見守る人々
一方、リュドミュラは、最後の試練の準備のため、王宮を訪れていた。
「…では……ソータ殿は勇者として覚醒した…と」
「ええ。アルも呪縛を断ち切ったようですわ」
「………そうか…」
人払いをした執務室で、リュドミュラと向かい合うゼメキスは、深い溜息をついて目頭を押さえる。
「……そうか……あの子が……良かった。本当によかった…」
「……あなたも辛い思いをしましたね」
慈愛を込めたリュドミュラの労いに、ゼメキスはかぶりを振る。
「…私の嘆きなど……あの子を置いて逝かねばならなかった、兄上と義姉上の嘆きに比べれば、何ほどのものでもあるまいよ」
だが、11年前、最悪の形で最愛の兄の死を知らされて、ゼメキスがどれほど嘆き苦しんだかを、リュドミュラは知っている。
瀕死のアルを手許で見守ることもできず、何の心構えもできぬまま、王位を継ぐしかなくて…オルグとレティという支えがなかったら、ゼメキスも闇に堕ちていたかもしれない。
「では、…聖剣の試練を……」
「ええ」
王の言葉に、リュドミュラは躊躇いもなく頷いた。
「勇者と聖女が召喚されたことは、魔王も把握しているとみるべきでしょう。アーサー様の肉体を使っているならなおさら……奴が聖剣を奪おうとする前に動くべきですわ」
「しかし……ソータ殿はまだ幼い。試練に耐えうるかどうか…」
「大丈夫ですわ。……それに、あの子とエナ殿ならば、聖剣に選ばれるとわたくしは確信しておりますの」
「ほう…」
自信に満ちたリュドミュラに、ゼメキスは驚いたように顔を上げた。
「そなたがそこまで言うとは珍しい。……もはや、猶予はないのだな?」
「……ええ」
「して、試練には誰を向かわせる?」
「エナ殿、ソータ殿は当然として、レティ、アル…そしてオルグを向かわせます」
「……二人とも、か」
「……ええ。……魔法、剣術、体術……経験値も、すべてにおいてアルの方がオルグを上回っております。ですが、アルには……」
「……魔王につけられた傷がある…と」
「……ええ。アルが決戦に耐えうるか…それは見極める必要があるでしょう」
「…判った。では、手配をしよう」
「あら……王太子を二人とも試練に行かせるのは困る、と反対されるかと思っておりましたわ」
「これで一人も生きて戻れぬようなら、魔王の蘇ったこの時代に王たる器はあるまいよ」
苦笑するゼメキスに、リュドミュラも微笑みを返す。
「では……よろしくお願いいたしますわ。それから……」




