02:ケイトの推し生活 2
食事会は魔法使いと子供たちの緊張を解す為の時間なのだが、会話が全く頭に入らない程、緊張と不安で食が進まないケイト。食後の魔力測定で結果が残せなかった場合の策を講じなければと、分岐点に立たされている状況に胸が痞える。
後で食べようとパンをハンカチに包みポケットに押し込む。ふとその様子を覗いていたグレッグが自分のパンに切り込みを入れ、チーズとハムを多めに詰め込みケイトに小さく呟いた。
「ハムチーズサンドの方が好きでしょ?後でね」
「ありがとう……」
手元のナプキンに丁寧に包みポケットへ押し込む。ケイトはグレッグの優しさで緊張が解け笑顔が戻った。情報不足では計画も立てられないと判断し、原作に関する流れや重要人物に出会えた時に考えれば良いと落ち着く。
「魔力があるってどうやって分かるんですか?」
「簡単よ、魔力測定器に手を翳すと内なる魔力が反応し、器内の魔石の色が変化するわ」
「無ければ黒、少量は暖色で中量は寒色、魔塔に連れていける子は中量以上になる。だが、我々も学ぶ熱量があれば少量でもウェルカムさ」
「じゃあお医者様になれるって事ですか?」
「うーん、医者だと中量が理想なのよね。でも少量なら調合師や薬草師の道があるわ」
子供たちは嬉しさで一斉に声を上げ口々に「やったあ」「少量でも嬉しい」等感動していた。微笑ましく魔法使いたちは見ていたが、ケイトは無い時の落胆具合を想像してしまい、口を一文字に結んだ。常に明るさを忘れないケイトも、最推しの命が掛かった重要イベントに平静さを失いそうになる。
食事会は終わり、シスターに連れられ談話室に集合する。60㎝程の正方形の装飾箱に入ったガラス玉を取り出し、木製の枠にはめ込みテーブルの上に置かれる。ガラス玉の中央には黒い魔石が浮いていた。
「さぁて皆様、これより魔力測定を始めます!」
近くにいた少年が椅子に座し手を翳せば、金属と吹きすさぶ風が混ざった音と淡い光が発生した。
「起動音よ、大丈夫このまま手を置いてね」
翳した手の平から静電気のような光の筋が伸び、魔石に繋がる様子がプラズマボールを連想させた。ヨゼフは顎に手を当て唸るような声を出し、少年の髪をわしゃわしゃ撫でる。
「残念ながら君には魔力が無いようだ」
落胆した少年と自分を重ね合わせてしまうケイト。続々と手を翳し測定していくが、オレンジ色になったのは二歳上のニカだけ。ヨゼフが、魔力保持者は多くは無いからな、と慰めのような諦めろと言われているような事を言う。食事会で期待を膨らませた子供たちに上げて落とす鬼畜な人たちだと胸中呟く。遠くから来た魔法使いをもてなす会だなと笑っていればもう最後の一人になった。
「最後はケイトねさあ座って」
シスターに手招きされ意を決し座る。ガラス玉の中央で魔石が鈍く光りケイトの緊張を煽った。湿った掌を翳し光が伸びると魔石が震え、起動音より少し高い音が響く。黒い魔石が徐々に色づく様子に全員が感嘆の声を上げた。赤からオレンジそして緑になる。隣のヨゼフが嬉しそうな声で他の魔法使いに感動を共有している。
(魔塔は確定って事よね!)
「あっケイト見てよ!」
「えっ?」
緑で止まっていた魔石が青から紫へと変化した。
「おおー!君、ケイトと言ったね?素晴らしい!」
「おめでとうケイト、貴方は上級魔法使いになれるわよ」
(えっえっ?えーーーー!)
嬉しさと驚きで混乱するケイトと自分のように喜ぶ周囲に声が出ないでいると、グレッグが真っ先にやって来て肩を軽く叩く。
「ケイト凄いなおめでとう!」
「ありがとう!吃驚しちゃった、へへっ」
魔力保持者ケイト・フレミング、ニカ・モーリス両名は明日魔塔へ旅立つ。応援の言葉を貰い嬉しさと勇気が湧いてきたが、寂しさが抜けずグレッグの顔が見れないケイトだった。
タルト・タタンが振舞われお茶会が始まる。ケイトとニカは魔法使いの輪に入り明日の予定を聞き、魔塔での大まかな教程が書かれた紙を受け取る。
「歴史、基礎は同じ。で、他はそれぞれ進む道へって感じね、詳しくは説明会があるから大丈夫よ」
「あの……魔塔主様にはお会いできるのですか?」
ニカは瞳を輝かせながら質問をしていた。
「魔塔内を歩いてるから会えるさ」
「珍しくもないよ、はっはっはっ!」