それぞれの幸せ
「……でもさ、実際どうなの?イズマイアさん、オルグ兄と結婚したいの?」
「え…っ…」
ド直球な質問に、当事者三人は虚を突かれた。
「ソ…ソータ様、それは…」
「だってそうじゃん?まあ、姉ちゃんのことは横へ置いとくとしても、オルグ兄とレティは兄妹だから、結婚できないでしょ?だったら、アル兄とレティ、オルグ兄とイズマイアさん、ってのが一番ありそうな組み合わせだよね?」
「ソータ様?」
一生懸命考えました!という顔の颯太の肩を、がしっと掴む、白魚の指。
「わたくしは、星女神ヴェリシアに仕える身なので、無理です」
「え?でも……」
「わたくしは、無理、です」
にっこり。
「う…うん…」
背中に暗雲背負って微笑むレティの迫力に、颯太は負けた。
「……そこまで嫌がらんでも……」
可愛い従姉妹の強硬な拒絶に、ちょっとアルが凹む。
「……この国に、オルグレイ殿下やアルトゥール殿下に憧れぬ娘などおりませんわ」
「いや、憧れじゃなくて!結婚!」
「ちょっと、颯太!」
「だって、イズマイアさん、ステファーノさんが好きなんでしょ?」
食い下がる颯太を止めようとした依那に、肩を掴まれたまま、颯太はこともなげに言った。
「べっ……別に好きじゃありませんわ!!ステファーノなんて!」
途端に耳まで真っ赤になってイズマイアは叫ぶ。
「ステファーノは……その、腐れ縁と申しますか…危なっかしくて鈍くさいから、わたくしが見ていないと駄目なんです!ちょっと目を離すと、風船のようにどこかへふらふら行ってしまって、怪我して帰ってくるんですもの!それだけですわ!」
「じゃあ、今回の試練で、ステファーノが手柄を立てた場合、爵位と花嫁を与えても問題ないな?」
「……え……」
「アズウェル伯爵家は、長男のパトリック殿が継ぐ予定だ。いくら優秀でも、三男のステファーノに爵位は回ってこない。だったら、手柄に応じて、それなりの爵位を与えるのはおかしい話じゃないだろう?」
「そうですね、ステファーノは私より二つ歳上です。身を固めてもよい年頃ですね」
「…それ……は……」
二人の言葉に、イズマイアは先ほどの赤い顔が嘘のように青ざめた。
「……お前なぁ」
その震える肩を見て、アルは大きなため息をつく。
「いい加減、認めろよ。ガッチガチに礼儀作法にうるさいお前が、ステファーノが試練に同行するって聞いただけで、これだけのことをしでかしたんだ。恐ろしいお母様も無視してな。…これで想いがないと言って、誰が信じる?」
「でも……でも、わたくしは…王妃に…なれと……」
「私やアルが、あなたを友人としか見られなくても、ですか?」
俯いて顔を覆ってしまったイズマイアに近づき、オルグは優しく言う。
「イズマイア。よく、考えてください。マレーネ殿の幸せではなく、あなた自身の幸せを。……友人として、私もアルも、あなたの幸せを願っていますよ」
「……殿下……」
イズマイアにもう一度微笑みかけて、オルグは従兄弟を振り返った。
「……さて。では、ここは女性にお任せして、私たちは明日の準備にかかりましょうか。騎士たちの受け入れもありますし」
「……だな」
「はぁい…」
なんとなく釈然としなさげな颯太もつれて、男性陣は部屋を出ていく。
そして談話室には、依那とレティと、押し黙るイズマイアだけが残された。