表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/840

月の夜 2

 

 ……さて、困った。

 

 さんざん泣いてわめいて、叩いて。


 腹の底に抱えていた思いをぶつけて、ようやく少し落ち着きを取り戻した依那は、この状況に頭を抱えていた。

 少し前から涙は止まってる。正直、気は済んだし、むしろちょっと叩きすぎたかもしれない、とも思う。


 だが、アルの胸に顔を埋め、抱き寄せられたこの状況をどう脱すればいいというのか?

 教えてなおちゃん!!


 ここにはいない乙女ゲーマスターの友人に助けを求めるくらいに依那は混乱していた。なんか、涙の代わりに変な汗が出そうだ。


 「……なぁ……」

 ややあって、依那が泣き止んだのに気づいたらしいアルが申し訳なさそうに声をかけるのに、びくぅっと依那の肩が跳ねた。

 「どうでもいいが……鼻水たれてんぞ、お前」

 「言い方ぁ!!」

 デリカシーのかけらもない物言いに、真っ赤になって手を突っ張る依那の顔を、ぐしぐしと夜着の裾で拭いてやり。


 「よし」

 「何が『よし』よ!」

 何故か得意げなアルの手をべしっと払いのける。


 「……ひでえなあ」

 わざとらしく叩かれた手を擦りながら、アルは内心ほっとしていた。この規格外聖女は、このくらい気が強いほうが見てて安心する。


 「リュドミュラ様も、お前みたいな聖女は初めてだろうなぁ」

 「悪かったわね、規格外で!」

 しみじみ言われて、うきーっと反応したところで、依那はふと思いついた。


 「リュドミュラ様と言えば……3人の聖女を見送った……んだよね?」

 「そうだな。この800年で3度、召喚が行われている」

 「ってことは、3回も勇者と聖女が戦って、一度も魔王に勝てなかったの?それとも、別々の魔王なの?」

 「いや…魔王は一人だ。3回撃退して…そのたびに復活したってのが正しいな」

 「魔王って復活すんの!?」

 「魔王はその魂を体外に隠していてな。そのせいで魔王の肉体を滅ぼしてもいずれ復活すると言われている。……まぁ、この辺は明日…もう今日か。リュドミュラ様の授業で習うだろ。この話はソータも一緒に聞いた方がいい」

 「………うん」

 なんとなく釈然としないまま依那は頷いた。


 びゅう、と強い風が吹く。

 「もうすぐ夜明けだ。少し寝とけ。多分今日は実技が入るぞ」

 身を震わせた依那に気づいたのか、ばさりと上着が頭から被せられる。


 「アルは寝ないの?」

 「俺はもう少しやることがあるからな」

 「……わかった…」

 空を見上げれば、ずいぶん月が傾いている。言われた通り、もう少し寝ておいた方がいいかもしれない。

 「…おやすみ。……ありがと」

 小さく礼を言って、室内への扉をくぐる。


 なんとなく、よく眠れる気がしていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