微妙な知らせ
「判断に悩む…お知らせ?」
ため息をつくオルグの横で、アルは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「まず、一つ目。順調にいけば、明日の夜にはカナンとの国境に近いミルダーという宿場町に着くのですが…そこで、クルト族の代表が合流するそうです」
「ゲッ!」
「代表って……まさか……」
「…それ以外にねえだろ…」
狼狽えるドワーフたちと、心底嫌そうなアル。
「そのまさかです。……フェリシア姫がいらっしゃいます」
オルグまでが特大のため息をついた。
「……星祭りにいらっしゃらなかったので、安心してましたのに……」
ぼそっと呟くレティも、眉をひそめている。
「…なんなの?その人……」
周りの嫌がり方に、依那と颯太は顔を見合わせた。
「フェリシアはフェリドの娘で……エルフの王族で一番年下のお姫さんなんだが……」
「周りが寄ってたかって甘やかしまくったおかげで、なんつーか、ずいぶん高飛車っつーか…ワガママな奴でな…」
「まぁ……ぶっちゃけ、坊主狙いの王子様狙いだ」
「はあ?」
「え?え?アル兄とオルグ兄と、両方?」
「その時の気分で違うのですよ。アルにベタベタしたかと思えば、次に会ったときには私に迫ったりします」
「人間にはまだ友好的だが、他種族を見下したりするんでな……いろいろ問題を起こしすぎて、クルト族もあまり里から出さないようにしてはいたんだが……フェリド王子の闇落ちがあるからな。おまえらを実際に見定めるつもりなんだろうよ」
「オルグ兄様とアル兄様がお気に入りなので、周りの人間を邪険にする傾向がありますの。エナ姉さまも、ソータ様も、お気を付けくださいね。なにかあったら、すぐにお知らせくださいませ」
「俺らなんか、虫けら扱いだもんな」
「なんか……イメージと違うよね……」
「うん……」
エルフって言うと、爽やかで清廉潔白で、っていうイメージがあったのになぁ。
「それで、もう一つの知らせというのは?」
気を取り直したように聞くレティに、オルグは複雑そうな顔を向けた。
「ミルダーから半日ほどでカナンとの国境ですが……カナンからの使者として、シャノワ様がいらっしゃるそうです。ナイアスは不在、とのことで…」
「え?エロワカメ来ないの!?」
思いがけない知らせに、つい依那は声を上げる。
エロワカメのことだから、絶対来ると思ってたのに。
「エロワカメ?」
「もしかして…ナイアスのことか?」
「上手いこと言うなあ!嬢ちゃん!」
横でドワーフどもが爆笑しているが、この際無視する。
「そうなんです。……なんか、裏がありそうですよね…」
「絶対、良からぬことを考えていそうですわ!」
「むやみに人を疑うのは良くないけど……こればっかは同意するよ…」
ナイアス。ある意味ものすごく信用されているかもしれない。嫌な方向に。
「……まぁ、今から考えていてもしかたないでしょう。とりあえず、フェリシア姫のことでは、ドワーフの皆様に不快な思いをさせるかもしれません。申し訳ありません」
「いや、王子様が謝るこったないだろ?」
「そうそう、悪いのはあのワガママ娘なんだし」
オルグが頭を下げるのに、ドワーフのみんなが恐縮している。
「おまえらも、気をつけろよ」
「アル兄…」
「さすがに危害を加えられることはないと思うが……今回の興味が俺に向いてた場合、俺の指輪を持ってるエナ殿が狙われる可能性がある。……かといって、指輪を外しても護りがなくなって危険だし…なんかされそうになったら、すぐに俺を呼べ。……いいな」
「……わかった」
……ホント、いったいどういう人なんだろ。ここまで言われるエルフって。
ぽん、と颯太の頭に手を乗せて、アルは騎士たちの方へ戻っていった。今夜も順番で夜警をするのだろう。
「嬢ちゃんたちもそろそろ休みな。明日また早いぞ」
「はぁい」
ザギトに促されて依那たちはテントに戻った。
明日の夜に合流するという、トンデモエルフ。
……何事もありませんように…!
心から、そう願わずにはいられなかった。