エリザベートの居室
「さあ、どうぞお入りになって、精霊さん」
踊るような足取りのエリザベートが依那を連れてきたのは、白い観音開きの豪華な扉のある部屋だった。
「ここは……」
「わたくしのお部屋よ。さ、楽になさって」
そこは、明るくてキラキラで、なんとも少女趣味に溢れた美しい部屋だった。
白地に金と淡い水色でうっすら花模様のある壁、高い天井、豪華なシャンデリア。
エンデミオンの依那の私室もかなり広いが、この部屋はその倍はある。
湖に面した壁には金の枠で縁どられた、大きなアーチ形の窓がいくつも並び、その窓に面して桜色のソファと猫足の真っ白いテーブル、少し離れたところに純白のカウチ。
別の壁面にもやはり金枠アーチ形の窓があり、奥まったところには少し色の濃いばら色のソファセットと盤面に花模様のタイルがあしらわれたコーヒーテーブル。
また別の壁面には大きな暖炉があり、その前にもばら色のカウチと豪華な絨毯、クッション。
足元は毛足の長い真っ白なラグで、汚しそうで踏むのも怖い。
ばら色の縁取りのある真っ白な衣装箪笥やら化粧台やらとにかくキラキラふわふわで、とてもこの部屋で楽になんかなれそうもなかった。
ともかく、依那は腹をくくっていた。
ここがどこかもエリシュカのヒルトがどこにあるのかもわからない以上、今はこの美少女から少しでも情報を得るしかない。
「さあ、ここにお座りになって?」
それにしても凄い部屋だなぁとあたりを見回していた依那の手を取り、エリザベートは窓の傍の桜色のソファへと依那を誘う。
「!!」
その手の冷たさに驚いた依那は、思わず彼女の手に視線を落とし……ぎくりとした。
エリザベートの右手に嵌る指輪―――それは、あの―――泉の底の女性の指輪と同じものだった。
「どうかなさって?」
「あ……いえ。綺麗な指輪だなって…」
不思議そうなエリザベートに、それだけを告げる。
「そうなの!この指輪は、とても大切なものですの!」
依那の言葉に、エリザベートは無邪気に笑って、大事そうに胸の前で手を組んだ。
「精霊さんは、生まれたばかりっておっしゃったわよね?エンデミオン公国にいらっしゃったことはある?」
「エン…デミオン…?」
「そう。カナンの、お隣の国なの。……まだ秘密なのだけど、わたくし、もうすぐエンデミオンの王妃になりますのよ?」
「え?じゃあオルグさんの花嫁に?」
思わず口走ってから、依那はしまった!と思った。オルグの名前を出したら、依那がエンデミオンを知っていることがバレてしまうではないか!
だが、エリザベートはちょっと口を尖らせて拗ねたように言った。
「まあ!違いますわ!わたくしが嫁ぐのは、アルフォンゾ様。王子ではなく、現国王のアルフォンゾ様ですわ」
「……え……」
「あんな黒髪の王子なんて、足元にも及ばないくらい、素敵な方ですのよ。本当に、おとぎ話の王子様みたい」
ぎょっとする依那にも気づかず、エリザベートはほんのり染まった頬に手を添える。
「そうだわ、こちらにいらして?」
言うなりエリザベートは立ち上がり、依那の手を引いて柱の向こうにあった白い扉を開けた。
「………うわ……」
そこは今までいた部屋とは対照的に窓の少ない部屋だった。
広さはさっきの部屋の半分くらいだろうか。
だが、その部屋の壁一面には、大小さまざまなたくさんの絵が飾られていた。
部屋の中央、扉の正面には等身大以上に大きなエリザベート自身の絵。
そのほか、数枚エリザベートを描いた絵が飾られてはいる。
だが、その部屋の大部分を占めるのは、赤い髪の青年の―――アルの絵だった。