痴女エルフの真実
「エナ―!見て見て~!」
どうにか四人部屋に落ち着いて。ホッと一息ついたところで、フェリシアがファッションショーを始めた。
どうやら、四次元ポケット……もとい、魔法の収納袋に衣装一式詰め込んできたらしい。
薄いピンクの、ヒラヒラがとても可愛いらしい。
「ちょっとあんた、それどう見てもネグリジェじゃないの?」
こっちの世界でもネグリジェというのかどうかは謎だが……フェリシアの着ているのはひらっひらの薄絹で、丈は太ももの途中くらい、胸を強調するハイウェストで、あろうことか腰までスリットが入っている。……てか、女性は人前に膝さらしちゃいけないんじゃなかったっけ?
「は……破廉恥ですわ!この痴女エルフ―!」
耳まで真っ赤になって、レティが壊れる。
「しっつれいねー!なにが痴女よ!」
唇を尖らせて、フェリシアはせっせと取り出した服を体に当ててみせる。
「これは夜着だけどー。夕食会ならおめかしした方がいいかなって。エナ、どっちが好き?」
見せられた服は、どれもこれも胸元ばいーんの足元どかーんの露出たっぷり、お色気MAXなドレスばかり。いや、そりゃフェリシアのスタイルなら似合うし着こなせるだろうが、どこへ向かってるのだこの姫様は。
「ねえ、なんでこんなドレスばっかりなの?」
お水みたいだよ、という言葉を飲み込んで聞けば、フェリシアはきょとんと首を傾げた。
「え?だって、人間って、こういうのが好きなんでしょ?」
「は?」
「え?」
……なんだろう。なんだか、すごくとんでもないことを言われた気がする……!
「ちょっと待って、フェリシア。人間が……なんだって?」
「え?だから……人間はこういう、胸元や足を露出した服を着たエルフが好きなんでしょ?」
「はぁぁぁっ?」
なんだそのトンデモ知識!!
「…え?…え??ちょっと、ちょっと待って、人間が…こういうの好きだと思って、こういう服着てんの?」
「……うん……」
困ったように、フェリシアはドレスを抱きしめてベッドに座り込んだ。
「人間は、綺麗なものが好きだから、こういう格好したエルフを見ると喜ぶって。とくに人間の男は、ツンツンされたり抱き着かれたり、擦り寄られたりすると嬉しいって」
「だあああああああっ!誰だそんなアホ知識吹き込んだのは―!!!」
おそろしく無邪気にトンデモ理論展開されて、依那は絶叫した。
この娘、痴女じゃなかった!
むしろ、空恐ろしいほどの天然だった!
そんな大嘘八百信じて、素直に従っただけなのだ。
アルへのあーんなことも、こーんなことも、セクハラじゃなくて、ただ純粋に、喜ばせてるつもりだったとは……!!!
「………とん…でも……ありませんわね……」
衝撃の事実に、レティもあっけにとられて座り込んだ。
ぎぎぎぎ、とお供のエルフを振り向けば、従者のファビエラがむせび泣いている。
…そうか…大事な姫様がその知識で突っ走っちゃってて、諌めようがなかったのか…
「……良い?フェリシア」
がしっとフェリシアの肩を掴み、依那は彼女の顔を覗きこんだ。
「今すぐ!金輪際!その馬鹿げた知識を捨てなさい!!ぜんっぜん、違うから!それ!むしろ、お姫様がやっちゃ駄目なやつだから!!」
「へ……?」
きょとんと眼を丸くして。依那の言葉が脳に行き渡るにつれて、雪のように白い頬にうっすらと朱が散る。
次の瞬間。
絶叫が砦を揺るがしたのは言うまでもない。