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竜の試練 3

 手合わせを終えて、ラウは愉し気に笑った。

 

 「さて。……これで竜の試練は突破としようと思うが。異存はないかの?リュドミュラよ?」


 唐突に顔を上げて言い放ったラウに、驚いてあたりを見渡すと、観覧席の中ごろに佇むリュドミュラ皇太后の姿があった。

 「……まぁ、良いでしょう。それにしても、あなたはどうしていつもそうせっかちなのですか。まだこの子たちには何の説明もしていないというのに」

 ため息をついて、リュドミュラはとん、と軽く地を蹴った。そのままふわりとラウの隣に舞い降りてくる。

 「ソータ殿、エナ殿。お二人の戦い、見せていただきました。朝からこのせっかちがご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 「あ、いいえ」

 慌てて首を振る姉弟だったが。


 ……この人、エンデミオンの皇太后らしいけど……ラウさんとどういう関係?


 「どれ、ソータ。手を出せ」

 「え?うわっ!」

 いまいち状況がつかめない颯太に、ラウは最初に抱えていた身の丈ほどの大剣を寄越してきた。結構な大きさに颯太がよろめく。

 「褒美だ。聖剣ほどの力はないが、大きさや重さが聖剣と同じ、竜の剣だ。我が一族に伝わる名剣よ。竜の試練を突破した証として、ぬしにくれてやる」

 「え?ちょっと、ダメだよ!ラウさん、大事なものなんでしょ?貰えないよ!」


 慌てる颯太に目を丸くして、ラウは大声で笑い出した。


 「これは……愉快愉快。歴代の勇者の中で、竜の剣を大事なものだから貰えないとぬかしたのは、ぬしが初めてだぞ、ソータよ」

 ぽん、と颯太の肩に手を置く。


 「良いか、ソータ。魔王と闘うため、勇者は三つの試練を越えて聖剣を手にせねばならぬ。これはその第一よ。竜の剣は聖剣を手に入れるために必要なものゆえ、大事に扱うが良い。…そして、覚えておけ。必要とあらば、たとえ人間が相手でも倒す覚悟がなければ、大事なものを護ることはできぬ、とな。エナ殿も、だ。意図する以上の効果が発揮されたとしても、それはすべてぬしらの力。力を自覚し、正しい使い方を学べ。……良いな?」

 「……はい!」

 「はい!ありがとうございます!」


 

 「……って、いい感じに締めたとこ、悪いけどよぉ……」


 不意に、地獄の底から響くような低い声がした。


 「なに朝から勝手にドンバチぶちかましてんだ、このクソジジイ!!」

 「あだだだだだだだっ!!!」

 背後から突如出現したアルがラウの両こめかみを拳でグリグリ痛めつけ始める。

 「おとなしく!してろって!言っただろうがっ!昨日の今日でもう耄碌したか!」

 「痛い痛い痛い!!酷いではないか!不敬だぞ!アルト!」

 「不敬だぁ?人んとこの修練場ぶっ壊しといてどの口が言うか?あぁ?」

 「いひゃいいひゃいいちゃいといふに!」

 「あああアルト!その辺でもう!ラウ様!!」


 今度はほっぺたを引っ張り始めたアルに、さっきまでのクールさはどこへやら、ラウの周りでクラウがおろおろと取り乱している。


 「お二人とも、お怪我はございませんか?」

 「あ、オルグさん」

 「私たちは大丈夫ですけど……」


 どうもアルと一緒に来たらしいオルグが、二人の無事を確認してほっと息をつく。

 「修練場の方で凄まじい気の爆発がありましたので、転移魔法で駆け付けたのですよ。まさか、あの御仁がちょっかいだしているとは思いませんでしたが……」


 普段のオルグらしからぬ、剣呑な目つきで睨んだ先では、やっとアルの手から逃れたラウを庇うクラウに、アルが文句をつけている。


 「まったく……お前がついてて何やってんだよ」

 「そうは言うがな、アルト。ラウ様は勇者殿と聖女殿のために竜の試練をな」

 「はぁ?気が早すぎんだろうが!ジジイ!」

 「ジジイと言うでない!この小童が!まったく、図体と一緒に態度もでかくなりおって。シナークにおった頃は、あんなに可愛い童だったというに……」

 「そんな昔の話はこの際どうでもいいですよね。ラウ様」

 なぜか背後にブリザード背負ってオルグが三人の言い争いに参戦した。

 「もう来よったか、オルグ……」

 「ええ、参上しましたよ。()()()()()()


