自分自身でいられる場所
「…………わかって……いるのです。わたくしが…王妃の器ではないことは……」
長いこと黙り込んで、イズマイアはぽつりと呟いた。
「お母様は…どうあってもお二人に気に入られ、王妃の座を射止めろとおっしゃいますが……わたくしは…可愛げもなく…」
「いや、イズマイアさん可愛いでしょ!」
聞き捨てならなくて、依那は突っ込んだ。
「ちょっとツンが強いけど親切だし、デレが判りにくいだけで」
「…エナ姉さま、話が進みませんわ」
ツンデレを力説する依那をバッサリ斬って、レティはイズマイアを促す。
「……殿下はお二人とも本当に素敵です。いつも穏やかで、お優しいオルグ殿下、型破りではありますが、明るい太陽のようなアル殿下。…お慕いしていないと言えば、嘘になりましょう。ただ…お二人が素晴らしすぎて、わたくしはお傍にいさせていただくと、申し訳なくなってくるのです。こんなわたくしが……家柄くらいしか取り柄のないわたくしが…母の命とはいえ、お二人に近づいて良いものかと…」
「イズマイア様は、十分魅力的ですわよ?」
イズマイアの肩に手を置き、レティは彼女の顔を覗きこむ。
「正直申しまして、以前のわたくしは少しイズマイア様が苦手でした。いつも颯爽としてらっしゃって、お言葉がきつくて。でも、エナ姉さまがいらっしゃって、エナ姉さまと話すイズマイア様を見ていたら…この方、ちょっぴり不器用なだけで、本当はお優しくてお可愛らしいのだな、と思うようになりました」
「そっ……そんなことございませんわ!わたくしが優しいとか……レティシア殿下は買いかぶっておいでです!」
レティの言葉を大慌てで否定するイズマイアの顔は耳まで赤い。
そゆとこが可愛いんだよな~
あわあわするイズマイアに、姫様と聖女様はちょっと和む。
「……でも……」
ふ、とイズマイアは目を伏せた。
「ステファーノは…全然違うのです。あの人は昔から鈍くさくて、不器用で……オルグ殿下のようにてきぱきと物事を進めることも、アル殿下のように自由に馬を走らせることもできません。高いところに咲く花を取ってくれようとして落ちたり、猫を追って茨の中に突っ込んだり、軍隊蜂に刺されて死にかけたり……七つも年上ですのに、わたくしがしっかり見ていないと、フラフラどこかへ飛んで行ってしまいそうなのです。……それなのに…何故でしょうか。ステファーノといると、息をするのがとても楽なのです…」
「……イズマイアさんは、ステファーノさんの傍だと、自然体でいられるんだね」
母からのプレッシャーを受け続け、正しくあろうと、王妃に相応しくあろうと、彼女はすっと気を張り続けているのだろう。………だけど。
依那が言葉を続けようとした瞬間。
軽いノックの音が響き、談話室のドアが開く。
「失礼いたします。聖女様、姫殿下、お嬢様。お茶の支度が整いましてございます」
そこには、恭しく礼をするヨハンソンの姿があった。