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夕食会

 

 夕食会は1階の大広間で行われた。

 エンデミオンからは颯太たちとドワーフ、エルフたち、カナンからはシャノワ姫とロザリンド、そしてひどく顔色の悪い痩せた騎士が参加だった。


 「初めまして。アウグスト・ベイリスと申します」

 その騎士はぼそぼそと挨拶したきり、食事の間もすっと酒を飲んでいる。

 山の幸を使った夕食は可もなく不可もなく…正直、ザウトの料理の方が美味しいと思ったが、まあ文句は言えない。


 濃紺のドレスに着替えたシャノワは、さっきよりは少し顔色が良いようだった。

 「勇者様、聖女様、レティシア殿下、先ほどはお見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」

 「いいえ、とんでもない。お身体はもうよろしいのですか?」

 「はい、おかげさまで……ちょっと馬車に酔ったようで…お恥ずかしい……」

 気遣うレティに応えたものの、シャノワはそれきりもじもじするばかりで、話が全く弾まない。


 そういや、内気で社交界にもほとんど出ないって、イっちゃんが言ってたよな。


 依那は記憶の中からイズマイア先生の外交講座の知識を引っ張り出す。


 星祭りのときはろくに話もできなかったけど、こうしてみると、確かにシャノワは小柄で華奢だ。

 身長は14歳のレティと同じくらい、色白というより、冴えない顔色に、長いまつ毛に縁どられたブルーグレイの瞳。

 量が多いせいか、もっさりして見える暗い藍色の髪を結わずに背に流している。

 俯き加減なのも相まって、正直、地味だ。


 「姫様、これを」

 近寄ってきたロザリンドが、そっと金のゴブレットをシャノワに差し出した。

 「それは?」

 「薬酒ですわ。最近姫様の体調がすぐれませんので…」


 軍服を着替え、大人っぽい青いドレスに身を包んだロザリンドは、シャノワとは対照的にぱっと人目を惹く美しさだった。

 差し出されたゴブレットを受け取るのをちょっとためらうシャノワに、押し付けるようにしてゴブレットを受け取らせる。

 「駄目ですよ、姫様。苦くてもちゃんと飲まなければ」

 「わかっていますわ」


 「…不味いんですか?」

 ロザリンドが去っていくのを確かめて、小声で訊く颯太に、シャノワはため息をついた。

 「ナイアス兄様が直々に手配くださったものですが……苦いというか…妙な()()()がありますの。ちょっと飲みにくくて…」

 「えぐみ?」

 傍で話を聞いていたらしいステファーノが、ふっと眉を曇らせた。


 「すみません、シャノワさん。それ、ちょっと拝見できますか?」

 「え?……はい」

 シャノワから差し出されたゴブレットのにおいをかいで、ほんの少量を手のひらに零し、指先につけて舐める。

 「これ……」

 「ステファーノさん?」

 一瞬眉を寄せて、それからステファーノは何事もなかったかのようにシャノワに笑って見せた。


 「ほんとに苦いですね。このままじゃ飲みにくいでしょう。…ちょっと待ってくださいね」

 そう言って、ステファーノは果物が並ぶテーブルまで行き、ライムを手に戻ってきた。

 「ライムです。……これを少し絞って……どうでしょう、飲みやすくなったと思いますが」

 「…本当ですわ!えぐみが消えました!」

 返されたゴブレットの中身を一口飲んで、シャノワは顔を輝かせた。


 「ありがとうございます。アズウェル卿。これなら飲めます」

 「ライムひとつを、1/3くらい絞って入れてください。それより少ないと、かえってえぐみが強調されてしまいますから」

 ニコニコ笑いながら、ステファーノは手のひらに残った薬酒を拭いたハンカチを胸ポケットにしまう。


 「エナー!」

 夕食後、どこかに消えていたフェリシアが戻ってきたのはその時だった。

 「エナ!あのね、カナンが、わたくしたちも受け入れてくれるって!レヒトまで来てもいいって!」

 「え?まじ?」

 「ウン!頑張って説得したもん!」


 絶対無理だろうと思っていたのに、お許しが出たらしい。

 上機嫌で抱き着いてくるフェリシアの後ろで、シルヴィアとファビエラがぐったりしているのを見る限り、頑張ったのはこの二人だろう。


 「まぁ…それならいいけど……おとなしくするんだよ?ワガママ言わないで、カナンの人の言うこと聞いて。ドワーフとも仲良くすること!」

 「うん!」

 いい返事をしたフェリシアは、そこでやっと気づいたというようにシャノワを見た。


 「……だれ?この()()()()の?」

 「フェリシア!」

 「痛ぁ!」

 思わず頭をひっぱたくと、フェリシアは悲鳴を上げた。


 「すみません!シャノワ様!ほんとに礼儀を知らない子で…」

 「い…いいんですよ、レティシア様…」

 何故か頭を下げるレティに、シャノワは苦笑する。


 「わたくしなんか……本当にみっともないんですもの。エルフの方から見れば、もっさくて当然ですわ」

 「フェ~リ~シ~ア~!!」

 俯いてしまったシャノワに、依那が拳を握り締めると、フェリシアは慌ててレティの後ろに隠れた。


 「ち、ちがうもん!その子がもっさいんじゃなくて!なんでそんなもっさい()()してんの?って意味!」

 「え?」

 「だって!そんな髪の色なのに、同じような色のドレスで!似合わないんだもん!」


 シャノワ本人ではなく、シャノワの服装が問題だと主張するフェリシアに、レティと依那は顔を見合わせた。


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