初陣 2
前回に引き続き、グロい(かもしれない)表現があります。
深く息を吸い、目を閉じる。
『 光あれ 』
女性と颯太を背に庇うと、アルは抜いた剣を水平に翳し、左手の人差し指と中指を合わせてその刃にあてた。
『 古よりの契約により 汝我が盾となりて 我が敵を永久の 闇に封じ給え 』
静かな、だがよく響く声とともにアルの体から淡い光が湧き出し、赤い髪がふわりと宙を舞う。
光はやがて剣に集まり刃全体が眩く光り出す。そのころには赤く輝く波動がアルとその周りを包んでいた。
『 魔を封じよ! 』
そう叫んで男に向けた切っ先から光が迸り、消えかけた足元の魔法陣を上書きしていく。積層型の結界は男を包み、その動きを止めた。
「やった!?」
「いや…」
動きは止まったものの、男……男だったもの、の体はじわじわと変形を続け、もはやその姿は人というより魔物に近いものとなっていた。
「俺はあんまり結界系の魔法は得意じゃない。レティやエナならなんとかなるかもしれんが…俺では足止めと『穢れ』を出せないようにするのがせいぜいだ」
「結界……」
聖女が『穢れ』や魔物を封じたり祓ったりするのに使うという力…だっけ?
「殿下!加勢いたします!」
「エナ様と姫様ももうすぐこちらに!」
バラバラと駆け込んできた司祭たちが、アルの結界に重ねて結界を張っていくが、男の変貌は続いている。いや、むしろ速度を上げている。
「…駄目です!殿下!持ちこたえられません!」
「殿下だけでもお早く退避を!」
「くそっ…せめて、『穢れ』だけでも…」
じりじりと範囲を広げようとする紫の光に、司祭はアルの撤退を促すが、今ここでアルが抜ければ持ちこたえられないのは誰の目にも明らかだった。
「殿下、今しばらく足止めを。……ここは、私が」
「駄目だエリアルド!エナを待て!」
陣を敷いて戻ったエリアルドが、悲壮な決意を目に剣を抜く。
「姉ちゃん……」
思わずあたりを見渡した颯太の目に、聖法官に止められながらもこちらに手を伸ばして泣き叫ぶ子供の姿が映った。
「父ちゃん!やだ!父ちゃんーっ!」
「父ちゃん……なのか?」
結界の中で男の体はもはや顎のあたりまで紫のかさぶた――鱗に覆われている。
……いやだ!!!
こんなの嫌だ!
こんな悲しいの、こんな苦しいの嫌だ。
こんなのをなくすために、オレを呼んだんじゃないのか?姉ちゃんを巻き込んだんじゃないのか?
だったら……寄越せよ!オレに!こんな現実、ぶっ飛ばす力を!!
「!ソータ!」
魂の底から颯太が力を欲した瞬間。
天空から鋭い光が飛来して颯太を貫いた。
「…………あ………」
かっと腹の底が熱くなり、今までに感じたことのない力が湧き出してくる。
瞳の奥になんだかよくわからない模様が広がり、この力を使えとせっついてくる。
―――だが。
「大丈夫か、ソータ!」
「どうしよう!なんかできそうだけど、呪文がわかんない!」
「……おまえな……」
咄嗟に抜いた剣を握り締め慌てる颯太に、アルは肩を落とした。
「呪文なんざ、なんでもいい!勇者と聖女は独自の方法で魔法を発動させてた!なんでもいいからぶっ放せ!」
「なにその無茶ぶり!」
文句を言いながらも、颯太は男に向かって駆け出した。
穢れを祓う。
そして、あの人を、あの子の父ちゃんを、元に戻す…!!
「……っ痛いの痛いの、とぉん・でぇけぇぇぇぇぇっ!」
剣に渾身の力と目の奥の術式を乗せて、颯太は紫の光をぶった斬った。
『ギィィィィィィィィ!!』
耳では感知できないような絶叫とともに紫の光は霧散し、アルの結界に颯太の斬撃からあふれ出した青い光が共鳴して男を包む。
ボロボロと崩れるように鱗は剥がれ落ち、地に着く前に消えていく。背中の突起も溶けるように消えていき、光が収まった時には焦げたような地面の真ん中に無傷の男が横たわっていた。
「………は………」
空気が軽い。
先ほどまでの異質な感じはかけらもない。
どっと力が抜けて、颯太はその場に座り込んだ。
「ソータ!」
がばっとアルが抱き付いてくる。
「大丈夫か!怪我は?頭痛とか耳鳴りとか吐き気とかないか!?」
抱き付いておいて引っぺがし、頭やら体やらぺたぺた触診しだす……なんか、既視感あるのはなんでだろう?
「オレは大丈夫~…あの人は……?」
「大丈夫そうだ……やったな。凄いぞ、ソータ」
「オレ、かっこよかった?」
「ああ!すっげーカッコよかった」
太陽のように明るい笑顔に、本当に大丈夫だったのだと……悲しいことを防げたのだと実感する。
「あ……あれ……?」
安心したとたんにぽろっと溢れた涙が止まらなくなって、颯太は慌てた。
「…ああ、よしよし。泣け泣け。泣いちまえ。初陣だもんな。よくやったよ」
「……う……うぇぇぇぇぇっ…」
カッコ悪い!オレ!
そうは思うも涙は止められず。颯太は依那とレティが駆けつけてくる数分前まで子供のように泣きじゃくったのだった。




