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夜会 1


 翌日は、見事に晴れ渡った晴天だった。


 星祭りは二日間。

 今日は祈りの儀式と前夜祭の夜会があり、本番は明日。市内のパレードと星祭りの式典だ。

 どうにか一日目の祈りの儀式を終え、依那と颯太はいよいよ社交界デビュー?の時を迎えていた。


 「ねねねねーちゃん大丈夫?裾踏んでコケたり、スケベオヤジ相手でも殴っちゃ駄目だからね?」

 「ああああんたこそ!間違ってもどこぞのお嬢様の足踏むんじゃないわよ」


 大広間の扉を前にして、姉弟は借りてきたチワワのようにプルプル震えていた。


 「まあ、お二人とも。そんなにお似合いですのに」

 姉弟の前には薄桃色の髪をアップにして繊細なティアラを戴き、若草色の上品なドレスに白のサッシュという、まさに絵にかいたような美少女のレティと、そんな妹を優しくエスコートする、青の正装に白のサッシュ、いつもより少し高い位置で結った黒髪を青い宝玉のついた金の飾り櫛で留めたオルグという、直視できないほど眩い二人連れが並んでいる。


 さっきからオルグが一言も発しないのは、笑いと闘っているからだろう。多分。


 「しっかし、化けたよなぁ。お前」

 依那の隣では、もう一人の王子様が腕を組んで暢気に笑っている。

 「そっちこそ!」

 いつもは適当に括っている赤い髪を、片側だけ上げて緩く結い、赤い宝玉のついた金の飾り櫛で留めて、白の正装に金の縁取りのある青いサッシュというアルも、普段の倍増しでカッコいい。正直、隣に並ぶより、遠くから見て目の保養したい。

 「…大丈夫だ。無理に会話しなくていいからな。指輪もあるし、何かあったらオルグか俺を呼べ」

 「う…うん」


 ……指輪。そうだ、指輪だ。

 昨日アルが貸してくれた、御守り指輪。それは今もきらりと依那の指で輝きを放っている。


 朝になって、指輪を見たサットン夫人や有能侍女の皆さんが一瞬固まったり。

 「アル兄様がこれを?まあ!まあ!まあ!」

 と、レティが「まあ」しか言わなくなったり。

 「アル!?ちょっと来てください!アル?!」

 などと、オルグがアルを走って呼びに行ってしまったり。

 外そうとしてもびくともしないあたりも含め、呪いの指輪疑惑が拭いきれなかったりもするのだが。

 それでも、あの指輪がエリアルドたちの口づけを防いでくれたのは実証済みだ。

 

 「……よしっ!行くよ、颯太!」

 「おうっ!」

 

 姉弟は気合を入れなおし、大広間の扉をくぐった。

  

 

 壮麗な大広間はたくさんの灯りで明るく照らされていた。

 広間の奥の一段高くなっているところには、国王をはじめ王族の席が設えてある。

 夜会は基本的には立食形式で、一方の壁際に御馳走が並ぶテーブルがあり、座って食事をしたい人用の椅子やテーブルが用意されている。広間の片隅には楽団席があり、静かな音楽を演奏していた。

 広間にはすでに結構な数の来賓やら貴族やらがいて、その間を侍女や小姓が忙しく立ち回っている。

 そんなお偉いさんの只中を、第二王太子であるアルに手を取られて歩くのは、気が強いと自認している依那でさえ緊張するものがあった。


 「あ」


 そんな中、ピンクを基調としたドレスを着たイズマイアの姿を見つけて、つい小さく手を振ると。

 「余裕じゃねえか、聖女様?」

 こそっと耳許に囁かれ、とりあえず軽く肘を入れておく。

 導かれるままに王族と同じ席に座らされ、次いで国王と神官長の入場、国王の挨拶と続く。


 「ではご紹介いたしましょう。異世界より召喚に応じられた勇者、ソータ・サワイ殿、そして聖女エナ・サワイ殿。お二人は先日王都近くに出現した『穢れ』を消滅させるなど、すでに目覚ましい功績を上げておられる」

