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シスコン勇者とDV聖女  作者: 7E


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入城


 ゆっくりと……ゆっくりと繊細な細工の門が開く。


 「………う……」

 開かれていくそれを前に、思わずアルは息を飲んだ。

 馬車に乗る颯太やレティ、そして少し離れた本隊で待機する依那もきっと同じだろう。それほどに……結界の消失とともに門から溢れ出す気は異質だった。

 昏い―――ねっとりと絡みつくような―――悍ましい、瘴気にも似た、()()ともいうべきもの。


 「ようこそおいでくださいました。アルフォンゾ様、そしてレティシア姫様。姫様がどれほどこの日を待ち望まれたでしょう」

 同じ気を纏った―――おそらくこれが、シンシアの近衛隊を屠ったウルリーケという女なのだろう―――女が進み出て、完璧なお辞儀をする。

 「どうぞ、お進みください。騎士の皆様も……エルフの皆様も」

 そして一歩脇へ寄り、一同に綺麗に掃き清められ雪の一片もない道を示した。


 《 アルトゥール 》


 ひとつ大きく息を吸い、前進を命じようとしたアルの耳許に、囁くような声が届く。

 「……セオ?」


 《 ここから先は魔王の領域。俺たち神々は立ち入ることができぬ 》


 ―――!!そう…か……


 世界樹の封印は解けたとはいえ、神々は未だ約定に囚われている。直接対峙は出来ずとも、近付くことくらいは……と思ったが、魔王の領域というのはそう生易しいものではないのだろう。


 《 一旦離れるが……忘れるな。離れたとはいえ、俺はお前に宿っている。コンラートと直接やりあおうとすれば、斬りかかった瞬間におまえは消滅するのだということを 》


 ―――……ああ。判っている


 苦渋に満ちたようなその声に一瞬目を瞠り、アルは意識して肩の力を抜いた。

 「……殿下?」

 「大丈夫だ。……前進!」

 気づかわし気に声をかけてくるエリアルドになんでもないと首を振り、アルは改めて隊列に前進を命じる。


 ―――俺が死んだらお前だってヤバいんだろ?無茶はしねえよ。それより、みんなを頼むな!


 背中に感じる心配の気配にそう言い遺し、アルは馬を進めた。

 


 

 「……………さて。あなた方の入城は許していませんわよ?」

 夢幻城へと進む一行を恭しく見送り、ウルリーケは口許に冷たい笑みを張り付けたまま、門の前に佇む青いドレスの美女と白いワンピースの少年に向き直る。

 「ふん!頼まれたとてこのような気色の悪い城に入りたくないわ!!」

 腕を組んだワリスがふんぞり返り。

 「ぼくらはただみんなの帰りを待ちたいだけだよ。大事な仲間の帰りをね」

 微笑んだナルファがそう言って首を傾げた。

 「それとも……()()()()排除するかい?青と白の世界樹を?」

 「……まあ、いいでしょう」

 しばしナルファを睨みつけ、ウルリーケは忌々し気に鼻を鳴らすと門に背を向ける。

 「いくらでも待つが良いわ。でも、()()()()()()()()()があのかたの領域を侵せるとは思わないことね」

 言い捨てて去っていく背中と、ゆっくりと閉じる門を眺め、ナルファはため息交じりに肩を竦めた。


 「……やれやれ。世界樹は相当馬鹿にされてるみたいだねえ」

 「どうじゃ?あの顔に見覚えはあるか?」

 「……いいえ。でも、マーマンの血を引いていることは間違いありませんわね。しかも王族……かなり直系に近い血のようですわ」

 ワリスの問いに答えながら、ゆらりと魚人族の女王、エドナが姿を現す。

 「おそらく、200年ほど前に行方知れずになったという、一族の姫の関係者でしょう。死亡が確認されたということになっていたけれど、生き延びていたのね……。おおかた、人の間で生きて、シナークに戻ったこともないから世界樹を見たこともない世間知らずなのでしょう。ワリス様、ナルファ様、同族の無礼をお詫びしますわ」

 「いやいや、きみが謝る必要はないけどね」

 苦笑し、ナルファは閉じた門に向かい片手を上げる。

 「その、『()()()()()()()()()』の力、見せてあげようじゃないの」


 その掌が、ぼうっと白い光を帯びる。

 と、次の瞬間、繊細な門の枠だけを残し、格子部分が消失した。


 「えっ!?壊しちゃったの!?大丈夫?これ。門破ったの、すぐバレるんじゃない?」

 本隊とともに駆け付けた依那が、門の惨状を見て慌てるのに、ナルファは不本意とばかりに口を尖らせる。

 「大丈夫だって。そのために、枠だけ残したんだもん。あのマーマン擬きの侍女も、中で結界張ってる魔導士も、結界に穴が開けられたのなんか気付いてないよ」

 「なるほど。枠を通じて()()()()()()()()()()()…か。これなら確かに気づかれないでしょうね」

 感心したように門を眺め、ステファーノも太鼓判を押した。

 「それに、大聖堂の出現やなんやで魔導士たちも浮足立っているはずです。結界さえ張れていれば、穴があるなんて思いませんよ」


 「では、ここからは手筈通りに!隠形をかけたまま敷地内に侵入、周囲の森を制圧しつつ夢幻城と黒の大聖堂を強襲する!第一目標はオルグ殿……もとい、魔王の所在と大聖女像の安置場所確定!いいか、もし第一目標を発見したとて不用意に近付くな!必ずエナ殿かソータ殿を呼べ!」

 『我らも上空から逐一状況を本陣へ伝達しております!ご一報くだされはすぐに救援が駆け付け、本陣の陛下を通じ、全軍へ通達が回りましょう!』

 「おお!!」

 「いよいよだ、魔王軍に目に物見せようぞ!!」

 騎士団本隊を指揮するジャーヴィスとスフィカのジヴァー将軍が最終の確認事項を通達する。真剣な顔で声を上げる周りを見渡し、依那も声を上げた。

 「みんな、くれぐれも気を付けて!ここが魔王の本拠地である以上、どこに魔王軍が潜んでるかも判んないわ!それでなくても、夢幻城にはどんな仕掛けがあるか判らないし!」


 どうか、誰も死なないで―――喉元へこみ上げたその一言を、必死で噛み砕く。


 「……ここが最後の正念場になるかもしれない。みんな、無理すんなとは言えない。でも……全力を尽くそう!そして、オルグさん連れて、生きて帰ろう!」


 おおお!!!


 依那の精一杯の鼓舞に、地を揺るがすほどの鬨の声が上がる。

 その声に頷いて、依那はナルファとワリスを振り返った。

 「ワリス様、ナルファ……」

 「判ってるって。ぼくらはここで後方支援と怪我人の治療を行う。後のことは任せて、行っておいで!」

 「うむ、手薄になる本国は、ジョルム様やドリュアスが神官長兄弟と護っている。そちらのことは気にするな」

 力強く頷き返してくれる世界樹に一つ頷くと、依那は門に向き直る。

 そして。

 

 「……全軍、進軍!」


 ジャーヴィスの号令で、隠形をかけた本隊は潜入を開始した。

 

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