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滅ぼされた一族


 「しかし……よろしいんでしょうか?こんな貴重な品を……」

 漫才のような颯太とチュチュの口喧嘩(?)も落ち着きを見せ、ステファーノは未だ大事そうに世界樹の杖を抱え込んだまま呟く。


 「いいのですよー!本来、世界樹の秘具は勇者と聖女を補助する、()()()()()()()()()()なのですー!」

 「えっ!?そうなの!?」

 「そうだよ。オルトやアルタを有する勇者や聖女とは違い、彼らとともに戦う従者たちは、普通の武器で魔王たちと戦うわけだからね。その従者たちを手助けするために世界樹の秘具は誕生したんだよ。……と言っても、4つの秘具が揃ったのは、聖戦の時のみ。伐られた本体の残りで作られた黒の杖は聖戦で壊れてしまったし、ぼくは世界の輪から外れてしまったから……実際に第2勇者以降の戦いに協力したのは、ワリスの青の剣と、ジョルムの赤の盾だけなんだよね」

 驚く依那に、ナルファはそう言って微笑んだ。


 「でも、みんなが世界樹の封印を解いてくれたおかげで……ようやくぼくも、みんなの手助けができる。……ほら、受け取るがいい。ももいろのお姫様。白の世界樹の秘具……白の(ころも)だ」

 「まあ!」

 その言葉と同時に暖かな光がレティを包み込み、その肩の上に純白の衣がふわりと現れた。

 「ナ…ナルファ様!?これは……」

 「白の衣。纏う者をあらゆる邪気から護り、即死を避け、傷を癒す。癒しの力に満ちた衣だよ。小聖女として戦いに赴くきみにはうってつけだろう?」

 「わあ!凄いじゃない!レティ!!」

 「そ……そんな……わたくしのような者にこのような衣を……?」

 喜ぶ依那とは裏腹に、レティは感極まって涙目になっている。

 「いいのですよー。聖戦の時には、勇者たちとともに戦ったエルクに青の剣が、トーレに黒の杖が、オルカに白の衣が、そしてラルゴに赤の盾が授けられたそうなのですー。今回はー、黒の杖を傍観者に、白の衣をももいろに与えるですー。赤毛には青の剣をー……と言いたいところですが、青の剣はエルフの姫からカナンの王妃に渡った後、()()()()()()()()()()()()()()ですー。赤の盾も今はエルフの許にあるので、取り寄せると良いのですよー。もっとも、セオを宿した赤毛に必要かどうかは判りませんが―」

 「……おい、人をバケモンみたいに言うな」

 「あ」

 白の衣を抱き締めるレティを宥めるチュチュが、さりげなくアルをディスった?あたりで、当のアルが会話に乱入した。


 「お帰り、アル兄!カナンの会議って終わったの?」

 「……ああ、どうにかな」

 にぱっと笑うチュチュの髪をがしがしとかき回して、アルはため息交じりに空いていたソファに腰を下ろす。

 アルハルテ皇妃のシャノワ糾弾を受けて説明のためカナンの貴族議会に招集されていたアルは、会議が終わるや否や、すっ飛んで帰ってきたらしい。

 「……まったく……カナンの貴族どもには反吐が出るぜ。シャノワ殿の心配よりも、王位継承の心配ばっかしやがって……」

 ぶつくさ文句を言いながら眉を顰め、アルは乱暴な仕草で襟元を緩めた。


 「そ……そんなに……酷うございましたか?」

 「ああ……シャノワ殿の心配をしていたのはほんの一握り……それ以外の貴族どもはすでに次の王位のことばかりだ。特に、やたらオルグがシャノワ殿を誑かしたことにしたい奴らと、逆にシャノワ殿がトチ狂って魔王のとこへ押し掛けたふうにしたい奴ら……あれは国王派とナイアス派なんだろうな。まったく、王妃を亡くされたとはいえ、ゼラール王はまだまだ壮健だというのに…ウチ(エンデミオン)のやつらだったら怒鳴りつけてるとこだ」

