表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/840

魅了と誘惑


 「……アル?」

 それほど待つこともなく、ステファーノに導かれたオルグが顔を出した。


 「……どうした?」

 そのオルグの顔を見て、アルは眉を寄せた。

 「?何がですか?ステファーノからアルが帰ってきたと連絡を受けたのですが……」

 部屋に入ってきたオルグは、一見普通に歩いている。だが、その頬は上気し、なんとなく、目が潤んでいる。


 「熱でもあるのか?」

 「……そんなことはないと思いますが……ちょっと広間が暑かったので、そのせいでしょうか……」

 「何か……ちょっと変な雰囲気でしたね。エリアルド殿が激昂していらっしゃいましたし……」

 「エリアルドが?」

 腑に落ちないような顔をしたステファーノの言葉に、アルの眉間のしわが深まる。


 「それより、アル、何かあったのでしょうか。何もなければ、私は()()()()()殿()()()()()()()()()()のですが……」

 「はあ?」

 ちょっと苛立ったように言われて、アルは素っ頓狂な声を上げた。


 「なに…何言ってんだ?お前?」

 「ですから、私はあの方のところへ戻りたいのです。……初めてです。あんなに美しく、聡明な方に会ったのは…」

 ちょっと頬を染めて、オルグははにかむが。


 ちょっと待て!!()()()()()()()()から!!


 三人は同時にそう思った。

 あり得ない。()()オルグが、アルよりも会ったばかりの女を優先するなんて。

 よしんば、一目でフォーリンラブしちゃったとしても、色恋で周りが見えなくなるような男ではないのだ。オルグレイという男は。


 「ちょっとお前、そこ座れ!」

 「あ痛!」

 アルは乱暴にオルグを手近なソファに放り込むと、ごちん!と音を立ててオルグと額を合わせた。


 「あ……アル?」

 「黙ってろ!」

 抵抗を封じて、目を閉じる。オルグの中へ……奥へ、奥へと意識を沈める。


 「…!!」

 オルグの深層意識の奥、王族の嗜みとして常時かけている魔法障壁の一部に、綻びがあった。


 「この……馬鹿!こんなもんにひっかりやがって!」

 「あ…アル?」

 オルグの髪を掴んでもう一度頭突きして、アルは額を合わせ直して集中した。


 「…守護障壁(アパル)…」


 小さく呟くと、二人を取り囲むように光の輪が浮かぶ。光の輪はそのまま光の玉となって二人を包み込んだ。

 その光の中、オルグの深層意識にかけられた障壁が復元され、『魅了』と『誘惑』の効果を打ち消していく。

 ややあって光が消え、目を開いたオルグは、いつものオルグだった。


 「……今のは……」

 「お前、障壁破られてんじゃねーよ。『魅了』と『誘惑』、かけられてたぞ!」

 「!?私が、ですか!?」

 ずびし!と額を突かれて、オルグはあっけにとられる。


 「覚えておられないのですか?」

 ステファーノに冷たい水の入ったゴブレットを渡されて、オルグはまだ呆然と首を振った。

 「…広間が暑かったのと……なにかの香が焚かれていたのは覚えています。…それから…軍議のときに出たお茶が妙に甘かったこと…くらいでしょうか…」


 オルグも、アルも、レティも。

 王族はみんな、深層意識に心理的な状態異常を防ぐための魔法障壁をかけている。

 今回のような『魅了』や『恐怖』などで操られることを防ぐためだ。もちろん、確実とは言えないが、それでもちょっとやそっとの術など効かないはずなのだが……。


 「茶と、香で魔法がかかりやすい状態を作って、『魅了』の魔法を使ったか…」

 「ロザリンド殿にご執心だったようですが…術者は彼女でしょうか?」

 「それにしちゃあからさますぎねえか?」

 ブルムと話しながら、ステファーノは小袋から芥子粒ほどの丸薬を2粒取り出した。


 「エリスの花を煎じた薬です。念のため飲んでおいてください。どんな状態異常にも効きますから」

 「すみません、ありがとうございます」

 礼を言い、オルグは貰った薬をすぐに飲み下す。


 「エリアルドが激昂してたって言ったな。ほかの奴ら全員、術中に嵌ってたのか?」

 「かもしれません。エリアルド殿は『魅了』の類が効きませんから、術にかからなかったのでしょう…」

 「かかった私が言うのも何ですが……王族の私がかかるほどなら、騎士たちはもっと重症かもしれません。…目的は、いったいなんでしょうか」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