魔人の治し方
「いいこと?魔人にもいろいろあるの」
お茶を一口飲んで、キッチェは続けた。
「まず、望んで魔人になったヤツ。当然ながらこれは無理。『穢れ』に巻き込まれて魔人化したヤツ。かわいそうだけど、これも無理。ほんっっっっっっとに、ほんの僅か、前例があるからゼロじゃないってだけで可能性があるのが、『闇堕ち』したヤツと薬で魔人にされたヤツね」
「薬…?」
「キッチェさん!…でもそれは……その方法はもう失われたはずじゃ……」
「さすがに物知りね、傍観者。…まあ、強制魔人化の薬は邪法中の邪法だし、失われて久しいとは思うけど……魔王は知ってるからね。無いとは言えないわね」
眉を顰める颯太の隣で、ステファーノが異議を唱えるのに、キッチェは重々しく頷く。
「……薬って……?人を魔人に変える薬があるの?」
「まあ…かつて存在したとされています。製法があまりに下劣で非道なうえ、成功確率が低いので、ここ2000年以上使用された例がありませんし、製法自体が失われたはずですが」
「ともかく、この二つの場合には、ひとつだけ、元に戻す方法があったの。あたしが知ってる限り、これに成功したのは3000年前にたった1回。それ以降は失われた奇跡よ」
「3000年前……」
「まさか……それは……」
「必要なものは、3つ。魔人が光を見出すこと。魔人を心から愛し、復活を願う者の涙。そして……伝説の銀の細剣。その奇跡で、少年と少女と、人の王が救われた。その奇跡を行ったのは始まりの聖女と呼ばれる、初代聖女。大聖女その人よ」
「初代聖女って…聖教会に祀られてる、あの人?あの石像の?」
「そうよ、そのひと」
「じゃあ、無理っていうのは、その人がもういないから?ほかの聖女じゃ駄目なの?」
「まぁ、それもあるけど。その剣が、使えないのよ。もう」
「使えない?折れちゃったとか!?」
『 初代聖女の剣は…壊れては いない 』
炎を見つめたまま、クルムはぽつりと呟いた。
『 勇者の剣は、聖剣 オルト・ワルト。青の塔にある。でも …聖女の剣…銀の細剣 アルタ・ワルトは …… 』
「正確に言うとね。剣のありかも持ち主もわかってる。だけど、もうそれを手にする方法が無いに等しいの。あまりにも、条件が厳しすぎるから」
「うんうん、それで?」
真剣にキッチェの話を聞きながら、颯太はほとんど無意識に持ったままだったお菓子をキッチェに差し出した。
なんというか、お供えだ。
「気が利くじゃない!……まあいいわ。お菓子に免じて、むかしばなしを聞かせてあげる」
お菓子を抱え込み、キッチェは満足そうに笑ってそう言った。




