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エルフとの対決 2

痛い表現がいろいろとあります


 血を吐くような、フェリシアの叫び。

 ……だが。


 「いい加減にしなさい!」


 バシッと乾いた音が響く。

 依那が風の刃をものともせずフェリシアの懐に飛び込んで、その頬をひっぱたいたのだ。

 一瞬動きが止まった機を逃さず、彼女の腕を引っ張って膝の上に乗せ、思いっきりお尻を叩いた。

 「悪い子には、こうです!」

 「ひっ…」

 硬直するフェリシアには構わず、連打する。


 「勝手に!暴走して!みんな傷つけて!なにが、死んでしまえ!ですか!そんなこと言っちゃダメでしょ!」


 蝶よ花よと育てられたフェリシアには、誰かに叱られて叩かれたことなどない。

 もちろん、お尻をぶたれるなんて、生まれて240年、ただの一度も経験がない。


 「い……痛い!痛い!やめて!痛い!」

 「当たり前でしょ!痛いように叩いてんだから!」

 速攻で泣きが入るが、依那は容赦しなかった。


 「見なさい!シルヴィアはもっと痛い思いしたのよ!」

 顎を掴まれてべそをかきながらシルヴィアを見れば、血塗れのシルヴィアが指先の切断された手を押さえ、同じく血だらけのファビエラが必死で治療しようとしている。

 室内はズタボロで、同じく怪我をしたエリアルドとマルクスにオルグが治癒魔法をかけていた。


 「何が、憐れまないで―!よ!!あんたみたいなワガママ娘、同情だけでなん百年もつきあえるわけないでしょ!どんだけ自分が大事にされてるか、そんなことも判んないの!」

 「だ……って……だって、だって!」

 本格的に泣きじゃくりながら、フェリシアは訴えた。


 「だって……可哀想な姫様って…わたくしのこと、()()()って!!」

 「実際、可哀想な()でしょうが!」

 「ひっ!」

 べし!っと(ちょっと加減して)頭にも一発。


 「たかだか一度や二度可哀想って言われただけで、今までのことすべて同情だって思い込むような残念頭、可哀想って言われても仕方ないでしょ!」

 「ひど……」

 「泣いても駄目!」


 べしーん!


 「…うっわ…痛いんだよね…あれ…」

 経験者だからこそわかる。依那の尻叩きは本当に痛い。

 「………な……なぁ、勇者の坊主……そろそろ止めた方がいいんじゃねえか?」

 7発目の尻叩きを生暖かく見守りながら、颯太は思う。


 ……治癒魔法あるし、()()()()()()大丈夫かな。


 「だいたいねえ!さんっざんワガママ放題でみんなに迷惑かけて、それでいいと思ってんの!?」

 「だって……だって……おじいさまも、おばあさまも……みんな…フェリシアは可愛いから……って……しかたないなあ…って……」

 「……それであんた、よく自分は愛されてなくて憐れまれてるって思えるよね」

 逆に凄いわ、と依那はため息をついて、べそべそと訴えるフェリシアを睨んだ。


 「誰も言ってくれないなら言っとくけど。このままだとあんた、外の世界じゃ嫌われ者だよ?エルフの里ではどうだか知らないけど、ワガママだわ、人の話聞かないわ、人の嫌がることするわ、超上から目線で、人を馬鹿にするわ。いいとこないじゃん。あんた、それでいいの?」

