再生
《 あ、ひでぇ。オレ、傷ついちゃうなー 》
「え……だって……」
神様にしては、あまりにも軽すぎるというか、なんというか。
疑いの眼を向ける依那に、ニーヴァはため息をついて、ふっと真顔になった。
《 では、これで信じるか?聖女よ 》
途端に彼から放たれる、圧倒的な神気。
それはまさに神のみが持ち得るほどの神気だった。
あの、始まりの場所で創生神の残留思念から感じたのと同じほどの。
思わず硬直した依那の前で、ふっとその気は霧散する。
《 まー、神気出しっぱなしだといろいろアレなんよ。これで納得してくれちゃった? 》
「は……はい。すみませんでした…」
まだ震えの残る指先を握り込んで、依那は謝罪した。
改めてニーヴァを観察する。
だが、やっぱり神様には見えない。というか、神様って、実体あるの?触れたりするの?
《 ……何故つつく 》
思わずつんつんと突いてしまったら、ニーヴァはものすごく微妙な顔をした。
「あ…ごめんなさい。神様見るの初めてだったんで…その、触れるのかなぁって…」
《 カノジョさぁ…変わってるって言われね? 》
「聖女はとっても規格外なのですよー!」
呆れたようなニーヴァに、チュチュがいらんことを言った。
「……その……なんで神様がここに……?どうして私を助けてくださったんですか?」
話を変えようとする依那の問いに、ニーヴァはにやっと笑う。
《 今度の聖女は面白れえっていうんでさ~。……でもまあ、その前に。やることがあるんじゃね?聖女 》
「…あ…」
ひょい、と腰の四次元袋を指さされる。
慌ててその中を確認すると、肝心のそれはそこにあった。
そうだ、何よりもまずこれを渡さなければ。
「…ラピア?」
まだぐすぐす泣いているラピアを離し、依那はその前に膝をつく。
「…せい…じょ…?」
「……お待たせ。はい、ラピアのたからもの」
そう言って、依那はラピアに四次元袋から取り出した、エリシュカのヒルトを差し出した。
「……あ……!!」
ゆっくりと、涙に濡れた瞳が見開かれる。
息を飲み、触れたら消えてしまうのではないかと恐れるかのように、何度も何度もためらって……ラピアは震える手を伸ばした。
「…エリ…シュカ……」
小さな手がそっとヒルトを受け取り、胸に抱きしめる。――かき抱く。
「エリシュカ…エリシュカ、エリシュカぁ!!」
涙ながらに叫び、ラピアがヒルトに涙に濡れた頬を寄せた瞬間。
銀のヒルトから暖かい光が溢れてラピアを包み込んだ。
「!!」
「ラピア!?」
柔らかな光の中で、ラピアの……レプトだった部分が溶けていく。
まるでラピアの髪を撫でるかのように、銀の光の粒子が舞う。
優しい風が、ふわりとその小さな体を抱きしめる。
やがて光が収まった時。
エリシュカのヒルトを抱えてそこに立っていたのは、あの時、依那が泉のほとりで見た、白いワンピースの小さな女の子だった。
「…あ……」
何が起こったのかわからないかのように、目を瞠ったまま少女は立ち尽くす。
「……ラ……ピア………?」
呆然と呟くチュチュの瞳に、みるみる新しい涙が溢れる。
「ラピア?!ほんとに、ラピアなんですね?戻ったんですねー!?」
「チュチュ!」
泣きながらチュチュがラピアに飛びついた。
「……そっか……あれが本当のラピアなのね……」
泣きじゃくりながら抱き合う二人を見て、依那もほっと息をつく。
《 やれやれ……3000年もかかったが…待った甲斐はあったねえ 》
その隣でニーヴァも大きく息をつき、ふわりと地上に降りてラピアの頭を撫でた。
《 どうする?……自分で話せるか? 》
優しく訊くニーヴァに、涙を拭ってラピアはしっかりと頷いた。