妹だって怒っています
珍しくも、兄が怒りを露わにしていた頃。
女性陣の寝室でも、妹が怒り狂っていた。
「……レ…レティさん?ちょっと落ち着こうか?…」
先にキレられて、怒りそこなってしまった依那が一生懸命宥めるも、レティは感情の赴くまま目の前のケーキを粉砕している。
「だって、エナ姉さま!こんな失礼な話、ありませんわ!アル兄様を何だと思ってるのでしょう!あの痴女エルフは!」
フォークで突き過ぎて小さい欠片になってしまったケーキをまた突き崩す。
「痴女……」
「あんなに嫌がっているのに、足を撫でたり、腿を擦ったり……痴女でなければ変質者ですわ!今回はアル兄様が騎乗でしたから、まだ足だけでしたが…酷いときは腕を絡めたり腰に抱き着いたり、胸を押し付けたり、あまつさえ口づけを強請ったり!もう、もう、見るに堪えませんのよ!やっぱり痴女で十分ですわー!!」
「ああもう、はいはい、判ったから」
うわーん!とフォークを振り回すレティの手からフォークを取り上げ、ぎゅっと抱きしめる。
「腹立つのは判ったから。可愛いレティが痴女とか言っちゃいけません」
「………だって……」
くすん、と目を潤ませて、レティは依那の腕の中でおとなしくなった。
「…いやなのです。本当にアル兄様を好きなのならまだしも、あの方はオルグ兄様にも同じようになさるのですもの。若くて、素敵で、見目麗しい殿方なら、誰でもいいのですわ。きっと」
「…美形すぎるのも考えものだねえ…」
痴女エルフのターゲットにされたアルが気の毒すぎて、遠い目になってしまう。
この控えめなレティがこうも怒りを露わにするなんて、今まで相当腹に据えかねていたんだろう。
「今までの所業はともかく、可哀想だから、とか寂しいから、なんて理由を振りかざして、アルに言うこと聞かせようとするのは許せないな」
「ですよね!?そうですわよね!!」
依那のつぶやきに、レティは我が意を得たり、というように依那の手を握る。
「そんなに寂しくて、殿方にチヤホヤしていただかないといられないなら、アル兄様じゃなくてエロワカメに慰めていただけばいいんですわ!」
「レティったら」
大事な従兄弟のためにぷんぷん怒っているレティを抱きしめて、依那は明日のことに思いを馳せた。
寂しいから、可哀想だから、アルに甘えさせろ、優しくしろと要求するエルフの姫。
だが、それは従者の意見だ。本人はいったいこの騒動をどう思っているんだろう。
「……まずは、本人に話を聞かなきゃ…だな…」
とりあえず、なるべくキレないように努力しよう。
そう心に決める依那だった。