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白い少年

 リュドミュラが手を挙げた瞬間。


 水面に小さなさざ波が立つと同時に、水舞台は数倍の大きさに広がった。外周を走っていた颯太が悲鳴を上げる。

 「アル、オルグの組手の相手を。レティはわたくしと。エナ殿はこの子がお相手いたします」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、依那の目の前の水面が盛り上がり、10歳くらいの少年の姿になった。

 白いスタンドカラーのシャツに白いスカーフ、白い上着。白のひざ丈のズボンに白い靴下と白い靴。おかっぱのような髪も肌も、すべて白一色の少年だった。 

 ぺこりとお辞儀をして顔を上げ。依那をじっと見つめた、その目だけが鮮やかに青い。

 「!」


 その青い目を細めて笑った――と思った瞬間。


 少年は声もなく飛びかかってきた。顔めがけて飛んできた腕を右手でガードする。

 「ちょっ……ちょっと!待って!」

 だがその声が届いていないかのように少年は第二撃、三撃を繰り出してくる。

 回し蹴りを左手でガードすれば、じぃん、と左手が痺れた。

 子供とは思えない威力と素早さに思わず引いた足が足首まで水没する。

 「やばっ…」

 一瞬足の方に気を取られた隙を逃さず突っ込んできた少年の一撃を受けて依那は吹っ飛ばされた。

 「エナ姉さま!」

 悲鳴のようなレティの声を聞きながら倒れこんだ身体は一度水没し、水面に打ち上げられた。


 ……そうか。これが。


 これがリュドミュラの言っていた修練、というやつか。

 この――魔力の集中を途切れさせれば水没する、水舞台で戦う。


 ちらりとレティを見れば、リュドミュラと魔法戦を繰り広げていて、その向こうではオルグとアルが組手を行っている。

 どちらも実戦さながらの真剣さで、オルグの唇の端が切れて血が滲んでいるのは、アルの攻撃が当たったからだろう。

 ちょっと首をかしげて依那を見て、また飛びかかってきた少年を避けて、素早く立ち上がる。ついでに自分に治癒魔法をかけるの忘れない。


 つまり、この子もただの子供ではないというわけで。


 「エナ殿、その子はわたくしが作った修練用の自動人形(オートマター)。自我もなく、痛みも感じません。遠慮していると、ただではすみませんよ!」

 リュドミュラの言葉を証明するかのように、少年が飛びかかってくる。

 「……とは言われても~!!」

 さっきより速度を増した攻撃を必死で躱す。


 子供相手だとか、そんなこと気にする余裕もなく。

 依那は少年の猛攻を必死で凌ぐのみだった。

 

 

 

 

 「つ……疲れた………」

 午後遅くになって、第一回目の水舞台の修練は終わりを告げた。


 結局、颯太は一日水舞台の外周を走り、リュドミュラが飛ばすエルクを避けるという、地道な鍛錬で終わっていた。

 「…リュドミュラ様…おさすがですわ…」

 魔法が尽きるまで魔法戦を繰り広げたレティも、疲労困憊で、ぐったりソファに寝転ぶ颯太の隣で肘掛け椅子に懐いている。


 「わたくしなんて、途中からソータ様のお相手をする、片手間でしたもの」

 「私も随分と手加減されてたような気がします」

 一日中、格上の相手と組手を続けたオルグも、その当の従兄弟から回復魔法をかけられつつ肘掛け椅子に沈んでいる。

 「なんであなたは、そんなに平然としてるんでしょうか…」

 「まぁ、俺は水舞台慣れてるから。ハンの王宮にも似たようなのあったしな」

 恨めしそうに言われて、アルは苦笑する。でも、多分一番ばてているのは。


 「……大丈夫?ねーちゃん……」

 自動人形少年と闘い続けた依那は夕食も食べられないほどに疲れ果ててソファに同化していた。

 「もう……あの子、強すぎ……」


 あのあと。


 猛攻を始めた少年は、ひたすらに依那を翻弄した。

 一応、こちらの攻撃も当たるのだが、もともとが水であるらしい彼は、その攻撃を吸収するか受け流してしまい、ろくにダメージも与えられなかった。

 まあ、痛みを感じないというのは本当らしいから、それはそれでいいのだが。

 

 「あの子って、リュドミュラ様が動かしてるのかな」

 「自動人形っておっしゃってましたから、直接動かしているのではないでしょうが……リュドミュラ様の魔法で動いているのは間違いないでしょうね」

 

 ……やっぱ、リュドミュラ様、パねえ。

 

 「……とりあえず、明日はオーちゃんに負けないようがんばろっと」

 「オーちゃん?」

 「オートマターのオーちゃん」

 「……ねーちゃんて名付けのセンスないよね……」

 「っるっさいわ!」



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