 心配そうなミュリエル夫人とロザリンドにそう言って、アルはミュリエル夫人が淹れてくれたお茶を受け取る。

 「……おい、チュチュ。カナンの王城はお前の本体跡地に建ってるんだよな?その、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か?それ、ちょっとばかり開いてあの馬鹿ども、ぶち込んだり出来ないか?」

 据わりきった目でそんなことを言い出すあたり、本当にその貴族議会とやらは酷いものだったのだろう。


 「もー!!できるわけないのですー!赤毛といい、聖女といい、今回の勇者たちはどうしてそう発想が物騒なのですかー!」

 口を尖らせ、チュチュはテーブルに乗り上げるようにしてアルの口に甘いお菓子を突っ込んだ。

 「甘いもの食べて落ち着くですよー!」

 「いや……しかし、チュチュさん」

 いきなりお菓子を口に突っ込まれて目を白黒させるアルとけらけら笑うチュチュにちょっと慌てながら、ステファーノは持ち前の探求心を発揮する。

 「その、伝承ですが……本当に、地獄の門なんてものがあるのですか?カナンの王都に……」

 「そう……ですわね。もし本当にそんなものがあるなら…王都は危険…ということなのでしょうか……?」

 ロザリンドまでが不安そうに口を挟むのに、チュチュとナルファは顔を見合わせた。


 「……地獄の門……というのはないんだけど……」

 「……黒の世界樹が、()()()()()()()()()()()……というか、重し?になっていたのは事実なのですよー」

 ちょっと目を交わし合い、二柱の世界樹はそう言って居住まいを正した。

 



 「もう……遥か遥か昔のことなのですー。まだ人間が生まれたばかりでー……アルスが世界を統治していた頃の話なのですー……」

 レティが淹れ直してくれたお茶を一口飲み、チュチュは神妙な顔で話し始めた。


 「世界には、今いる亜人たち……聖戦で滅んだ亜人たち以外にもうひと種族、強大な種族がいたですー。それがギガンティス……巨人族なのですー」

 「巨人族は、身の丈5メートルにもなる巨大な一族でね。姿かたちは人間と変わらないが……怪力を持ち、そして乱暴で…残忍なところのある一族だった。彼らは、地上最強、亜人の王を名乗り、世界を我が物のように傍若無人に振舞っていたんだよ。巨人族からしたら、エルフもドワーフも小人同然だ。だから、気に入らないエルフを踏み潰したり、ドワーフを岩に投げつけて殺したり……暇つぶしに小人族や妖精族の手足をちぎって遊んだり……彼らの蛮行は、神々の目にも余るほどだったんだ」

 「……そんな奴らが、神々の寵愛を受けた()()()()()()()()()()()()のですー。巨人族は人間を憎み、神々にばれないように巧妙に虐め、時に事故を装って殺しましたー。でもそれは、すぐにアルスの知るところになったのですー」

 「アルス神と神々は巨人族を諌め、彼らを北の地……今のジヴァールに隔離したりもした。……だが、彼らは余計に怒り狂い、大陸に舞い戻っては人間を虐殺した……そして―――とうとう、()()()が来た……」

 「アルスがこの世界を離れる日―――それに先立ち、アルスは巨人族を滅ぼしたのですー。強大で尊大なギガンティスは、アルスが世界を去れば神々に戦いを挑み、世界をめちゃくちゃにしてしまうのは明らかでしたー。だから……アルスはその前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですー……」

 「そんな……」

 世界樹たちの語るもう一つの真実に、人の子たちは顔色を失った。


 「いくら最強の一族とはいえ、創生神の手にかかればひとたまりもありません―。ギガンティスは皆殺しにされ、彼らの亡骸は世界の背骨……ユーベルヌ連邦のひときわ高い峰に葬られましたー。そこへ葬ったのは、せめて高みから彼らが望んだ世界を見守れという、アルスのー親心だったのでしょう―。そして、巨人族の亡骸を弔うため―……なにより、その怨念を鎮めるため―()()()()()()()()()()()()()()()()のですー」


 「ええっ!?」

 「じ……じゃあ……じゃあ、カナンの王都って……」

 「()()()()()()()()()に建ってるってこと!?」

 「……そういうことになりますねー」


 思わず腰を浮かせた一同に、チュチュはあっさりとそう言った。




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