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エルフとの対決 1

ちょっと痛い表現があります。

 

 エルフの姫との直接対決……もとい、会談は離れの来客の間で行われた。


 エルフからはフェリシア姫本人と、シルヴィア、そして昨日は顔を合せなかったもう一人の従者ファビエラ。

 エンデミオン側からは依那と颯太、オルグ。ほかに仲裁者としてドワーフからブルムとザウト。以上が会談の参加者だった。この8人のほかに、護衛としてエリアルドとマルクスが部屋の隅に控えている。

 開始早々アルを呼べとフェリシアが駄々をこねる一幕もあったが、全員の精神衛生上、アルは別室待機となっていた。


 「……で?あなたたちが勇者と聖女?」

 ソファにしどけなく座り、つまらなそうにフェリシア姫は二人を眺める。


 改めて面と向かってみると、やはりエルフは美しい。

 シミひとつない、真っ白い肌、サラサラのプラチナブロンド、澄み切った青い瞳。

 つやつやプルプルの唇といいバッサバサのまつ毛といい、これでノーメイクだというから驚きだ。

 エルフというとスレンダーなイメージがあったが、彼女は出るとこ出て非常に女性らしい体形をしていらっしゃる。おっちゃんたちの言う、ボン・キュッ・ボン!ってやつだ。豊満な胸を強調するような服を着て、すらりとした足を惜しげもなくさらしている。


 「チビね。おまけに貧相」

 「颯太はまだ育ち盛りの12歳ですから。私もピッチピチの16歳ですし」

 馬鹿にしたような物言いに、すかさず言い返す。

 キレないように努力、と思ったのもつかの間、冒頭のアルを呼べ事件と颯太を見下した段階で、依那の忍耐は底をついている。

 言外に、()()()()、の意を込めてやったが、伝わるだろうか。


 「……随分と生意気なのね。今回の聖女は」


 あ、伝わった。


 ぴくりと柳眉をひそめて、ふん、とフェリシアはそっぽを向いた。

 「まぁいいわ。とっとと終わらせましょう。わたくしはアルと一緒に試練に同行します。よろしい…」

 「お断りします」

 超上からの宣言を、依那は途中でぶった切った。

 「なっ…」

 「あなたが来ると、みんなが迷惑します。アルも嫌がってます。来ないでください」

 「なんですって!」

 きっぱりとした拒絶に、フェリシアは激昂して立ち上がった。目の隅で、ブルムが目を丸くし、隣でザウトが拍手しているのが見える。やめれ。


 「あなた……わたくしを誰だと思ってるの!わたくしは…」

 「クルト族のフェリシア姫ですよね。存じ上げております」

 今度も言葉を途中で引き取って、依那は真っすぐに怒りに燃える青い目を見返した。

 一歩も譲る気はない。依那だって、怒っているのだ。


 「……よくも、わたくしにそんな口を…せっかくこのわたくしが試練に同行()()()()と言っているのに!」

 「…じゃあ、聞きますけど」

 今度は颯太が口を開く。

 「聖剣の試練に、あなたはどう役立つんですか?」


 その問いに、フェリシアは虚を突かれたような顔をした。

 「え……」

 「同行してやる、というからには、あなたを連れてくとなにかいいことがあるってことですよね?それはなんですか?……さっきから見てると、ブルムさんたちに挨拶もしないし、アル兄がいないって文句付けるし、オレたちを馬鹿にするし……みんなの神経逆なでするだけで、いいこと全然ないですよね」

 「う…うるさいわね!」

 がん!とフェリシアがテーブルを蹴った。

 「わたくしが行くって言っているのよ!あなたたちは()()()()()()()の!なによ、偉そうに!」


 「……どうやら、交渉は決裂のようですね」

 硬い表情で、オルグは立ち上がった。

 「何を言っても無駄なようです。あなたは試練の邪魔にしかならない。クルト族には、厳重に抗議させていただきます」

 「そんな!」

 「オルグレイ殿下!どうか、お考え直しください!」

 慌てたようにエルフの従者が叫ぶ。


 「どうか…!()()()()()()()のために!」


 「……え……」

 シルヴィアの言葉に、フェリシアは凍り付いたように動きを止めた。


 「…かわい……そう……?」

 



 

 フェリシアは、クルト族の族長のひ孫の一人として生まれた。

 父のフェリド王子はひどく無口で人付き合いが下手な引きこもりで、一族の中でも変わり者とされていた。

 母はクルト族に併合された別部族の姫で、部族統合のため、父に嫁いだ――いわゆる、政略結婚だった。

 結婚前、母には恋人がいた。

 そのため母は、父を毛嫌いし、決して心を許そうとはしなかった。フェリシアが生まれる前も、生まれてからも…そして、アーサーが現れても。

 それどころか、父がフェリシアにかかわるのを断固拒絶し、ろくに会わせようとすらしなかった……フェリドがフェリシアに無関心なのも、無理はなかったのだ。

 その代わり、父はたった一人の親友であるアーサーを…人間の勇者を、そしてともに戦った仲間たちを愛した。……闇に堕ちるほどに。

 両親に顧みられぬフェリシアは、曾祖父である族長や、王族の長老たちに溺愛されて育った。

 それこそ、どんな我儘も許された。

 他種族を馬鹿にしても、人間の男にちょっかいを出しても、人の恋路に横やりを入れて誰かの幸せをぶち壊しても、ちょっと目を潤ませて、曾祖父に甘えてみせればすべて許された。


 だから……ずっと信じていたのだ。

 自分は、愛されているから、なにをしても許される――愛されているのだ、と。



 

 

 「……おまえたち……わたくしを……可哀想だと……そう、思っていたの……?可哀想だと……憐れんで…いた…の……?」

 へなへなと、フェリシアはソファに座りこんだ。

 「姫様!」

 「お気を確かに!」

 青ざめて震えるフェリシアの両脇から従者が取り縋る。

 

 ――あなたが来ると、みんな迷惑します

 ――いいこと、全然ない

 ――邪魔にしかならない

 

 依那に、颯太に、オルグに言われた言葉が頭の中をぐるぐる回る。

 

 ()()()()()()()()()()()――

 

 わたくしは……愛されてなどいなかった。ただただ……哀れな娘だと……みんな、()()()()()()のだ………!!

 

 

 そう自覚した瞬間。

 フェリシアの周りを風の刃が取り巻いた。

 その刃に切り刻まれて、シルヴィアとファビエラが吹っ飛ばされる。


 「なによ……」

 「姫様!」

 血塗れになりながらも、手を伸ばすシルヴィアの指が飛ぶ。


 「シルヴィア!」

 「…なによ…みんな……みんな、大っ嫌い!!わたくしを馬鹿にして!憐れんで!!……同情なんていらない!わたくしは、()()()()()()()()()()!」


 絶叫するフェリシアからあふれ出した魔法は、無差別に部屋中を切り刻んだ。咄嗟にオルグを庇ったエリアルドの腕が裂け、颯太と依那を庇おうとした、マルクスの背も切り裂かれる。


 「みんな……みんな、死んでしまえ!」

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