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いちゃいちゃが始まった!


 「あああああつっかれたぁぁぁぁ~」


 永遠に終わらないんじゃないかとも思えた挨拶ラッシュを終え、何人かとはダンスもして。

 「……顔の筋肉引きつってる~」

 「1年分の愛想笑い使い切ったよね」


 部屋着に着替えた姉弟は、二人して依那のベッドにひっくり返りながら嘆く。


 「オレ、お城の舞踏会って優雅なもんだと思ってたけどさ」

 ベッドの上で胡坐をかき、上半身のストレッチをしながら颯太はぼやく。

 「座る暇もご飯食べる時間もないし、ずっと愛想笑いしてなきゃだし。……王族って大変だね」

 「おうよ、判るか?この苦労」

 正装の上着を脱ぎ、シャツの襟元を寛げたアルがソファに深く凭れながら言うのを、

 「5回に1回しか出てくださらない方が言わないでくださいませ」

 お茶を淹れながらレティが睨む。


 「まぁ、とにかく二人ともお疲れさん。特にエナ殿はよく我慢したな」

 「我慢したよ~ほんと、殴りたかった!」

 ねっとり手を握られた感触を思い出して依那は身震いする。

 「うん、ほんと、ねーちゃんよく我慢した」

 隣で見てただけで鳥肌立ててた颯太も思い出して腕を擦る。

 「オレ、いつ左フックが出るかとヒヤヒヤしたもん」

 「まぁねえ。いくらエロワカメでも公爵様だし、殴っちゃアウトかなって」

 

 エロワカメ。

 

 その単語がナイアスと結びついた瞬間、アルとレティは盛大に噴出した。


 「…エ……エロ…ッ……エロって…」

 ぶわはははははとアルがテーブルを叩いて身悶えれば。

 「ワッ……ワカ…ワカメって………ワワっ……ワカメ…」

 レティは座り込んで顔を覆って笑い泣いている。

 「……従兄妹だねえ……」


 オルグさんそっくり。


 「あ、そだ」

 一族揃って笑い上戸か、と思いかけて依那はふと大事なことを思い出した。

 「ねえ、夜会の時に王家の席にいた白髪の美女って誰?」

 「へ……は?」

 「ふえ?」

 笑いすぎて肩で息をしながら、二人は同時に顔を上げた。

 「白髪の美女って言うと…」

 「リュドミュラ様でしょうか」

 「リュドミュラ?」

 「リュドミュラ・ベルヌ・エンデミオ皇太后陛下です。……と、申しましても……正確には皇太后…ではないのですが……」

 「普段は南の離宮に住んでおられるからな。まあ、そのうち嫌でも顔を合わせると思うが……」

 「?」

 奥歯にものが挟まったような口ぶりに、姉弟が首を傾げたとき。


 「失礼いたします」

 軽いノックの音がして、オルグが顔を出した。

 「オルグ兄様、終わりましたの?」

 「おかげさまで何とか。すみませんが、私もお茶をいただけますか?レティ」

 正装の襟を寛げながら、オルグはアルの隣に腰を下ろす。

 「お疲れ様です、オルグさん」

 「個別会談だったんだっけ?」

 「ええ……まぁ、接待ですね。ダーヴィン商会の取引の話は外せなくて…」

 「王太子の務めとはいえ…大変だな」

 「いつでも代わって差し上げますよ?むしろ、あなたが第一王太子でいっこうに、これっぽっちも、まったくもって構わないんですけど?」


 ぽんぽん、と肩を叩くアルの髪をひと房掬い取り、軽く口づけながらオルグがぼやく。

 「……ほんとに疲れたんですよ~ア~ル~~~」

 「ああ、よしよし」

 アルの肩に甘えるように頭を擦り付けるオルグと、よしよし、とその髪を撫でるアル。


 「オルグ兄様、本当にお疲れですのね…」

 突然始まった美形二人のいちゃこらに、固まる姉弟とは裏腹に、レティは平然とため息をついている。

 「レ……レティ、あれっていつもなの?」

 「あれ?」

 言われてレティは首をかしげる。

 「オルグ兄様が甘えられるのはアル兄様だけですから……疲れが頂点に達すると時々、ああなりますわね」


 平然とおっしゃいますが。


 キラッキラのあんちゃん二人がお花畑でキャッキャウフフしてるのを目の当たりにして、平然としていられるものだろうか。自分もキラキラの一人だからOKなのか?


 「……そういえば、ソータ殿、エナ殿。星祭りが終わりましたら、是非お茶会にお越しいただきたいと、リュドミュラ様が」

 「お茶会?」

 「……いろいろと…お話ししたいと…おっしゃって………アルの…とか……」

 「オルグ?おい、ここで寝るなよ」


 アルの肩に凭れかかって話をしていたオルグがだんだん寝そうになっている。


 「おまえ、飲んだろ。……弱いんだから気ぃつけろって言ってんのに……」

 とうとうアルの膝で寝息を立てだしたオルグの髪を梳きながらアルはため息をついた。

 「…じゃあ、こいつは俺が連れて行くから。お前らもそろそろ寝ろよ。明日は昼からパレードだ」

 よっ、とアルは寝てしまったオルグを抱き上げる。そのまま戸口に向かい、そこで振り返った。

 「……それから。外部の連中がまだ滞在しているからな。……気を抜くなよ…」

 そう言いおいてアルは出て行った。

 「アル兄、力持ち~」


 自分とほぼ同じ身長の成人男性を平然と姫抱っこする当たり、確かに力持ちだが。感心するとこ、そこか弟よ。


 「星祭りの式典って、暗くなってからだっけ?」

 「はい。お昼のパレードは王宮前広場から、市街を一周してアルス神殿までですから……だいたい一時間ちょっとくらいでしょうか。そのあとは広場でいろいろ催し物がありますが、エナ姉さまやソータ様にご参加いただくものではございません。もちろん、見物なさるのは歓迎ですが。お二人に参加いただくのは日暮れからになります」

 「催し物って何やるの?」

 「いろいろですわね。各地の代表団が舞踊を披露したり…名物料理を振舞う屋台が出たりもいたします」

 「見に行っていいの?」

 「はい。では、護衛を手配いたしますわね」

食い気味な颯太に、レティはにっこり微笑む。

 「あたしは……」

 「申し訳ありませんが、エナ姉さまは式典の予行演習がありますので……」

 「ですよね~~」

 がっくり肩を落とす。


 いいんだ。ちょっと言ってみただけだから。

 なんてったって、星祭りの式典は依那が主役だ。


 進行はもちろん神官長のサーシェスが執り行うし、現在聖教会の実質的なトップであるレティも補佐には入る。だが、メインで星に祈りを奉るのは聖女である依那の役目なのだ。

 ううう、どうせ召喚するなら、星祭りの後にしてほしかった……!(切実)


 あー、逃げたい。


 「エナ姉さま、わたくし、楽しみで寝られそうにありませんわ!」


 でも、こんな美少女にキラッキラの眼差しでワクワクされたら、今更嫌なんて言えない。


 「………善処しま~す…」

 少々遠い目になりながら、そう答える依那だった。



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