神憑き
「禁忌…ですか?」
恐る恐る聞く依那に、リュドミュラは重々しく頷いた。
「……禁忌の関わり方……それは、『神憑き』といいます。いいですか、絶対に…絶対に、神をその身に宿してはなりません」
「……神を……」
「宿……す……?」
顔を上げたリュドミュラの恐ろしいほど真剣な瞳に射抜かれて、二人はごくりと固唾を呑む。
「……神様を…宿すと…どうなるんですか……?」
「エナ…!」
震える声で問いかけた依那に、慌てたようにアルが制止の声をかけるが、リュドミュラは片手を上げて彼を止めた。
「……神を宿した人間は、おそらく九割以上の確率で死に至ります。神の力は人間の身に受け止められるものではありませんから。……でも、ごく稀に波長が合ってしまった場合……受け止めてしまった場合……その人間は、…………わたくしのように、なるのです」
「……え……」
わたくしのように、なるのです
その言葉の意味が脳に浸透した瞬間、依那は絶句した。
「わたくしは、はるか昔、弟を助けるために湖の精霊サリエラをこの身に宿しました。しかし……力の暴走で、結局は弟を救うことも叶わず…人の身に過ぎた力を持つがゆえ、人として生きることも叶わず、こうしてただ永らえております。この身は老いることも、死を選ぶこともできません。ただ時間が尽きるのを待つのみなのです」
「…そんな……」
「ただの精霊を身に宿しただけで、この状態なのです。神を宿せばどうなるか…想像はつくでしょう?もちろん、普通の人間では神を宿そうとすることすらできません。でも、勇者や聖女なら。あなた方なら、あるいは神や精霊を宿せるかもしれない。わたくしはそれが恐ろしいのです。こんな苦しさを味あわせたくはありません。覚えておいてください。神を宿せば、たとえ魔王を倒しても元の世界へ戻れなくなるのです。愛する人たちとも別れ、ただ時の果てるのを待つだけになるのですから」