 にっこり。


 いつものように穏やかに微笑んでいるのに、目が笑ってない。

 「試練には事前通達が必須、というしきたりのはずですが」

 「相変わらず頭が固いのぅ。少しはアルトを見習わんか」

 「アルの柔軟さは素晴らしい資質ですが、アルに自由にしていただく分、私がしきたりを重んじる必要がありますので」

 「かーっ、固いのう。ぬしの方がよほど爺のようだ」

 「残念ながら、私はまだ若々しい21歳ですよ。見た目は少年でも400年も現役続けてるご老体とは違います」


 バチバチバチッと、目に見えない火花が散った。

 笑顔で睨み合うオルグとラウを中心に気温がググっと下がった気がする。


 いったい何、見せられてんだろ?あたしたち。


 目の前で繰り広げられる修羅場?に姉弟が手を取り合って怯えていると。


 「……お前らなぁ……」

 盛大なため息をついて、アルが右腕でオルグの肩を抱いた。左手でラウの肩を抱き寄せる。

 「なんでそう会うたびケンカすんだよ。見ろよ、ソータもエナもクラウも困ってんだろが」

 「「……だって……」」

 アルに叱られて、オルグもラウもしゅんとする。

 「…まぁ、やっちまったもんはしかたない。……で?どうだったんだ、ラウ。二人は合格か?」


 ソータが竜の剣持ってるとこ見ると、ソータが合格なのは間違いないだろうが。


 「無論、エナ殿も合格だな。二人とも、竜の民が加勢するに不足ない」

 「そうか」

 ホッとしたように笑うアルに、ラウは片眉を上げてみせる。


 「エナ殿は、自分の意志で簡単な言霊を操れるようだ。ソータも……面白い。浄化と再生を発動させたと聞いておったが、我との手合わせで、純粋な攻撃の意志を発動しよったぞ。……まぁ、言霊が『姉ちゃんはやらーーーん!』だったのがアレだが」

 「うわあああああ!言わないでぇぇぇっ!」

 触れられたくない話に颯太は真っ赤になる。


 だってしょうがないじゃん!姉ちゃんを攫ってくって言われたんだもん!


「仲良きことは美しきかな、だが。これはアレだろう?()()()()、と言うのだったか?」


 ………シスコン。

 

 時代劇みたいな物言いの、ラウの口から出たカタカナ言葉(しかもシスコン)に思わず颯太と顔を見合わせて、依那は噴き出した。

 「ねーちゃん!!!!!」

 「ごめ……っ……悪…っ……でも……シスコンって……シスコンって」

 なんだかツボにはまってしまって、笑いを止められない。


 「ソータ殿、判りますよ。姉や妹はどうあっても護りたいですよね!」

 シスコン仲間のオルグが颯太を励ますのが笑いに拍車をかける。


 「酷いですよ!ラウ様!いたいけな若者を虐めないでください!」

 拗ねる颯太を抱き寄せて、頭を撫でながらオルグはラウに噛みつく。

 「修練場の修理費用、ハン族に請求させていただきますからね!」

 「ああ、良い良い、好きにしろ」


 肩を竦め、ラウは一同に背を向けた。


 「慎重なのも良いが……時間はあまりないぞ。判っておるな?リュドミュラ」

 「もちろんですわ」

 「……ならばよい。ではな、アルト、オルグ、ソータ、そしてエナよ」

 振り返ってにっと笑い。

 「近いうちにまた会おう」

 そう言って、ラウはクラウを伴って空に舞い上がった。


 「……本当に……いつも勝手でせっかちなんですから。あの方は…」

 彼らが去っていくのを見送ってぼやくオルグの肩に、ぽん、とアルの手が乗る。

 「……帰るか」

 「そうですね。……朝ごはんがまだでしょう?お二人とも」

 「ごはん?」

 言われたとたん、颯太の腹が大きな音を立てて。

 「帰りましょう。レティが心配していますよ」


 くすくす笑うオルグに促され、一同は王宮へと転移したのだった。 



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