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消えるラブコメ  作者: 菅田原道則
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秘密の共有は墓場まで①

 放課後。クラス政治に巻き込まれた私は、物部が運営するファミリーレストランへと親睦会の為にやってきていた。


 ファミレスでの勉強会や、愚痴駄弁りなんて学生らしくて素敵だとは思う。しかし、苦手意識がついている男子生徒との親睦を深めつつ、周りの人間から政治的利用されるかもしれないと気を揉まないといけないのは素敵ではない。


 幹事を務めた山田が最初の挨拶をして、メインであるアルカードが謝辞を述べた。それからご歓談の時間になり、今に至る。私はファミレスの窓もなく壁際の四人席の隅っこで、できるだけアルカードと土御門に目を付けられないようにしながら、蝶番井のおごりとなっているので、普段食べられないメニューを注文して、もくもくと食べていた。


「ここ、いいかな?」


 エスカルゴ料理を持ってやってきたのは、ツインテールとツインテールを結んだ赤と青のリボンが特徴的な女子、雨月あまつき晴日はるひだ。


「いいよ」

「それじゃ、失礼するかな」


 雨月はエスカルゴ料理を、私の食べている途中のピザが乗った皿の隣に置いて、私の隣に座った。てっきり対面に座ると思っていたので、少しだけ驚いてしまった。


「いただきますかな」


 雨月はナプキンをつけてから、手を合わせて食事を始めた。なんだか気まずい。気まずい理由はただ一つ。雨月とはそんなに仲が良いわけではない。話したことなんて日常会話より事務的な会話くらいだ。一応クラス全員の名前は顔と記憶が合致しているので、名前を間違ったり、知らなかったりするなんてさらに気まずいことにはならないのが幸いか。


「それって、羊肉かな?」


 現在私がもくもくと食べているのはラムのランプステーキ。このファミレスの中で一番高い食べ物だ。


「そうだよ」

「どんな味するのかな?」

「羊って感じじゃなくて、牛と変わらないような味かな・・・一口食べてみる?」

「あいにく今は、断肉中で遠慮しておくかな」


 断肉なんて初めて聞いた。でもエスカルゴを食べている気がするけど、それは肉じゃないのかとツッコんでいいものなのだろうか。いや、特に中も良くない人間に追及するのはよしておこう。うん。今日の私は正常だ。



「雨月さんは、アルカード・・・君のところへいかなくていいの?」


 アルカードとの親睦会だが、これは蝶番井が作った、私とアルカードに接点を持たせる会だということは重々承知しているし、私がアルカードに暴力を振るったことを訂正させようとしてくれている蝶番井なりの謝罪なのも理解している。


 それでもクラスの人間は、利己的な行動と、興味本位と、政治的な目的でアルカードへと近づくのが、普通なのだ。このテーブルよりも離れた場所にいるアルカードは土御門に捕まって、何やら歓談しているようだ。同性と喋る時は、私に見せていた笑顔とは少し違う子供じみた笑顔を見せるらしい。


「別に彼には興味ないかな」

「じゃあ、どうして親睦会に?」

「面白そう・・・だったからかな」

「面白そう?・・・でも私といても面白くなくない?」


 どこが? と続けそうになってしまったが、なぜなに質問続きだったので、つい、自虐を挟んでしまった。


「そうでもないかな。ファミレスでこんなに大量に食べる人は初めて見たかな」

「うぐぬ・・・せ、成長期なもので」


 端的にデブとか、卑しい女だとか言われている気がするけど、思いこみすぎだということにしておこう。因みに、モッツァレラトマトとフォッカとポップコーンシュリンプは食べ終えている。テーブルにあるのはラムステーキと、マルゲリータピザ。この後にティラミスとジェラートを食べる予定ではある。


 普段は小食、というかお金がないので完全栄養食ばかりの食生活なのだが、昨日のような髪留めを外す機会があると、呪いのせいで体力を消費してしまうのだ。だからその減った体力を補充するためには、お腹に溜まるものを食べないと体力が持たないのだ。これを公に言えるわけでもなく、他人の金で沢山食べる卑しい女に成り下がるしかない。実際そうなのだけど。


「食べ盛りなのはいいことかな。こんな親睦会を開いてくれる蝶番井さんに感謝かな」

「そうだね。頭が上がらないよね」

「土下座はしなかったのにかな?」

「・・・え?」


 ラムステーキの最後の一口を飲み込んでから、咀嚼した言葉を投げる。


「昨日、蝶番井さんと式神決闘をしたのは知っているかな。どうして骨茱さんともあろう人が式神決闘にまで持っていかれたかな?」


 昨日の事を知っている。てっきりこの情報はC組の人間が占いを使って知ったと勝手に思っていたが、思わぬところから漏れ出ていた。


 雨月の目的はアルカードではなく私だ。だけど私から何を聞き出したいのかは未だに分からない。昨日の詳細を知りたいような口ぶりだが、勝敗は既に噂好きならば知っているはずだ。 