 「…う……」

 どストレートな指摘に、フェリシアの目に新たな涙が浮かぶ。


 「わ……わたくし……そんなに……酷い……?」

 「自覚ないの!?」

 最後にもう一発お尻を叩いて、依那はフェリシアを解放した。お尻を押さえて座り込みそうになるフェリシアの腕を掴んで、立たせる。


 「はい、まずはみんなに謝る!」

 「え……?」


 びしっとシルヴィアたちを示されても、フェリシアはどうしていいかわからない。

 今の今まで、ただの一度も人に謝罪したことなどなかったのだ。

 おろおろするエルフたちに、依那は特大のため息をついた。

 がしっとフェリシアの頭を掴んで、深く頭を下げさせる。


 「悪いことをしたときは!相手の目を見て、ごめんなさい!!」

 「ご…ごめんなさい!!」

 「……ひ……姫様……」

 言われるがままに謝罪するフェリシアに、従者二人は号泣してその場に平伏した。


 「もったいのうございます、姫様!」

 「どうか顔をお上げください」

 「シルヴィア……ファビエラ……ごめん……ごめんね…」

 言ったことのなかった「ごめん」は、一度口にしたら驚くほど簡単にフェリシアの口からあふれ出た。


 「……はい、次!」

 だが、依那はしんみりムードをぶち壊す。次があるのだ。次が。


 フェリシアの首根っこを掴んでブルムたちの前に突き出す。

 「……ごめんなさいは?」

 「ご……ごめん…なさい……」

 躊躇して躊躇して、それでも蚊の鳴くような声でフェリシアはドワーフに謝罪した。

 「声が小さい!」

 「ごっ、ごめんなさい!」

 「何がごめんなさい?」

 「えと……暴れてごめんなさい…?」

 「それだけ?」

 依那に睨まれて、一生懸命考えて、フェリシアはもう一度頭を下げた

 「……その……無視して……ごめんなさい」

 「よし!」

 にっこり笑って、依那はフェリシアの頭を撫でる。

 「………!!!」

 きょとんとして、それからフェリシアはほんのりと頬を染めた。


 「はい、次!」

 エリアルドたちの方へ謝罪に向かう二人を見送って、ブルムとザウトは呆然と顔を見合わせる。


 「………謝ったよ。オイ…()()ワガママ娘が」

 「信じられん……明日、レヒトが噴火でもすんじゃねえか?」

 「……嬢ちゃん……マジすげえな……」

 「俺、絶対嬢ちゃんには逆らわんようにしよ……」


 そんな風にドワーフ二人が頷きあっているとは露知らず。

 「見せてください」

 ひと通り謝罪回りを済ませた依那は、シルヴィアの前に膝をつく。

 「せ……聖女様……」

 「あの…姫様が…」

 「いいからサッサと手を出す!」

 「はいいいっ!」

 イラっとして怒鳴ると、二人は飛び上がって依那の前に痛々しい手を差し出した。


 「……こんなになって……」

 唇を噛んで、依那はシルヴィアの、中指から小指までが第一関節ですっぱり切断された左手に手を翳した。

 と、依那の手から光が溢れ、見る間にシルヴィアの手を再生させていく。


 「…あの……聖女様……」

 「…オルグさんは、あなたを責めても仕方ない、って言ってたけど」

 治療を終えて、依那は真っすぐにシルヴィアの目を見た。


 「あの子があんな我儘になったのは、()()()()()()()()()()()()()()

 「…え…」

 依那の言葉に、二人ははっと息を飲む。

 「そりゃ一番悪いのは孫娘可愛さに甘やかしたじーさまだけど。一番近くにいるあなたたちがフェリシアを諌めるなり、なんなりしなくてどうするの。なんでもかんでも甘やかして好き放題させりゃいいってもんじゃないでしょ。それとも、一生あの子をエルフの里に閉じ込めて()()()()にするつもりなの?」

 「そんな!」

 「いくら聖女様でも、言っていいことと悪いことが…」


 「そこで腹を立てるなら、ちゃんと考えて」

 怒るエルフを冷たく突き放し、依那は立ち上がった。


 「姫様が大事なら、どうするべきか。……フェリシアは、本当は、ちゃんと自分で考えて謝れる子なのに。あなたたちがそのままなら()()になっちゃうかもね」

 言い捨てて踵を返す。と、優しくこちらを見つめているオルグと目が合った。


 「…エナ殿」

 「……ごめんなさい。やっちゃいました……」

 しょんぼりと依那は肩を落とす。

 「……お尻叩いたのは…やっぱ、国際問題になりますかね…?」

 「これを国際問題にする相手なら、国交を断絶しますよ」

 ふわりと頭を撫でられる。


 「お見事です。素晴らしい手際でした」

 ごらんなさい、と示されて視線を上げれば、騒ぎで壊れたらしいマルクスの剣帯を手に、フェリシアがおそるおそるドワーフに話しかけている。


 「あのような光景は、今まで一度も見ることはできなかったのですよ。……エナ殿のおかげです」

 「……そう……なのかな……」


 あたし、エルフのお姫様叱りとばしてお尻叩いただけな気がするんだけど…

 でもまあ、オルグが笑っているなら、大丈夫なんだろう。

 

 とりあえずはほっとして、依那も肩の力を抜いた。




 その後、部屋がめちゃくちゃになったこともあり、30分ほどの休憩をはさむことになったのだが。


 「エナ姉さま!痴女エルフが謝りにいらっしゃったのですが!!」

 「おい!エナ!フェリシアに謝られたぞ!お前どんな魔法を使った!」

 

 血相を変えて飛び込んできた王子様とお姫様に、依那は改めて痴女エルフの素行の悪さに呆れる羽目になるのだった。


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