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星祭りの後に


 「………なんだか…なぁ……」


 ローブを脱いで、お風呂に入って。

 それでもまだ気分が晴れなくて、依那は部屋のバルコニーからぼーっと空を眺めていた。

 相変わらず降るような星空は美しく、いつまででも眺めていられそうだ。


 ………でも。


 「浮かぬ顔だな、聖女殿」


 幾度目かのため息をついたとき、突然頭上から降ってきた声に、依那は驚いて顔を上げた。

 「この星空に、そのような辛気臭い顔は似合わぬであろう?」

 「え……と……ラウ王子…殿下?」

 頭上の空間に立ったまま依那を見下ろしていたのは、ハン族のラウ王子だった。

 「ラウで構わぬよ。聖女殿。先刻見事な歌を聴かせていただいた礼にな」

 「あ、じゃあ私のことも依那で」

 「よろしい、エナ殿」

 言いながらラウは依那の目の前まで下りてきて、やはり空中で胡坐をかいた。

 「…空に男が浮いていても驚かぬとは。胆が据わっているな、エナ殿は」

 「飛行魔法ってやつですか?それとも…ドラゴニュートだから?」

 「直球だな」


 からりと笑って。


 「ドラゴニュートだから、だな。種族固有の飛行能力だ。我は魔法が苦手ゆえ」

 「そうなんですか?」


 ということは、生まれつき空が飛べるってこと?いいなぁ。


 「あ、立ち話…浮き話?もなんですから、お入りになります?」

 ふと相手の身分に思い至って声をかけると、ラウは小さく噴き出した。

 「聞いた通り、警戒心の薄い娘だの。夜中におぬしの部屋に入ったとあっては、我がアルトに恨まれよう」

 「アルト?」

 「おぬしらの王子よ。アルトゥールのことだ。我が一族では、二文字の名は王族にのみ許された名ゆえ」

 「そうなんですね…あ、でもそうすると私の名前も駄目ですか?」

 「そうさの、おぬしが我が花嫁になれば、王族となるがの?」


 くい、と人差し指で顎を掬われて、依那はマッハで壁際まで逃げた。


 「ごごごごごご冗談を」

 壁にへばりついてどもる依那に、ラウはバルコニーの外で爆笑する。

 「なるほど、初心な娘だ。冗談よ。異世界からの来訪者にまで一族のしきたりを押しつけはせぬよ」

 「……もう~」

 揶揄われたのだと判って、依那は口を尖らせた。

 「私を揶揄いにいらしたんですか?ラウ様」

 「いや、おぬしに()()を言いたくてな」

 「へっ?」

 難しい顔をして、ラウは腕を組んだ。


 「おぬしのせいで、ナイアスの顔を見るたび『エロワカメ』が浮かんで笑いそうで難儀したぞ。どうしてくれる」

 「なんっ…」


 何で知ってるのか、なんて聞くまでもない。

 あの赤毛、人様に何を吹き込んでるんじゃ!


 「え……と。どうもすみません……?」

 「ちと誠意が感じられぬが、まぁよいわ。我らは、明日国へ帰る。その前に、ひと手合わせ願えぬか?エナ殿よ」

 「手合わせ?」

 「聞いたぞ。初対面でアルトを投げ飛ばしたとか。我ら一族は武勇を誉れとする。おぬしと弟、ぜひ手合わせ願いたい」

 「はぁ……」

 そんなこと言われても、とちょっとだけ悩む。


 でも、なんだかんだで騎士団と格闘術とかやってるし、今更お淑やかぶってもしかたないし。

 何より、夜会やなんかで溜まったフラストレーション、ちょっと発散させてもらえるのはありがたいかもしれない。


 「判りました。ご期待に沿えるかは判りませんが、お相手させていただきます」

 「ふむ、よしよし」

 お辞儀をすると、ラウは満足そうに笑ってぽん、と依那の頭に手を乗せた。

 「では、明朝迎えを寄越す。今宵はゆっくり休むが良い」


 …あ……れ……?


 その瞬間、抗えないような睡魔が襲い掛かってきて。

 挨拶をする間もなく依那の意識は眠りに飲まれた。

 

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