表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/840

夜会 2


 国王に呼ばれて、来賓に紹介される。

 まずは、各国の代表から。


 北の隣国、リーヴェント共和国のアルフレド・エンバーノーグ国家元首と奥様のオリビアさん、娘のビビアナちゃん。

 ついで商工会代表だというオリバー・ダーヴィン。昨日のイズマイア勉強会で教わった、リーヴェント一の大商人だという男だろう。

 続いて東のシナーク連邦国から、ハン族の王子ラウ・ハン、プルーナ族の女王エドナ・プルーナ。

 つまりは龍人族の王子様と魚人族の女王様だ。

 ラウ王子は額に黒曜石みたいな綺麗な角があるが、青い髪のエドナ女王は外見的には人間の美女にしか見えない。


 事前に教えてもらっておいてよかったぁ!


 微笑んだまま、依那は心の中でイズマイアを拝む。

 教えてもらっていなければ、異種族なんて気が付かなかっただろう。

 そういう風習がないらしいハン族の王子を除いては、予想通り男性はみんな手の甲に口づけという挨拶をしてきたが、指輪のおかげで何とか乗り切れそうだ。

 ―――だが。


 ほっと一安心しかけたとき、()()()はやってきた。


 「西の隣国、カナン王国のゼラール・ヴォイド・レイ・カナン国王、ご息女のシャノワ・ウルド・レイ・カナン王女。そしてお従兄弟にあたられるナイアス・メギド・ル・カナン公爵」

 「これはお美しい聖女様じゃ。先ほどは見事なダンス、眼福でしたぞ」

 にこにこと人のよさそうな国王が依那の手を取り、手の甲に口づけを落とす。

 その次は王女かと思ったら、おどおどしている王女様を無視して、なぜか公爵と紹介された男が依那の手を取った。


 仕立てのいい黒の正装に、大きな赤い宝玉の嵌った金のサッシュ。軽くウェーブのかかった深緑色の髪を、背中に流している。

 三キラの中で一番背の高いサーシェスと同じくらいの長身で、気怠げというか、退廃的な雰囲気の男だった。例のごとく、とんでもない美形だ。

 野心があって、次期国王になる予定の公爵とは、こいつのことだろう。恋多き男、というのもそれっぽい。

 「……本当に、素晴らしいダンスでした。あんなに素晴らしいダンスを見せられては、お誘いする勇気が挫けそうです」

 アイスブルーの瞳を細めながら、手入れされた指先で依那の手の甲をつつ……っと撫でる。


 ぞわぞわぞわぞわ~~~~~~~っ!!!と依那の背中が総毛立った。

 間違いなく、袖の下は鳥肌が立っている。


 「…あ……あの……公爵様…?」

 「公爵などと……どうか、ナイアス、とお呼びください。美しい聖女様」

 艶然と微笑まれ囁かれ。その間もずっと依那の手を握ったまま。指先だけがひどくゆっくりと依那の肌を這っている。


 ぎょええええええ何こいつ気色悪いぶん殴りたい!


 「おや…これは…」

 衝動を必死で抑えている依那の苦労も知らず、ナイアスはさも今気づいたというように、依那の指輪に目を止めた。

 「これはこれは……美しい指輪だ。美しい方には美しい宝石がお似合いですね」

 にっこり微笑んで、ナイアスは依那の手の甲に唇を寄せた。

 「……いつか、わたくしからもこの指に宝石を贈らせていただけますか……?」


 依那の手の甲にあてた唇を薬指の付け根まで移動させ、そう囁くナイアスに依那の忍耐が限界に達しようとしたとき。


 「……おっ……おやめください!お兄様!」


 ナイアスの後ろで震えていたシャノワが必死の声を上げた。

 「お……お戯れが過ぎます。せ……聖女様が……困って…おいでです…」

 同時に、オルグが後ろからナイアスの肩に手を置く。

 「公爵、お戯れもその辺で。そちらの姫様を困らせるものではありませんよ?」

 「……やれやれ、無粋だね。我が従姉妹殿は」

 一瞬オルグを睨み、ナイアスは肩を竦めて依那の手を離した。

 「大変失礼いたしました。聖女様。あまりにも魅力的な方で、わたくしとしたことが、我を忘れてしまったようです」

 丁寧な礼をして、立ち上がる。

 「もしよろしければ、後でわたくしとも踊っていただけると至上の喜びです。……オルグ殿下も従姉妹がご心配をおかけして申し訳ありません」

 流し目で言いおいて、ナイアスは国王やオルグにも礼をし、背を向けた。

 お辞儀をし、その背を追うように去っていくシャノワを見送って。


 「ねーちゃん?」

 「エナ殿!」


 カナン一行が退出して、気が抜けて。思わずへなへなと座り込んだ依那を、颯太とオルグが慌てて支える。


 「や、……大丈夫。ごめんなさい、ちょっと気分が」

 「急に大勢の人に会われてお疲れになったのでしょう。少し、お休みになった方がよろしいですね」

 「う……うん」

 「さ、聖女様」

 オルグが促し、レティが手を引いて席に着かせてくれる。

 渡された冷たい果実水を一口飲んで、依那はほう、と息をついた。

 知らないうちに緊張して喉が渇いていたんだろう。


 疲れた。おなかも空いたし、もう帰って寝たい。お風呂入りたい。


 だが、挨拶待ちしている来賓たちを見ると、そんなことも言い出せず。


 もう一口果実水を飲むと、頑張って来賓の相手をしている颯太に加勢すべく、依那は立ち上がった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