「どうしてって、私を買いかぶりすぎだよ。私はそんなに立ち回りはうまくないよ」

「そうかな? 今もこうして、いい顔しようとしているかな」

「いい顔なんて、そんなことはないよ。いい顔ができるなら、昨日のようにはなっていないよ」

「・・・腹の探り合いは止めるかな。食事をしているから、腹割って話した方がいいかな」

「雨月さんはうまいことを言うね。マルゲリータいる? 美味しいよ」


 話が堂々巡りになるのに嫌気がさしたのは雨月の方だった。のらりくらりと腹の探り合いをしながら、適当に話すのには慣れていないようだ。


 内心勝ち誇っていると、雨月は体一つ私の方へと体を寄せてきた。マルゲリータが欲しくなったのかと馬鹿なことを考えたけど、また黙って澄ました顔で、体を寄せてきた事で自分の退路がふさがれていることに気付いた。


 壁へと追い込まれて、あと体一つ分と言うところで雨月は話し始める。


「僕の話をするかな。僕は呪物を集めるのが趣味かな。このリボンもその一つで、ちゃんと呪いがかけられていたりするかな」

「そ、そうなんだ。私は苦手だな、呪物」


 そもそも私が呪いをかけられた存在だからだ。呪物取り扱いの授業なんて呪物と反応するから、実習課題は免除してもらっている。


「知っているかな。でもそれじゃあ、どうしてポケットに呪物を入れているかな?」

「えっ? ポケット?」


 そう言われて、ポケットを探ると、ポケットの中にはくしゃくしゃに丸まった、昨日剥がしたお札が入っていた。そういえばこのお札、バタバタしていたせいで、二乗院教諭に返し損ねていた。こういった長期間何かを守っていた札には何かが宿ると言う。雨月はこれに反応して私に近寄ってきたのか。


「それ! それ二乗院先生の字かなかなかな!」


 丸まったゴミにしか見えない札を取り出すと、雨月は目を輝かせながら、先ほどとは違った興奮気味の態度で言う。


「そうだけど、そんなに凄いもの?」

「凄いかな! 二乗院先生のお札は、効果効能効力どれをとってもピカイチかな! 効力を失っても残滓が残っていたりして、まだ効能はあったりするから、マニアには垂涎物かな! 学校のあちらこちらには二乗院先生のお札があるけど、張り替えられることは中々ないかな。やっぱり骨茱さんが二乗院先生のお手伝いしていたかな」

「偶に手伝いはしているよ」

「お願いがあるかな!」

 

 雨月は私の両手を取って、目を輝かせながら頼み込む。


「その呪符譲ってほしいかな!」


 呪物マニアの雨月の目的は、この二乗院教諭の呪符だったか。毎回呪符を剥がしてから、二乗院教諭に返していたが、コレクターに目を付けられないために自分で処理をしていたのだろう。呪符を返すのを遅れてもメールをしてこないあたり、そこまで重要なものではないのかもしれないが。


「ごめん。これは返し忘れていただけだから、譲ることはできないよ」

「そこをなんとかな。もちろんタダじゃなくて、お金も払うかな。十万円でどうかな!?」

「じゅっ・・・お金の問題じゃなくて、信用の問題なんだよ。私がこれを無断で渡しちゃうと、二乗院先生との信用問題に関わってくるの」


 十万円との大金で頬を叩かれた気がして、一瞬だけ気持ちが譲る方へと揺らいだけど、なんとか踏みとどまれた。今朝兄とのメールをしていなかったら、魔がさしていたかもしれない。ありがとう兄。


「そこをなんとかならないかな」

「そうだよ。なんとかしてあげなよ」

「いやいや、無理・・・・・・」


 またかと言ってやりたくなった。会話に割って入ってきたのはアルカード。雨月の後ろから顔を覗かせて、雨月の味方をする。


「悪用しないかな! 観賞用だからかな!」

「だって言ってるよ」

「そう言われても・・・ねぇ」


 責任を追及された時に、渡した私が矢面上がるだけで、何かが起こってからでは遅いのだ。陰陽師ならば、そういう先見の明に長けていてもいいのだけど、大好物の前には興奮は隠せないのかな。それにしてもアルカードは、何を思って雨月側にいるのだろうか。


「これ、十万円かな!」


 逃がさないように握りしめている手を片方離してから、財布から万札を十枚取り出して、手の中に捻じ込んできた。


「ちょっ・・・ダメだって。取引はできないってば」

「いいじゃん。秘密にしておけばバレないよ」

「アルカード君はいいことを言うかな」

「・・・はぁ、もういいよ。分かった。取引をするよ。だけど言っておくね。何があっても自己責任だよ」

「流石は骨茱さんかな! 取引成立かな!」


 雨月はようやく汗ばんできた手を離してくれて、湿った手で呪符を大事そうに取ってから、自家製の呪符フォルダーへと直し、席を立って離れていった。


「で? 何か用なんですか?」


 雨月が一人違う席に着いたのを見届けてから、冷めたマルゲリータを頬張りつつ、冷めた目をアルカードに向ける。


「俺が灯命に用がない時に声をかけちゃいけないの?」

「できるなら、そうしてもらいたいですね」

「酷いなぁ。俺の親睦会だよ、ちょっとは仲良くしてよ」

「・・・デザート食べる?」


 アルカードが言う事も最もだし、蝶番井の顔も立てておかなくてはならない。ツンケンするのも少々可哀そうになってきたので、食べようと思っていたデザートを注文するために、メニューを渡す。


「食べる食べる」


 アルカードは主人が帰ってきたような犬の笑顔で答えるのだった。


 無邪気な笑顔に騙されないからな。


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