が付いていない感覚だ。


「雨月さんの匂いは直前まであったの?」

「うん。もう少しで追いつくはずだった。けど、ここでパッタリと匂いが消えている」

「それってよくある事?」

「ある。あるけど、それは結界に入った時じゃないと起こりえない」

「つまり、ここから結界が敷かれている訳だ」

「それも認知できない高度なやつがね」


 人払いと、人攫い用の結界か。人が用意したものなのか、それとも怪異が仕込んだものなのか、いずれにせよ何か陰気臭いけども、雨月さんを巻き込んだのは私の芯の弱さと、アルカードのせいなので、気負いせず、この結界に入っていこうと思う。


 私は式札を取り出して、結界へと一歩足を踏み入れた。


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