依那の召喚
日も暮れようかという午後7時。
依那はキャンプ場の駐車場に自転車を停めた。
颯太がいなくなって以来、ずっと立ち入り禁止のテ―プが張られ警官が見張りをしていたが、今は誰もいない。
これ幸いとテ―プをくぐり、依那は奥へと進んだ。
そんな馬鹿な、と思いつつも「神隠し」の話が頭を離れない。
ありえないけど……馬鹿らしいけど、でももし本当だったら。
………颯太を見つける手掛かりがあるかもしれない。
そう思ったらいてもたってもいられず、颯太が消えた時間と同時刻を狙って一人でここへ来たのだ。
「………颯太――!!!」
大きく息を吸って、夜の闇に叫ぶ。
「颯太!どこにいるの!颯太!」
……10秒……30秒…………1分。
たっぷり3分間待ったものの、何も起こらない。
「…………ですよね~……」
がっくりと肩を落として、依那はため息をついた。
もしかしたら、とは思ったが、そう簡単にうまくいくはずがない。呼んだくらいで出てくるなら1週間も山狩りする必要ないよな。
「…やっぱ、なんか条件とか必要なのかな……お供えとか?」
独り言を言いながら視線を流した、そのとき。
光が、舞った。
ふわりと……淡い、柔らかな光。
「………ほたる?」
いや、ほたるじゃない!
明らかに通常とは違うその光は一瞬消え、それからふわふわと漂うように沢に向かう。慌てて後を追う依那の前で、光はひとつ、ふたつと数を増し。
沢のほとりの少し開けた場所に出たころには無数の光の粒が依那のまわりを舞っていた。
「……なに……なんなの……?」
ふわふわと舞い飛ぶ光はやがてひとつに集まり…………水の上に一人の少年の姿を象った。
「!!颯太!!」
思わず伸ばした手が少年を取り巻く光に触れた、瞬間。
爆発的な光が依那を取り囲んだ。
あまりの眩さに目を閉じた依那を包み込み、光は天と地を結ぶ。
そして次の瞬間、光は跡形もなく掻き消えた。
何事もなかったかのように虫が鳴き、かすかな風が梢を揺らす。
そこに依那の姿はなく。
静かな夜だけが続いていた………。