解放
「ラピアね、もともと、精霊だったの。でもお友達のエルクと一緒に、悪い人間に悪い薬飲まされて……魔獣に…なっちゃったの。ラピア、痛くて、苦しくて、死んじゃうかと思った。……でもね、一番つらかったのは…ラピアが魔獣になったの見て、おにいちゃん…クルムまで…魔獣になっちゃったの…」
ラピアは、まだ時折しゃくりあげながら、一生懸命言葉を紡ぐ。
「そしたら、エリシュカがラピアたち退治に来て……でも、エリシュカが助けてくれたの。エルクを人間に戻してくれて……クルムも……でもね、……でも……ラピアは…戻れなかったの。ラピア……レプトになっちゃった……」
唇を噛んで、ラピアは俯いた。
「クルムは…戻れたのに、ラピアが戻らないならクルムも戻らないって……一緒に…幻…獣…に……」
ぽたり、とラピアの涙がヒルトを濡らす。
「エリシュカは、いつかきっと戻れるって…いつかきっと、ラピアのほんとうの姿、見つけてくれる人が現れるって……でも、ラピア、人間が怖かった!エリシュカやエルクに酷いことして、人間なんか、信用できないって思ってた!チュチュと一緒に聖女の試練手伝ったけど……エリシュカ…死んでから……みんな…ラピア、怖いって……気持ち悪いって……だれも、ラピアに……ラピアに話しかけてなんか……くれな…っ…」
「……ラピア……」
思わず、依那は小さな精霊を抱きしめた。
………この子は。
酷い目に遭って死にかけて……異形の姿になって。
でもこの子は、きっと寂しかったのだ。誰かに見つけてほしかったのだ。
そして……もう一度、人間を信じたかったのだ…。
「……でも、聖女が見つけてくれた。ほんとのラピア見つけて、ラピアの宝物、ちゃんと取り返してくれた。……ありがと、聖女」
「……違うよ、ラピア」
腕の中で泣き笑いするラピアの頭を撫でる。
「あたしは、依那。聖女じゃなくて、依那。……友達はそう呼ぶよ?」
「………え……な……?」
「そう、え・な」
「……えな!」
そう言って、ラピアは笑った。お日さまみたいに、明るい笑顔で。
《 よっし、んじゃあ、そろそろ行きますかねぇ 》
その笑顔に満足そうにうなずいて、傍で声を上げて泣いているチュチュの頭をぽんぽんと撫で、ニーヴァはふわりと地に降り立った。
「へっ?どこに?」
《 何言ってんの、帰るんだよ。銀の泉に。まだ聖剣の試練が残ってんでしょーが 》
「あ」
《 忘れてたんかよ!とんでもねえな、こんどの聖女は!》
「違うのですよー、ニーヴァ様ー!」
チュチュが依那の右手にしがみついて言う。
「聖女じゃないのですー!エナなのですよー!」
「えなー!」
ヒルトを抱えたまま、ラピアが依那の左手にしがみついて笑う。
《 へいへい 》
肩を竦めて笑い、ニーヴァはそんな3人を見てパチン、と指を鳴らした。