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親友たち

 

 「……アーサー様って、どんな人だったんですか?」


 食事も終わり、後片付けもすんで、みんなが思い思いに寛ぎだしたころ。

 焚火を囲んでお茶を飲みながら、颯太はブルムにそう聞いた。

 颯太の隣に座る依那も、レティも、一緒に焚火を囲んでいたドワーフたちも驚いたように颯太を見る。


 「…ずいぶん、直球だな。勇者の坊主」

 酒を口に運ぶ手を少し止めたものの、にやりと笑ってブルムは答えた。

 「……ミュウの姐ちゃんに聞いたか」

 「……はい」

 ミュウ、というのはリュドミュラ様のことだろう。一度、ラウさんがそう呼ぶのを聞いたことがある。


 「…アーサーは…変わった奴だった。来たばっかの頃は、ろくに剣も振るえない、ヒョロっちい若造でな。本人も、なんで自分が選ばれたのか判らんと嘆いていたが、俺から見ても、こんなんで試練を突破できるのかと不安になるくらいだったよ」


 じっと見つめる炎の中に、あの頃の……懐かしい面影が浮かぶ。

 実年齢はえらく年上だったらしいが、別嬪で勇者より強い聖女のエカチェリーナ。

 頼りなくてなよっちくて、その実誰よりも芯の強かったアーサー。……そして。


 「…だが、あいつはフェリドに会って変わった。フェリドもだ。長い付き合いだったが、フェリドが笑うのを初めて見たよ。あいつらは、まるで二人で一つの貝みてえだった。元の世界では戦災孤児で、友達も頼る人もいなかったアーサーと、からっぽの孤独だったフェリドは、お互い引きあったんだろうな。正直、アーサーの奴は魔王倒すためじゃなくてフェリドに会うためにこっちに来たんじゃねえかって揶揄ったもんだよ」

 

 ――かもしれないねえ


 そういって、あいつは笑った。春のおひさまみたいな笑顔で。


 ――でも、ブルムもだよ?

 ――友達がいないおれが、こっち来て、二人も親友ができた。それだけで、おれ、勇者に選ばれてよかったなぁって

 

 「…魔王を倒して…魔王の魂が宿ると言われてた宝珠を壊して…それで終わったはずだった。アーサーもエカチェリーナも残ることになって、クルトに行くって聞いて…言ったんだよ。俺は。のめり込みすぎるな、って。人間は、どうしたって()()()()んだって、フェリドの奴に。あいつは、判ってるって言ってたけど…判ってなかったんだろうなぁ。いや、判ってても、諦められなかったのか……そのあとのことは…ミュウに聞いたとおりだ」

 「……フェリドさんを……元に戻すことは、できないんでしょうか…」

 「……そりゃ、無理ってもんだ。嬢ちゃん」

 依那の問いに、ブルムは首を振る。


 「ミュウからサリエラを引っぺがせないのと同じ……いや、もっとかもしれねえ。神や精霊を宿すっていうのは、魂がくっつくことだが……闇落ちってのは、魂そのものが変質しちまうことだからな。もしできたとしても……命は助からないだろうよ…」

 「……リュドミュラ様は、サリエラの魂と溶け合ってしまっていて引きはがせないとおっしゃってました。…闇落ちは、それ以上なのですね…」

 涙ぐむレティに、ブルムとポジタムは顔を見合わせた。


 「闇落ちと神や精霊を宿す…まぁ、神憑きだな、これの違いってのはな。お姫さん。()()()()()()()、ってことだ。闇落ちは、死ねなくなるわけじゃねえ。まあちぃっと寿命が延びるやつもいるが、どっちみち生き物だ。その生き物の寿命がくりゃ死ぬし、殺すこともできる。フェリドだって……そうだなぁ、あと3~400年もすりゃ寿命で死ぬ。対して神憑きは、宿った相手の命が尽きるまで死ねなくなる。……生き物の範疇を超えちまうんだ。だから治癒魔法が効かないし、薬も効かねえ。その代わり、どんな怪我もすぐ治っちまうし、四肢欠損だって再生しちまう。……ただ、その痛みは半端ないらしいが」

 「リュドミュラ様……自分で死を選ぶこともできないって…言ってました…」

 「物理的に、殺せねえからな……ただ……()()()()()()()()()()()()()

 弾かれたように顔を上げた三人に、ブルムは恐ろしいほど真剣な顔で言った。


 「……ミュウには、絶対に言うんじゃねえぞ」

 ちらりと周りを見渡し、他に聞いている者がいないのを確認して、ブルムは続けた。


 「…ミュウが、魔王に会ったとき、動けなかった話は聞いてるな?」

 頷く三人。

 「神憑きや精霊憑きは、魔王と人間の戦いに干渉できない。これは鉄則だ。魔王の金色の瞳に見られただけで、身動き一つできなくなる。これはまあ、防衛反応みたいなもんだ。本能的に魔王に干渉すまいと体が反応するんだな。……だが、それでも魔王に立ち向かおうとした場合……魔王に攻撃を仕掛けた瞬間に、()()()()()()()()

 「しょ……?」

 「…死ぬんだよ。というより、文字通り、跡形もなく消滅する。存在できなくなる、と言った方が正しいか」


 「な……んで…そんな……」

 「わからん。……だが、事実だ。俺の、ひいひい、もひとつひいじいさんが実際、それでおっ()んだらしい」

 「なんなのよ、それ!わけ判んない!つまり、どんなに強力な力持ってても、神様が魔王に喧嘩吹っ掛けたら、神様死んじゃうってこと!?」

 「それで、魔王は無傷なわけ?なんで魔王ばっか優遇されてんの!?」

 「おいおい、嬢ちゃんも勇者の坊主も、俺に言うなよ」

 思わず詰め寄った依那と颯太に、ブルムは両手を上げて降参する。


 「……つまり……その方法を使えば…リュドミュラ様は……」

 「……いいな。絶対言うんじゃねえぞ。知れば、ミュウは……嬢ちゃんと勇者の坊主のためなら、あの女は、魔王にダメージが与えられないって知ってても、やりかねん」

 「言いません!」

 「絶対!!」

 「死んでも!!」

 その光景がありありと想像できてしまって、三人は震えあがって誓った。


 「………どうか、しましたか?」

 ちょうどそのタイミングで、テントからオルグとアルが姿を現した。

 「なにか、大声で叫んでたようですけど……」

 「えっ、いやそのちょっと、怖い話を!」

 「恋バナと怪談はキャンプファイヤーの定番ですから!」

 「本当に怖かったですわ!」

 「……そうですか……?何事もなければ良いのですが……」

 きゃんぷふぁいやぁ?と首をかしげながらも、オルグは誤魔化されてくれたらしい。


 「どうかしたのかい?王子様」

 「ええまあ……良いんだか悪いんだか、判断に悩むお知らせが二つ、王都から届きました」


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