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神隠し?

 「………日夜7時ごろ………行方不明になった沢井 颯太君はいまだ見つからず………」


 画面を流れるテロップを、ぼんやりと眺める。

その後ろに映し出されたのは、笑顔の少年の写真。


 ………颯太って、こんな顔だっけ……


 見飽きるほどに見慣れた顔のはずなのに、画面越しの笑顔はまるで他人のようで。女性キャスタ―の話す言葉もまるで頭に入ってこない。


 颯太がいなくなって1週間。


 県警の大掛かりな捜索も、マスコミを通じた呼びかけもむなしく、颯太の行方は一向につかめなかった。

 最初予想されたような身代金要求の電話もなく、かかってくるのはマスコミかいたずら電話ばかりで……世の中、こんなに暇人が多いのかとげんなりするほどだった。


 だが……それでも最初のうちはまだましだった。報道も常識的で依那たちに同情的だったから。


 いつのころからか、混ざりだした悪意に満ちた中傷。

 人の不幸を愉しむ連中にとって、依那たちは格好の獲物だった。

 個人情報を特定され、ネットに晒され。勝手な憶測で母を責め、挙句に母が颯太を殺したに違いないと決めつけて、正義の味方気取りで騒ぐ輩まで現れた。

 そのころから挑発的な言動で責め立てたり、パパラッチのようなマスコミも増え始め、とうとう母は心労で倒れた。

 かわるがわる様子を見に来てくれるご近所さんや、前田たち父の同僚の支えがなかったら、依那だってどうなっていたかわからない。

 重い溜息をついて、依那は立ち上がった。


 病院、行かなきゃ。お母さん待ってるし……


 入院中の母に持っていくものを頭の中で考えながらテレビを消そうとして、依那はふと手を止めた。

 「目撃情報ではありませんが、颯太君が行方不明になった日、山の方で何かが光ったという証言が複数寄せられているんですね……」

 訳知り顔のコメンテ―タ―の言葉。光。


 ……そういえば、キャンプ場近くで聞き込みしてた時、一瞬光の柱が立ったって言ってたおじいさんがいたっけ。

 昔、一度だけ見たことがあるって。何十年も前、あの山で子供が神隠しにあって……その時に見た光と一緒だったって………


 「………神隠し……」

 そんな馬鹿な、と理性が告げる反面、胸の奥がざわざわする。


 なんの痕跡も残さず消えた颯太。まるで……神隠しのように。


 「……何馬鹿なこと考えてるのよ、しっかりしろ!依那!」

 自分に言い聞かせるように呟いて、テレビを消す。ぱん、と自分で頬を叩いて気合を入れ、依那は母の入院する病院に向かうため家を出た。

 数は減ったものの、さっそく話しかけてくるマスコミに無言で会釈し、自転車で走り出す。

 颯太を探すため、やるべきことは山ほどあった。

 

 ……でも、もし。

 ……もしも、神隠しだとしたら……颯太を取り戻す方法はあるんだろうか……?

 

 


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