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日向と日陰、そして深呼吸

 とある大陸の西側にあるエスポワール王国には全寮制の王立学校があります。十六歳になった貴族の子弟子女が三年間かけて必要な教養や所作(しょさ)を学ぶ場所です。


 シュザン男爵家の次女である私オリアンヌも今春からこの学び舎に入学しました。入寮当初は期待と不安が半分でしたが、すぐに期待の方は木っ端微塵になりました。


 その原因は私の姉キトリーにあります。


 教室移動のために別校舎へ一人で歩いていると、楽しそうな話し声が耳に入ってきました。そちらへ顔を向けると、姉上が殿方三人に囲まれているではありませんか。


「まぁ、ジョゼフ様ったら!」


「いや待ってくれ。それは誤解だ。プロスペールとイジドールの言い方が悪い」


「ぼくは事実をそのまま話しただけですよ。イジドールの説明はぼんやりとしすぎだと思うけど」


「そうか?」


 姉上が王太子殿下に反応すると、責任転嫁されそうになったヴォルテーヌ公爵家の長男プロスペール様とユロー侯爵家の長男イジドール様が反論されました。


 王太子殿下は美貌の貴公子と評判で、プロスペール様は天才魔術師と名高く、イジドール様は将来の騎士団長と目されるくらい武に秀でています。


 うそでしょ、今度はあの三人なの?


 姉上達の姿見えなくなったところで、今度はヴォルテーヌ公爵家のジネット様と出会いました。プロスペール様の姉で王太子殿下の婚約者です。


「失礼します」


 緊張の面持ちで私はわずかに頭を下げました。意思の強そうな紅の瞳で冷ややかな目を向けられると怖くてたまりません。腰まで波打つ金髪に縦ロールの理想的な美少女であり、貴族子女の頂点に立つ方です。


 本来ならご機嫌麗しうとご挨拶するべきですが、明らかに麗しくないご様子ですから無理でした。もちろんジネット様からの返事はありません。


 次いで校舎前でお目にかかったのは、プロスペール様の婚約者であるユルヴィル侯爵家のユゲット様です。毛先が内側に巻いているセミロングの茶髪に青い瞳のかわいらしいご令嬢です。けれど、そのお顔が私を見かけると途端に不快な表情となりました。


 更に校舎内ですれ違ったのは、イジドール様の婚約者であるチュレンヌ伯爵家のルシール様です。黒髪を後ろで丸くまとめている茶色い瞳のご令嬢です。元々暗めの感じの方ですが、その顔に憎しみの表情を浮かべて私を睨んでいらっしゃいます。


「うう、怖かった」


 ようやく教室にたどり着いた私は席について安堵のため息を漏らしました。


 姉上の行いで実害を被っている有力な方々に睨まれているせいで毎日肩身が狭いです。こんな私にお友達なんてできるはずもありません。私は何もしていないのに!


 でも、そんな私にも心の支えがあります。それは、婚約者のモルガン!


 毎日授業が終わると、私は一目散に待ち合わせ場所へと向かいました。王立学校の敷地の端にある大きめの樫の木の下、ここで三日に一度愛しいあの人と会っているんです!


 今日もそこでモルガンは待っていてくれました。明るい茶髪に灰色の瞳の美形なんですよ!


「モルガン! 会いたかった!」


「オリアンヌ、僕もだよ!」


 歩み寄った私達は抱き合いました。そして、その胸に顔を埋めます。ああ、モルガンの逞しい香りが私の鼻をくすぐるではありませんか。密かに深呼吸を繰り返します。


「今日はいつもより早かったじゃないか」


「一番近い校舎から来たからよ。それに、授業が終わったらすぐ飛んで来たんだから」


「それは嬉しいね。友達と話をしてからでも、っと、ごめん」


「構わないわ。私にはあなたがいるんですもの」


 失言をしてしまったモルガンは顔を曇らせますが、私は笑顔で首を横に振りました。そうです、悪いのはモルガンではありません!


 本当なら堂々と会えるはずなのにこんなこっそりと逢い引きをしているのは、全部姉上のせい! 誰構わず殿方に近づいていくつもの婚約破棄騒動を起こした姉の評価に釣られて、私評価も最低になったのが原因なのですから。


「あなたさえいてくれたら、他には何もいりません」


「僕もだよ、オリアンヌ!」


 潤んだ瞳で見つめ合った私達は感極まって再び抱き合いました。再びモルガンの胸に顔を埋めて深呼吸を繰り返します。


 こうして私は日々傷つく心を癒やしているんです!

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