 国王の紹介に二人は立ち上がって礼をする。

 「おお、あの方々が…」

 「まだ子供ではないか」

 ざわざわとどよめきが広がり、値踏みするような視線を浴びせられて、居心地悪いことこの上ない。

 「……?」

 その中でも一際異質な視線を感じて依那はぞくりと身を震わせた。


 ……なに?……これ…


 『穢れ』とは違う……でも同じように(おぞ)ましい……というか、気持ち悪い感じ。


 知らず身を引こうとした瞬間、ふわりと右手の指輪が暖かくなって、怖気づきそうになった依那の身体を包み込んだ。

 「ねーちゃん?」


 ……そうだよ。何ビビってんのあたし。


 しっかり顔を上げ、依那は逆に一歩踏み出した。颯太の手を握って。

 「ご紹介にあずかりました、依那と申します。弟の颯太ともども、微力ながら最善を尽くさせていただきます」

 「颯太です。若輩者ながら、精一杯務めさせていただきます。どうか、皆様のお力をお貸しください」

 声が震えないように祈りながら再度礼をすると、先ほどよりも大きなざわめきと拍手が沸き起こった。

 でしゃばりだったかな?と不安になりながらそっと様子をうかがうと、国王も王子様ズも誇らし気に微笑んでいて依那はほっとする。お姫様に至っては、目をキラキラさせて拍手に夢中だ。

 ふと、国王の隣にいる白い髪の女性と目が合って微笑まれる。


 ………だれ?


 オルグと同じくらいにも、依那の母と同じくらいにも見える。年齢不詳の美しい女性だ。雪のように白い髪を結い、紫の宝石を嵌めこんだ額飾り、同じ紫色のドレス。この席にいるということは王族の一人なんだろうけど、見覚えがない。

 不躾に見つめるわけにもいかず、会釈だけ返して依那は前を見た。


 やがて王の挨拶も終わり、ファンファーレのような音楽が響く。

 「ほら、出番だぞ」

 アルに手を取られ、依那は立ち上がり中央のフロアへ進んだ。


 王家主催の夜会では王族が最初のダンスを踊るのが恒例らしい。とはいえ、国王は踊らず、フロアへ出たのはオルグとレティ、アルと依那、そして。

 「イズマイアさん?」

 颯太のパートナーを見て依那はぎょっとした。先ほどちらっと見かけたイズマイアが、颯太に手を取られて立っている。

 「颯太~……頼むからイズマイアさんの足踏まないでよ~」

 「ソータは大丈夫だ。それよりお前は俺に集中しろ」

 「判ってるわよ!」

 ぎゅっとホールドした手を握られて、依那はアルを睨んだ。

 とはいえ、アルの言葉にも一理ある。集中、集中。


 依那が落ち着くのを見計らったかのように音楽が始まり、三組のペアは踊り出した。

 特訓の甲斐あって、依那も颯太も並み以上に踊れている。

 「上手くなったなぁ、お前」

 「おかげさまで」


 くるりとターンしながら感心したように言われて、ちょっと気分がいい。

 絶対裾を踏まないようにしよう!と決心した白いドレスの裾がふんわり広がるのにも心が躍る。

 だってほら女の子だし。


 「やっぱ先生がいいんだな、うん」

 「言ってろ!」

 自画自賛するアルにツッコむと彼は軽快に笑った。


 なんか、楽しいな。これ。


 楽しそうなアルにつられてか、依那も踊るのが楽しくなってくる。

 だんだん早くなる曲調につれて複雑になるステップ。特訓中、ついでにあれもこれもとどんどん難易度上げていったときに教わったステップだ。

 いつの間にか、依那も笑顔で踊っていた。

 ターン、ステップ、スピン、キック、シャッセ……そこでも一つターン。最後のターンをふわりとリフトされながら終え、フィニッシュを決めると、わっと盛大な拍手に包まれた。


 「素敵でしたわ!お二人とも!」

 一足先に踊り終えていたらしいレティが駆け寄ってくる。

 「あんなに難易度の高い曲を、三曲続けてなんて!」

 「は?」

 「いやぁ、いい汗かいたわー」

 驚いて見上げれば、アルはあっけらかんと笑っている。

 「ほら、戻るぞ」

 ばらばらとフロアに人が集まる中促されて王族の席に戻ると、愉快そうな国王に迎えられた。

 「見事であったぞ、三組とも。エナ殿、体力馬鹿のアルにつきあわされて大変だったであろう。すまんな」

 「いえ、そんな。恐れ入ります」

 いまいち状況の掴めない依那に、オルグが飲み物を渡してくれる。

 「アルは体力がありますからね。難易度の高い曲を立て続けに、となるとなかなかつきあってくれる方がいないのです」

 「はあ……」


 一緒に踊るのが楽しくて立て続けに踊っている自覚がなかったが……そんなに目立って大丈夫だったんだろうか。


 「これで、エナ殿がダンスの名手であることは皆に示しましたからね……ダンスを口実に近づこうとする者への牽制になったでしょう」

 「あ……」

 はっとする依那に微笑んで、オルグはイズマイアを伴ってフロアへ降りて行った。


 「エナ殿、ソータ殿。……よろしいかな」

 「はい」

 国王に呼ばれて立ち上がる。

 

 いよいよ、来賓との対決の時が来たのだった。



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