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愛しいひとの眠る場所

久々の!ひさびさの投稿です!!

遅くなってすみません!!


 

 どれくらい、時間が経っただろうか。


 キッチェの号泣がしくしく、になり、すんすん、になり………無音になって、しばらく。

 未だナルファの膝から顔を上げられないキッチェを、(ああ、きまり悪くて顔合わせられないんだろうなあ……)と生暖かく眺めながら、ナルファはお茶道具を片付けるステファーノに声をかけた。


 「そういえば、ステファーノ。『エノクのたからもの』が隠されているとしたら、ここか死者の島だって言ってたよね。なんでこっちだと思ったの?」

 「ああ」

 最後のカップを道具袋にしまい終え、ステファーノはなんでもなさそうに答える。

 「魔王と融合後、ルルナス……いえ、魔王がここへ来た形跡がなかったからですよ」

 「来なかったから………なの?」

 首を傾げるナルファに、ステファーノはよっこらせと座り直しながら笑った。


 「考えてもみてください。ルルナスは魔王(コンラート)の肉体に宿っているんです。ルルナスがここへ来ようとしたら、彼も連れてくるしかない……。勇者だった頃ならいざ知らず、魔王となったコンラートはこの泉の神気を嫌がったかもしれません。……もっとも、ぼくはルルナスが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないか、と思いますが」

 「コンラートを……」

 「ええ。ここは、ルルナスのたいせつな場所。エノクと出会い、エノクと過ごした場所。彼にとっては、誰にも踏み入れられたくない、聖域のようなものだったのではないでしょうか」

 「聖域……か……」


 そうかもしれない、とナルファは星をちりばめたような天井を見上げ、思う。

 ここは静かで……安らぎに満ちている。ルルナスは、そんな場所に宝物を隠しておきたかったのかもしれない………。

 

 ………だとしたら……勝手に踏み込んじゃって、ごめんね……

 

 「……それに、死者の島には死者の島で、別のたからものが安置されているんじゃないかと思いますよ」

 「へっ?」

 ルルナスに思いを馳せていたナルファは、ステファーノの言葉に現実に引き戻された。


 「別のたからもの……?」

 「ええ。死者の島……魔王城跡地には、神気に満ちた、小さな泉がありました。エナさんが、ルルナスの幻に出会った場所です。そして、エナさんは赤の世界樹の検分の時にもその場所を訪れたそうです。エナさんはルルナスの幻以外、詳しいことを口にしたがりませんでしたが……おそらく、()()を見たのではないでしょうか…」

 「何か……って……」

 「……泉は、大樹に偽装され、その存在が隠されていました。そうまでして、隠したかったもの……多分、コンラートが()()()()()()()()もの……」

 「……まさ……か……」

 すう、と、ナルファは血の気が引くのを覚えた。


 魔王となった彼が、誰の目からも隠し、護りたいもの。

 そんなものがあるとすれば、それは………


 「おそらく、それは彼が愛した初代聖女、エリシュカ様のご遺体……あの泉の底か、その周辺に、エリシュカ様のお墓があるのだと思います」

 「!!」

 「ステファーノ!?」

 ナルファが息を飲むのと同時に、キッチェがものすごい勢いでナルファの膝から顔を上げた。


 「どうして、それ……」

 「ああ、やっぱりそうだったんですね」

 きまり悪さをどこかへすっ飛ばしてあんぐり口を開けるキッチェに、ステファーノはなおものほほんと微笑んで。

 「あの泉を隠した大樹の偽装はたいしたものでした。小聖女筆頭の姫様も、以前探索に訪れたエルフも、精霊憑きであるリュドミュラ様の目も欺いた。そうまでして隠したかったのは、あの場所によほど大切なものが安置されているからです。彼にとってそこまでたいせつなもの……それは、エリシュカ様以外、ありえないでしょう?」

 「アンタ………」

 まじまじと、穴のあくほどにステファーノの顔を見つめ、ふっと小さく笑ってキッチェは肩を落とす。

 「ほんとに……アンタには敵わないわね……。勇者といい聖女といい、どうして今回はこんな規格外が集まったのかしら…」

 ふう、とため息をつくと、キッチェは天井の星空を見上げた。


 「……そうよ。アンタの言う通り。あの泉の底には、エリシュカの遺体が安置されているわ。何代か前の勇者との戦闘で魔王城が崩壊しても、聖なる泉に護られた、あの場所だけは崩れ残った。でも、エリシュカの安らかな眠りを妨げたくなくて、コンラートはあの場所を封印したの。あの泉は、創生神が遺した()()()()()()のひとつ……時を戻す泉だから……」

 「時の泉!?」

 ぎょっと身を乗り出したステファーノを見て、キッチェは面白そうに片眉を上げる。


 「あら、アンタでもさすがにそれは知らなかったの?……そうよ。この世界には時の泉と呼ばれるものが3つある。ひとつは死者の島、エリシュカの遺体を安置した、時戻しの泉。ひとつは霧の森、チュチュの領域にある時止めの泉。そしてもうひとつは遥か北の地、ルルナスが滅ぼした北の小国……今はイルヴァ湖と呼ばれる湖のほとりにある、時急きの泉よ」

 「イルヴァ湖のほとりですって!?」

 「そう。あの場所はもともとは名もないカナンの属国だった。そして、エノクを殺され、邪竜に堕ちたルルナスが、宣戦布告とともに滅ぼした国。ルルナスの一撃で巨大な穴が開いたあの場所にいつしか水が湧き、あの湖となったの。……もっとも、時急きの泉があるのは地下。見ただけじゃわかんないわ。そして、その泉を崇めるために、1000年くらいまえに小さな修道院が建てられた」

 「ちょ……ちょっと待って!整理させてください!キッチェさん!!」

 キッチェの言葉を整理しようと頭を抱えながら、ステファーノは呻いた。


 「時の泉は3つあるんですね?一つは霧の森の、時間を止める時の泉。ひとつは死者の島、魔王城跡地にある、時を戻す泉。そして最後のひとつ、時を進める泉は……イルヴァ湖のほとりの、()()()()()()()()にある……と?」

 「ステファーノ……それって……まさか……」

 ステファーノの言わんとするところに思い当って青褪めるナルファと、血の気の失せたステファーノの顔を見比べ、キッチェは重々しく頷いた。


 「……そうよ。時急きの泉があるのは、カーンの修道院の地下。つまりは、()()()()()()()……その下にある、()()()()()()()()よ!!」

 




 


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