巡る命
どのくらいたっただろうか。
「颯太!」
ずっと森を眺めていた依那は、アルと颯太が歩いてきたのに駆け寄った。
「大丈夫?着替え持って行こうかと思ってたんだけど…」
「ん、大丈夫。アル兄が乾かしてくれた」
「おう、戻ったか。そろそろ先に進むぞ」
そう言うブルムの方を見れば、先ほどの戦いの後はすっかり片付けられて、あの熊の巨体もない。
「あれ?熊は?」
きょろきょろ見回す颯太に、ブルムはこともなげに言った。
「あれは今日の晩めしだ」
「え!?熊、食べるの!?」
「当り前だろうが。何を驚いとるんだ?」
「狩ったからには、ちゃんと食べて、再利用!これ、常識だぞ?」
なにやらでかいずだ袋(あとで聞いたらなんでも収納可能な魔法具らしい)の口を縛りながら、ゴルトが言う。
お前の世界では違うのか?とむしろ不思議そうに聞かれて、颯太はちょっと考えた。
……そう……だよな。趣味で狩りをする人もいるけど、本来はそれが正しいよな。
食べるために殺して、殺したからにはきっちりいただく。そして命は巡る。こんなことでもなきゃ考えもしなかったかもしれないけど…それが正しい在り方だ、と今は思えた。
「ううん、多分、俺たちの世界でもそう。狩りはあんまり一般的じゃないけど」
「そうか。楽しみにしてろ、新鮮な熊肉だ」
「熊っておいしいの?」
「ちいっとくせはあるが、なかなかいけるぞ。まぁ、料理の腕次第だな!」
ドワーフと話を弾ませる颯太を眺めて、依那はそっと息をつく。
……颯太が虫以外の生き物を殺すのを、初めて見た。
だから心配だったのだ。颯太がそのことを気に病んでいないか……トラウマになっていないか。
依那だって、生き物を殺したことはそうそうない。頭ではわかっていても、実際いざとなったら殺せるか…自信はない。
――命を奪ったときの心の持って行き方は、命を奪ったことのある人でなければわかりません
オルグの言葉を思い出す。
実感がこもった、重い言葉だった。本当に、そうなんだろう。……でも。
命を奪うことで、颯太が苦しい思いをするのなら。
寄り添って、支えてやりたい。少しでも力になりたい。今は、見守るしかできなくても。
「エナ姉さま!出発しますって」
「あ、うん!今行く!」
レティの呼びかけに応えながら、決意を新たにする依那だった。




