不吉
「あの女、メギド公爵が連れてきたのね」
ふん、とフェリシアは行儀悪く鼻を鳴らした。
「…わたくし、アイツきらーい」
下ろしたシャノワの髪をまた編みながらフェリシアは憮然と言う。
「まあ……ほんの少し前のあなたに似てますものね」
「レティ酷い!」
レティの毒に唇を尖らせて、フェリシアは眉をひそめた。
「……なんか、あの女……不吉な感じがするの」
「不吉?」
好き、嫌いなら好みの問題だが、不吉というのは穏やかではない。
「何か…悪意があるということでしょうか?」
「わかんない…」
上手く説明できないのか、フェリシアは難しい顔のまま首を傾げた。
「なんというか……生臭い雰囲気……?」
「…生臭い……?」
よけい訳が判らなくて、依那とレティは顔を見合わせた。
「で……でも!」
髪を編まれながらずっともじもじしていたシャノワが、意を決したように声を上げる。
「ロザリンドは……きつい物言いもしますが……本当は、優しいのです。こんなみっともないわたくしの護衛を引き受けてくださって…体のことにも気を配ってくださいますし…わたくしの陰口を言った者を、こっそり諌めてくださって……」
「シャノワ様…」
依那が口を開きかけたその時、ドアに軽いノックの音がして、颯太がひょっこり顔を出した。
「ごめん、あの……ねーちゃん、オレ、こっちにいてもいい?」
「颯太?」
「もちろんですわ。お入りください、ソータ様」
戸口で逡巡する颯太を、レティが優しく室内に招き入れる。
「どうしたの?軍議に出てるんじゃなかったっけ?」
「うん……そうなんだけど……」
颯太は部屋に入ってくると、ソファに腰かけてため息をついた。
「なんか………変な空気になっちゃって。逃げ出してきちゃった…」
「変な空気?」
不穏な言葉に、全員が動きを止める。
「…なんか…ちょっと部屋が暑いなぁ、とは思ってたんだけど……気がついたら、砦の人とか騎士団のみんなが…なんというか…ロザリンドさんに…メロメロ?になっちゃって…」
「はぁ?」
「メロメロ?」
「う~~ん……」
説明に困って、颯太は頭を掻いた。